上 下
23 / 32
奪われた王国

二十三話目 *前哨戦開始

しおりを挟む
「王命?」


 千歳は亜空魔のメッセージに記された謎のスキルを聞き返した。


【スキル『王命』は人種の王のみが所持するスキルです。
 能力は国民に対して命令をした際に発動するスキルで、その命令を実行するための行動に能力向上等の付与がつきます。
 また、侵略スキルに対し耐性があるため、王命発動により侵略領域で死んだ者の蘇生はこれからできなくなります】

「めちゃくちゃ良いスキルなのに。なんで最初から使わなかったんだろう」


 敵の王は千歳がダンジョンマスターであることを知っているはずなのに、すぐさまダンジョンマスターに有効なスキルを使わなかったことを不思議に思った。


【自身のスキルの効果を知らなかったためと思われます】

「どういうこと?」

【この世界の住民は基本的に自身のスキルを見るためにはアーティファクトがなければ見ることができません】

「アーティファクト?」

【古代ダンジョンから見つかる。特殊な道具です】

「ふーん。...つまり王様はスキルを見るアーティファクトを持っていないのね」

【恐らく】

「そんな事は今はどうでもいいか。じゃあ、今から死んだら魂戻ってこないんだ」

【はい。ですが、現在はほぼ敵の掃討に成功しているのと、聖女と大神官の魔法の発動が間に合いましたので、即死以外は即時回復します】

「意外と早かったのね。大変みたいなこと言ってたのに。なら後は先輩達が王様を殺すのを待つだけか」





 敵の王がスキル『王命』を発動する少し前。千歳に迎え入れられた二人の先輩転移者は、王と王を守るようにして隊列を組むおよそ数千の軍隊を見据えていた。


「正直どこまで信用できると思った?」

「俺としてはあの帝国や、龍雅りゅうが達と一緒にあれ以上いるよりは安全だと思う」

「どうして?」

「彼女たちはここに来たばかりの僕たちみたいな状況だ。いや、僕たちよりははるかに良い状況だけど。そして何より、強いリーダーとそれを支える大人達がいる」

「でもきっと帝国と戦争するよ。彼女たち」

「きっとな。だが、恵も見ただろ、あの人たちのチートっぷり。俺達が浮かれてたのが馬鹿らしいほどのチートだろ」

「たしかにそうね。でも正直どっちが勝つかわからないくらい帝国も今や強いわよ」

「たしかにそうだが、もう乗り掛かった舟だ。それにめちゃくちゃ旨いものが出てくる船だぜ。乗らないわけにはいかないだろう」

「それもそうね。甘いものなんて転移して最初の頃くらいしか食べた記憶にないし。もうあの頃の生活には戻りたくないしね」


 天道真てんどうまこと天道恵てんどうめぐみは目の前の軍隊をただ見ながら会話していた。すると、後ろから話しかけられる。


「夫婦水入らずのところすまないが、準備ができたから始めろってさ」

「分かった。とおる。始めよう。そういえば、あの勇者くんはどうした?」

「さあな。透過の魔法をかけてやったら、どこかに行っちまった」
 
「そうか。あまり無茶をしないと良いが...。ひょうまなも準備は出来てるのか?」

「ああ、出来てるよ」

「わかった。じゃあ、後でな恵」

「うん。王のところで合流ね」


 そういうと、三人はバラバラの方向に移動し始めた。






 王と、水晶を見ている魔法使いがいた。


「現状はかなりの劣勢と見えます」

「生きている近衛は何人だ?」

「今感知できるのは、第一、第二、第三のみです」

「甘く見すぎたか?敵を」

「しかし、主力は国境に残して置かねばなりませんでしたし、まぁ、大丈夫でしょうオスカーがおりますから」

「あ奴さえいれば敵を殲滅してくれるか」

「ええ、できればもう一人『エレメント』のメンバーがいてほしかったですが」

「全く、女など産ませなければ良かった。このような事態を起こしよって」

「お気持ちお察しいたします。国王陛下」


 そんな会話をしていると、魔法使いが驚いた様子を見せる。


「バカな!」

「どうした!?」

「陛下。第二が死にました」

「死んだだと!。あ奴は闇魔法の使い手、逃げはしても死にはしないだろう」

「ですが、確かに魔力が消えました」

「くそが!」


 王が罵声を飛ばしたその時、王を守るようにして隊列を組んでいる軍隊の戦闘で巨大な音が響いた。


「奇襲だと!?。私の探知をどうやって!?」

「あなたが王様ですか?」

「ッ!?」


 魔法使いが驚いたのも束の間今度はほんの数メートル手前に見たことのない少年が立っていた。

 すぐさま魔法使いは王の前に出てその身を守ろうとする。


「何者だ?」


 王が突如として現れた少年に語り掛ける。


「僕の名前は真道外行しんどうなおゆき。この世界に呼ばれた勇者だよ」

「そうか、貴様が。どうだ...勇者というのなら王に使える気はないか?」

「僕は王でなく女神に仕えている」

「ダンジョンマスターのことか」

「ああ」

「仕方がない。ネルソンお前が相手をしてやれ」

「ご命令のままに」


 国王近衛魔導士ネルソンと、もうひとりの勇者である真道外行との戦いが始まる。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

魔王城での聖女生活~異世界に聖女として呼ばれましたが実は世界を守ってた魔王を聖女の力で助けます~

四乃
ファンタジー
 リンカ(本名:一ノ瀬 円《いちのせ まどか》)は異世界に聖女として魔王討伐のために召喚されたが、従属の術をかけられ強制的に戦わされつづけたため魔王との最終決戦目前でキレた。そして魔王はほっぽって日本に帰ろうとした。  しかしその世界は滅びかけていて、崖っぷちで滅亡を防いでいるのが実は魔王?  ついには魔王城に連れて行かれ…  聖女の力で滅びかけの世界を魔王サイドから救う、そんな魔王城での日常とシリアスと少しずつ進む恋の話。 *恋愛要素は徐々に進みます。 *第二部冒頭に第一部のあらすじのってます。 2022.8.21 あらすじ修正しました。 2022.5.15 タイトル名変えました。 元のタイトルは 「聖女ですが、嘘つき魔王と異世界救います〜異世界で聖女なのにこき使われ帰ろうとしたけど実は世界を守ってた魔王をほっとけず聖女の力で助けます〜」です。 またアルファポリスさんでも投稿しています。

処理中です...