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【共犯者たちのまどろみ(No.15.1)】
しおりを挟むナツが私の服の下に手を入れて、耳元で囁いた。
「どう? 気持ち良いでしょ?」
それは久しぶりに感じる人間らしさだった。
体温の熱さと高揚感。今までどれだけ自分の身体が冷え切っていたことに気がついた。
「あ……」
快感というには容易い。
もっと奥深いところで、身体が貪られているようだった。後ろからパトレシアの手が伸びてくる。下腹部の方へと彼女は手を滑らせた。
「や、め……」
「やめないよ。ほら、魔力炉が傷んでいる。頭も痛くなるわけだよ」
「や……ん」
パトレシアの手が優しく私を撫でた。
穏やかな魔力が彼女の手のひらを通して、流れ込んでくる。暴力的な女神の魔力で悲鳴をあげていた私の身体が、フッと安心感を取り戻す。
雲の上で揺らいでいるような安心感だった。
このまま2人の愛撫に身を委ねてしまいたくなった。
「あ……」
ピシリ、と再び頭上で音がする。魔力の揺らぎを次元が察知した。
「だ、め……」
「ん?」
「や、やめてくださいっ……!!」
力の限り、2人を払いのける。身体の上に乗っかっていた2人は、勢いよく遠くの方へと吹き飛んで行った。
「いきなり何をするんですかっ!」
「何って……そりゃあねぇ」
「ねぇ」
ナツとパトレシアはなんてことはないという風に、吹き飛ばされたところからピョンとジャンプしてに私のところに戻ってきた。
「い、いたずらするにも程があります!」
「でも、気持ちよかったでしょ?」
「う……」
「アンクに会えなくて寂しいよね。私たちだって寂しいもの」
そう言われて、ドキリと心が揺らぐ。
彼女たちは私たちの顔を覗き込んで言った。その顔は本当に心配しているようで、不安そうに瞳が静かに揺れていた。
「2人とも……」
やり方は問題があったとしても、彼女たちは私を励ましてくれていた。
「何か別の方法はなかったのかな」
「……分かりません。確かなことは瞑世の魔法を解けば、女神は覚醒して私たちを皆殺しにすることだけです。そうなれば、ナツさんもパトレシアさんもアンクさまも、殺されます」
「それはそれで困るんだよねー」
ナツはイライラしたように頭を抱えて言った。
「新しい女神になれば、アンクを永遠に見守ることが出来る。そばにはいれないのが難点だけれど、私たちは『死者の檻』で現れたから別だけれど……」
「私も同じ気持ちです」
パトレシアは「レイナちゃんは少し違うと思う」と言って、私のことを見た。
「レイナちゃん。やっぱり後悔してない?」
「していません」
きっぱりと返答する。
再び私を挟むように座ったナツとパトレシアは「いやいや」と言って否定した。
「たぶん、まずレイナちゃんの気持ちを整理すべきなんだと思うよ。迷いなくこの選択肢を選んだのなら、髪留めがアンクのポケットにあるなんてことは無かったと思うし」
「わたしに未練があると……」
「ありあり、おおあり」
「本当はアンクに会いたいんでしょう?」
そう言われて、パトレシアを見返すことが出来ない。
ぐらりと世界が歪む。次元が形を崩して天蓋で軋むような嫌な音がなる。地震のように不安定に揺れた地面を感じて、ナツとパトレシアが驚いたように上を見上げた。
「わっ」
「また、ちょっと危なかったね」
「…………ふぅ」
本当に危なかった。
気持ちの揺らぎが瞑世の魔法に影響した。あやうく全部ダメにしてしまうところだった。
魔力が再び落ち着き始めたところで、のんきに「こわかったねー」と言う2人に文句を言う。
「危うく魔法が崩れてしまうところでした。まったく……2人はどちらの味方なんですか?」
「え? レイナちゃんの味方だけれど」
「でしたら、私の心を揺さぶるようなことは止めてください」
「味方だからこそするんだよね、パトレシア」
「そうそう、そういうこと」
「どういうことですか……?」
微笑んだ2人は私の身体に抱きついて、そのまま地面へと押し倒した。
「たまには毒を吐き出さなきゃねー」
「後で後悔するよりは、今悩んだ方が良いでしょう?」
抱き枕にでも飛びつくみたいに、2人は私の身体を強く抱きしめた。よしよしと撫でながら、「魔法は精神の安定が大事だよ」と言った。
「イメージが崩れたら、本当に全部ダメになっちゃうからね」
「……もしかして、わたしかなり気を使わせていますか?」
「あ、いまさら気がついた?」
「レイナちゃんずっと浮かない顔してたからね。あんなミスするなんて、らしくないぞ」
パトレシアが咎めるように言った。
そうか……しっかりしていなかったのは私の方だった。それが魔法の発動にも影響していることも、見抜かれていたという訳だ。
「2人ともありがとうございます」
「良いってことよー」
「なんか眠くなってきちゃったなぁ」
パトレシアが眠そうにあくびをする。私のお腹の上に手を置いたナツも、いつのまにか目を閉じていた。すやすやと寝息を立てる音も聞こえてくる。
上を見ると崩壊した天井から、真っ白な空が見える。流れる雲もない時間が止まったような場所を見ていると、わたしにも強い眠気がやってきた。
悪くない兆候だ。
痛みなしに女神の魔力を取り込むことが出来ている。
「……おやすみなさい」
空の上から『世界の目』を使って、彼の姿を確認する。
私たちは後戻り出来無い場所へと徐々に進んで行っている。それが正しいのかどうかは今の私には分からない。
……彼が平穏な生活を送っていることが、今の私にとって、何よりの救いだった。
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