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第128話 おねショタができない
しおりを挟むユーニアの工房を出た俺たちは、その日のうちに『死者の檻』を解除するべく西の方角へと向かうことになった。道中、俺の腕をつかみながらユーニアは眉をひそめた。
「アンクが大きくなったのは嬉しいけれど、もう小さいアンクを見られないと思うと悲しい」
「なにいってんだこいつ」
途中、ユーニアがセクハラしてくる以外は目立った異常は無かった。夜になったところで行進を中断し、キャンプを作って火を囲みながら夕食を食べた。
ユーニアの酒癖の悪さはまったく変わっておらず、途中の野営キャンプでも散々に飲み散らかして、俺とリタに悪絡みし始めた。
「アンク、小さい頃は可愛かったなあ。『ゆーにあ、ゆーにあ』って私の後をちょこちょこ付いてきたもんな」
「そんなことはしていない。俺がユーニアに弟子入りしたのは10歳だぞ。思い出を捏造するな」
「背も私より小さかったし、ちんちんに毛も生えていなかった」
「見るなよ……」
そういえば一緒にお風呂に入った記憶もある。
ユーニアは酒瓶を飲み下すと、今度は隣に座るリタの方を見た。
「リタも可愛かったなー。泣き虫で甘えん坊で。今はキャラ変わっちゃったけど、子どもの頃に戻した方が良いんじゃないの。今の姉御っぽさより、可愛げある方が男にモテるよ」
「そ、そうかな」
「そうだよ。第一、お姉さんと師匠って属性かぶってるから」
「それが本音か……」
「かぶってるから」
「真顔で言うなよ」
ユーニアが言った目的の場所には、まだ瘴気が立ち込めているところもあり、夜は行進を中断せざるを得なかった。
周りには人の気配はなく、当然泊まるところはない。
仕方がないので、俺たちは自分たちで火を起こして、簡単な料理を作った。リタが作ったチキンの香草焼きを食べると、ユーニアは顔を輝かせた。
「リタも料理うまくなったなー。うまい……!」
「へへーん。師匠のくそまず料理のおかげで自分は料理上手くなろうと決めたんだ」
「え、私、そんなに料理まずかった? 自分では結構自身あったんだけど」
「まずかった」
「くそまずかった」
「ひどいなぁ」
「川魚の砂糖詰めとか」
「あったあった」
料理が壊滅的に苦手なユーニアは、食事を任せると決まってゲテモノ料理が出てくる。本人の味覚には問題が無いのに不思議だ。
そんな愚痴を言うと、ふいにユーニアは目に涙をためて泣き始めた。
「しくしく」
「あ、ちょっと言いすぎたよ。悪い」
「うっうっ……」
ユーニアはうつむいたまま何も言わなくなってしまった。唐突な号泣にリタと目を合わせて、肩をすくめる。
「言いすぎたって、悪かったよ」
「……しい」
「ん?」
「アンクとおねショタが出来なくなって悲しい」
「えぇ……」
「私は1度で良いから、おねショタがやってみたかったんだ。でも、もうアンクが大きくなってしまったから、できない」
「脈絡無さすぎだな。目が座っている」
「……完全に酔ってるね。早く寝かせよう」
リタと協力してべろんべろんになったユーニアをテントに押し込む。毛布の上に寝かせると、彼女はすやすやと寝息を立て始めた。
「やれやれ。修行時代を思い出すな。あの時もこうやって良くベッドまで運んでたな」
「ね、本当に変わってない、ユーニアは」
無造作に伸ばしたユーニアの赤い髪に、リタは懐かしそうに触れた。「おやすみ」と小さな声で言ったリタは俺の方を振り向いた。
「今日は私が見張りをするよ。アンクは昨日やってくれたから寝ていて」
「負担はお互い様だろ。俺も手伝うよ」
「あー、じゃー甘えようかな。朝方に変わってくれる?」
「もちろん」
夜の見張りをしてくれるリタに「おやすみ」と言ってテントの中に入る。
『異端の王』がいなくなったからと言って、夜はまだまだ危険だ。獣だっているし、追剝ぎや強盗などの危険もある。
「さて、少し寝るか」
仮眠を取るつもりで、毛布の上、ユーニアの隣に身体を横たえる。テントは1つしか用意できなかったので、共用にならざるを得なかった。
目を閉じて眠りにつこうとした時だった。背中を何者かに抑え付けられて、身動きすらできなくなった。
「…………っ!!!」
「動くな」
「ユーニア、何を!?」
いつの間にか起きたユーニアが俺の上にまたがっている。両腕をものすごい力で抑えられて身動きが出来ない。
ユーニアは俺に顔を近づけると、そっと指で口を塞いだ。
「しー、静かにしろよ。リタが気がついちゃうだろ」
「何だ、何をしようとしているんだ」
「……私、思ったんだよ」
充血した瞳で俺を見たユーニアは口を開いた。
「男はみんな昔はショタだったんだろ。過去でショタであったということは、過去につながる現在もショタで無いということは否定できない」
「……?」
「つまり、今のアンクはショタなんだ」
「く、狂ってる!」
「じっとしてろ。おっぱいで口を塞いでやる」
正気の沙汰とは思えない。
ユーニアは俺を抱きしめると、そのままおっぱいで口を塞いだ。
「む、ぐ」
やたら力が強いし、おっぱいには抵抗できない。
やはり身体が若いままというのが太刀が悪い。どういうカラクリを使っているのか知らないが、ユーニアは全く年齢を取っていない。
身体付きも他の若い女性と比べても、遜色あるどころか、優れている部分の方が多い。
「……ふふふ」
俺の上にまたがったユーニアの顔は真っ赤だった。
魔力炉が熱くなっている。赤い魔力がふつふつと彼女の中から湧き出ている。抜け出そうと、手を動かすと彼女の腰のあたりに触れた。
「あ、そんなところ触らないで」
「く、そ……」
収集がつかない。
力を込めて、布団の端っこまで彼女の身体を放り投げる。
「ぎゃふん!」
「一体、なにがしたいんだ!」
「えぇと」
ユーニアは顔を起こして、ニコッと笑ってた。
「久しぶりに隣に寝たい」
「……」
そんな顔で見つめられたら、何も言い返せない。
「分かったよ、ちょっとだけだからな」
嬉しそうに彼女は頷いた。
するすると子猫のように毛布の中に入ってきた彼女の身体は、やはり燃えるように暑かった。
「アンク……」
「……何だ」
「大きくなったね」
「そんな耳元で囁くようなことじゃないだろ」
「ふふふ」
笑い事じゃない。
幼い頃からずっと一緒にいた人間だ。こうやって身体を抱くのには少し抵抗感がある。
それでも、嬉しかったのは本当だ。
「会えてよかった」
「ん?」
「また会えて良かったよ。ずっと言いたかったんだ。あんたに憧れてた。だから、またあんたに会えて、こんなに近くにいてくれて嬉しい」
「……生意気なこと言ってくれるじゃない」
その時だけ、彼女は素面に戻っていたように思える。
ユーニアの身体を抱き寄せて、狭い毛布の上で、俺は彼女の体温と素肌を感じた。俺の胸に触れる彼女の赤い髪が、テントの隙間から漏れる月の光に照らされて、宝石のようにまばゆい輝きを見せた。
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