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始まりは異国の風と共に
プロローグ4
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帰り道、家まで真っ直ぐ歩いていたはずだった。
しかし、いつまで経っても家には到着しない。それどころか、同じ道がずっと続いているように感じた。
それだけじゃない。迷路のように複雑化した通路、文字化けした看板。月明かりはいつの間にか絶えて、辺りは暗く、静まり返っていた。
ギチギチギチ
何かの軋む音が聞こえる。
それは聞いたことのある音、音の発生源は私の後方の道からだった。
———8つある真っ赤な瞳が、闇の中で光った。
全長が2mを超える蜘蛛が、鋭い爪を煌かせて歩み寄ってくる。
それは死の足音だ。
「うそでしょ…⁉︎」
その姿を確認するや否や、私は一目散に駆け出した。
背後からは巨大蜘蛛の足音と不気味な金切声が聞こえる。止まったが最後、切り裂かれるか食べられる。
その想像が脳裏に一瞬よぎって吐き気を催すが、頭をぶんぶんと振り思考を追い出した。
いつまでも続く道の中に見つけた、狭い裏路地へと私は踏み込んだ。
巨大蜘蛛の足は恐らく私より速い。この迷路みたいな裏路地で撒くのが最善手だった。
見たことの無い古い機械や、時代の違う壊れた西洋っぽいガラクタが散乱する細い道を一目散に走り回る。
何も考えずに、どんどん深いところまで入り込んでるとは、知らずに私はひたすらに走った。
走って、走って、走って。
そして———
「はぁはぁ、っ。逃げ切った…?」
路地の行き止まりで足を止めてしまうが、振り返ってもそこに巨大蜘蛛の姿は無い。足音も聞こえず、あの不気味な金切声も一切耳に届かなかった。
私はホッと安堵し、どっとした疲れからか、そのままその場にへたり込んだ。
何がなんだか分からず、パニックになっていた頭を少しづつ落ち着かせる。
それでも回らない頭と、上がった息を整えるために、息を大きく吸った。
しかし
「あっ、がぁっ…!」
吸った空気は、喉を焼いた。
否。空気に喉を焼く熱は無い、しかし焼けるほどの激痛が走った。あたりの空気には、薄らと紫色のガスが充満しており、おそらくソレが私の喉を焼いたのだ。
私はその場に倒れ込んだ。喉を抑えるように首を手で押さえて、息を吸わないように必死に口を閉じる。
這うようにしてこの場所から離れようとするが、顔を上げた目前には、私を見下ろす巨大な蜘蛛の姿があった。
「あ…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それからの事は、あまり覚えていない。
分かるのは、私の意識があることだけ。身体の感覚は無かった。
「あぁ、『GAME OVER』か?」
朦朧とする意識に、廃墟で見た天使が現れた。
私の顔を覗き込むような動作をして、凍てつくような笑みで1枚の羽を手に持った。
それを私の胸に抉り込ませて———
「ぐぁあああああああっああああああ!!!!」
「ハハッ!!地獄のような痛みだろう?魅せてくれよ、物語の顛末を」
楽しそうに天使は笑う。
全身を引き裂くような痛み、飛びかける意識の中で天使の羽が黒に染まるのを見た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ほのかな光を感じて、私は重い瞼を開いた。
木漏れ日が差し込むそこは、森の中だった。さっきまでの裏路地や人工物の気配は一切なく、ざわめく森の声しか聞こえなかった。
身体をゆっくりと起こし、状態を確認する。
焼けるようだった喉は回復し、大きく息を吸えば自然の気持ち良い空気が入ってくる。逃げる途中で擦り切った傷も、無かった。
思うところは山ほどあったが、とりあえず森の中を進んでみることにした。
少し進んだ先、森が開けた場所があった。
そこは崖になっていて、崖下の向こう側の景色が一目で綺麗に見渡せる場所だった。
———崖の向こう側に広がる景色は際限なく広がる蒼い空。緑の色は地平線の果てまで続いていて、空に浮く島々は異界の空であることを示していた。
遠くには一際大きな山岳、海の広がる場所にはこの場所からでも見える大きな岬があり、港町のようなものまで見える。
私の視界に映った空を飛ぶ生物は、大きな4対の翼を持ち双頭のドラゴンの顔をしたファンタジーな生物だった。
他にも宙に浮く水晶やモンスターの数々、現実ではあり得ないような光景が眼前に広がっていた。
「……っ」
私はその光景に圧倒された。
状況なんて関係無い、ただその私の知らない広く広がる美しい世界は、今まで感じていた灰色の世界を鮮やかに塗ってくれる感じがした。
広く、ずっと広く広がる世界。想像もしないような世界。
私は目を輝かせて、手を目一杯広げてこの世界を感じた。
「感じたことない、美しい世界」
ぽつりと言葉が溢れた。
それは自然と出たものか、あるいは心からそう言ったのか。それがどうあれ、世界から彼女は祝福されることでしょう。
暗い聖堂、祭壇の上の玉座で祈りと願いの間に揺れる者。
忠誠は岩のように重く、されど願いは相反し儚いもの。帝国の頂上で見据える先、それは破滅か。
堕天使は異邦の空を見上げて祈る。かの愛人に、憎しみと親愛を込めて。
立花が跳んだ先は異世界『アストルティア』
様々な想いが交差し、運命は動き始めました。
誰にとって何がハッピーエンドなのか。願いが交差すればするほど、それは糸のように解けなくなるもの。
