乙女ゲーム短編集

karu

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モブは端にいたいのです。

優しさ

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「あぶない!!」

そう叫んだ私は怖くてぎゅっと目をつぶる。
彼がころされるとか、私がしぬとか...
そんなことじゃない。
ただ、目の前に大人の男が数人。
そのことだけが恐怖心を増幅させる。

その男の子は唱えた。
その少し高い声は希望の光のようにスッと私に差し込む。


「^~*:;+#’&、‘~^ー=:;」


私には聞き取れないような言葉を流れるように唱えた。
なんだろう?

少し気になっておそるおそる目を開ける。

すると、私の世界にはきらきらがあふれ出していた。
特に、彼の手からあふれ出ている。

そして私のすぐ横を風が吹き抜ける。

気付いた時にはおじさん達から血しぶきが飛び散っていた。
私は驚きすぎて声も出ない。

「っぎゃあぁぁぁぁ!」
「いたい゛いたい゛ぃぃぃぃぃ!」

一人の男は驚愕に見開いた目で小さな男の子を見つめ、
また違う男は痛み苦しみながら、初めて小さな男の子を脅威と恐れる。

だが、時はすでに遅かったということにおじさん達、基、男達は知ることになる。

もう既に男の子からは殺気が漏れ出ており、次の魔法の準備をしていた。
それでも、ただの作業のように淡々と準備を進める。

また、呪文のようなものを唱えようとする。

「だ、だめ!やめて!」

私は気付くとそう声を上げていた。
その男の子は初めて私の方を振り返る。
少し深い黄色の色をまとった瞳と視線が絡み合う。

「きれい...」

先ほどから見えている光が少し残った彼の周りが、彼の本来持っている魅力を引き出しているようだった。
多分、世間から言われるような美形などではないのだろう。
でも、それでも確かに私には美しく見えた。

すると、現実世界へ私を引き戻すように彼が言葉を発する。


「いや、君は彼らに襲われそうになっただろう?
こういうやつらはまた同じことをする。」

そう言ってきょとんとしている。

「い、いや!でも、おじさん達はそのつみを十分に受けたとおもうの!」
私はとりあえず殺そうとする行為をやめてほしくて必死に理由を探す。
なんでだろう?
たしかに、私はおそわれそうになったのに。

その男の子は私のごまかしに気付いたのか少し考える素振りをする。

「君は人が目の前で死ぬのが怖いのか?」

彼は私に問いかける。
いや、それは違う。
多分私はあんまりきにしていない。
だって、今までもたくさんしんだ人を見てきたから。
家の近くに住む人は私達と同じような貧困具合で知り合いが死んでしまうこともある。
それに比べて、ただきらいな人が死んで、血しぶきを上げたくらいじゃ心も動じない。

「ううん。ちがう。」

そう首をフルフルと振る。

彼はまた少し考える仕草をした後再び私に尋ねる。

「じゃあ、彼らがかわいそう?」



........................




あ.........。


そうかもしれない。

その彼の言葉はすとんと私に入ってきた。

「うん。」

そう私は真っ直ぐ彼の目を見て静かに答えた。
すると、じっと私を見つめる。

「でも、彼らは助けてくれてありがとうとは思わないだろう。
逆恨みされるかもしれない。
...俺は大丈夫だが君は...
死ぬかもしれないんだぞ。」

彼はそのきけんを考えているようだ。
人のために動ける優しい人だな。

でも...それでも!

この世にころしていい人間がいるとは思わない。

「おじさん達は見たところ生きるのもしんどいだろうに、私をおそうというはんざいをおかしてでも生きようとしてるんだもん。今回しぬような体験をするとその可能性を考えてもうしないと思う。かしこい人間なら。」

倒れて呼吸を必死にしているおじさん達に聞こえるように大きな声ではっきりと伝える。

じっと考えた後、彼はふわっと雰囲気が変わり、瞳が温和な光を灯した。

「そうか。君は賢いな。」

その一言を発すると私に背を向けて男たちの元に向かった。
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