複雑な螺旋の中にあることを、立花はこの時はまだ知りません。
しかし、いつまで経っても家には到着しない。それどころか、同じ道がずっと続いているように感じた。
それだけじゃない。迷路のように複雑化した通路、文字化けした看板。月明かりはいつの間にか絶えて、辺りは暗く、静まり返っていた。
ギチギチギチ
何かの軋む音が聞こえる。
それは聞いたことのある音、音の発生源は私の後方の道からだった。
———8つある真っ赤な瞳が、闇の中で光った。
全長が2mを超える蜘蛛が、鋭い爪を煌かせて歩み寄ってくる。
それは死の足音だ。
「うそでしょ…⁉︎」
その姿を確認するや否や、私は一目散に駆け出した。
背後からは巨大蜘蛛の足音と不気味な金切声が聞こえる。止まったが最後、切り裂かれるか食べられる。
その想像が脳裏に一瞬よぎって吐き気を催すが、頭をぶんぶんと振り思考を追い出した。
いつまでも続く道の中に見つけた、狭い裏路地へと私は踏み込んだ。
巨大蜘蛛の足は恐らく私より速い。この迷路みたいな裏路地で撒くのが最善手だった。
見たことの無い古い機械や、時代の違う壊れた西洋っぽいガラクタが散乱する細い道を一目散に走り回る。
何も考えずに、どんどん深いところまで入り込んでるとは、知らずに私はひたすらに走った。
走って、走って、走って。
そして———
「はぁはぁ、っ。逃げ切った…?」
路地の行き止まりで足を止めてしまうが、振り返ってもそこに巨大蜘蛛の姿は無い。足音も聞こえず、あの不気味な金切声も一切耳に届かなかった。
私はホッと安堵し、どっとした疲れからか、そのままその場にへたり込んだ。
何がなんだか分からず、パニックになっていた頭を少しづつ落ち着かせる。
それでも回らない頭と、上がった息を整えるために、息を大きく吸った。
しかし
「あっ、がぁっ…!」
吸った空気は、喉を焼いた。
否。空気に喉を焼く熱は無い、しかし焼けるほどの激痛が走った。あたりの空気には、薄らと紫色のガスが充満しており、おそらくソレが私の喉を焼いたのだ。
私はその場に倒れ込んだ。喉を抑えるように首を手で押さえて、息を吸わないように必死に口を閉じる。
這うようにしてこの場所から離れようとするが、顔を上げた目前には、私を見下ろす巨大な蜘蛛の姿があった。
「あ…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それからの事は、あまり覚えていない。
分かるのは、私の意識があることだけ。身体の感覚は無かった。
「あぁ、『GAME OVER』か?」
朦朧とする意識に、廃墟で見た天使が現れた。
私の顔を覗き込むような動作をして、凍てつくような笑みで1枚の羽を手に持った。
それを私の胸に抉り込ませて———
「ぐぁあああああああっああああああ!!!!」
「ハハッ!!地獄のような痛みだろう?魅せてくれよ、物語の顛末を」
楽しそうに天使は笑う。
全身を引き裂くような痛み、飛びかける意識の中で天使の羽が黒に染まるのを見た。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ほのかな光を感じて、私は重い瞼を開いた。
木漏れ日が差し込むそこは、森の中だった。さっきまでの裏路地や人工物の気配は一切なく、ざわめく森の声しか聞こえなかった。
身体をゆっくりと起こし、状態を確認する。
焼けるようだった喉は回復し、大きく息を吸えば自然の気持ち良い空気が入ってくる。逃げる途中で擦り切った傷も、無かった。
思うところは山ほどあったが、とりあえず森の中を進んでみることにした。
少し進んだ先、森が開けた場所があった。
そこは崖になっていて、崖下の向こう側の景色が一目で綺麗に見渡せる場所だった。
———崖の向こう側に広がる景色は際限なく広がる蒼い空。緑の色は地平線の果てまで続いていて、空に浮く島々は異界の空であることを示していた。
遠くには一際大きな山岳、海の広がる場所にはこの場所からでも見える大きな岬があり、港町のようなものまで見える。
私の視界に映った空を飛ぶ生物は、大きな4対の翼を持ち双頭のドラゴンの顔をしたファンタジーな生物だった。
他にも宙に浮く水晶やモンスターの数々、現実ではあり得ないような光景が眼前に広がっていた。
「……っ」
私はその光景に圧倒された。
状況なんて関係無い、ただその私の知らない広く広がる美しい世界は、今まで感じていた灰色の世界を鮮やかに塗ってくれる感じがした。
広く、ずっと広く広がる世界。想像もしないような世界。
私は目を輝かせて、手を目一杯広げてこの世界を感じた。
「感じたことない、美しい世界」
ぽつりと言葉が溢れた。
それは自然と出たものか、あるいは心からそう言ったのか。それがどうあれ、世界から彼女は祝福されることでしょう。
暗い聖堂、祭壇の上の玉座で祈りと願いの間に揺れる者。
忠誠は岩のように重く、されど願いは相反し儚いもの。帝国の頂上で見据える先、それは破滅か。
堕天使は異邦の空を見上げて祈る。かの愛人に、憎しみと親愛を込めて。
立花が跳んだ先は異世界『アストルティア』
様々な想いが交差し、運命は動き始めました。
誰にとって何がハッピーエンドなのか。願いが交差すればするほど、それは糸のように解けなくなるもの。
複雑な螺旋の中にあることを、立花はこの時はまだ知りません。
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