59 / 220
第52話 邪神教
しおりを挟む
ロープを使って穴の中から這い上がる。森から吹く澄んだ風を吸うと、いかに穴の底が媚薬で充満していたかが分かった。
パトレシアもすっかり正気に戻って、リタを説得していた。
「……穴の中から妙な声がしていると思ったら、お前らこんなところで何しているんだ」
「だから違うの! わざと入ったんじゃなくて、放り込まれたんだから……信じて!」
「だからって……あんな場所でヤることはないでしょ!」
なんだんかんだ言って俺たちを引き上げたリタは、散々にパトレシアを叱っていた。
上がってきた俺の顔を見ながら、「いつの間にこんな変態カップルになっていたんだ」と呆れたようににつぶやいた。
「リタ、違うんだ。実は女神……じゃない知り合いのシスターが罠を仕込んでいて」
「シスターが?」
「そうそう。あ、帰ってきた」
助けられた俺たちの姿を見て、残念そうな顔をしたサティが歩いてきていた。暴食の限りを尽くしてたらしく、口の周りに食べカスを付けて、ポンポンと膨れたお腹をさすっていた。
「ちっ、その様子だと作戦は失敗したらしいな」
「この人、シスター? まじで?」
「残念なことに」
信じられない顔したリタを横目で見て、サティは大きくため息をついた。
「やれやれ、君は誰だ? 本当に何てことをしてくれたんだ。せっかく良い感じだったのに」
「良い感じって……あんたか?2人に媚薬を仕込んだのは」
「うん、効果はばつぐんだった」
あっさりと返答したサティに、リタはしばらく固まったあとで、そのほっぺをぎゅうっとつねった。
「いたたたたた」
「一体何考えているのか知らないけれど、悪ふざけでやる域を越えているよ、シスターさん」
「私はただ手助けをしようと……」
「シスターのなりをして不貞行為の手助けだなんて。修道衣を着ておきながら、なんてことするの。もう一度聖堂の床掃除からやり直して、ちゃんど女神さまの教えを学び直した方が良いんじゃないかな」
目の前の女が女神だとは言えまい。
ゴムのように伸びた頬からリタが手を放すと、パチンと良い音がした。腫れた頬を痛そうにさすって涙目になりながら、サティはリタを睨みつけた。
「むー、私にこんなことをするなんて、天罰がくだるぞ」
「はん、それはどうだか」
「言ったな……!」
「はいはい、2人ともそこまで、そこまで」
ピリピリと臨戦態勢に入っていた2人の仲裁に入る。この2人に暴れられたら、ひとたまりもない。買い物どころではなくなってしまう。
「悪いな、リタ。彼女は俺の連れでサティって言うんだ。まだ世間知らずで、非常識なところもあるけれど、悪いやつではないんだ」
「そうそう、私は悪いやつではないよ。『欲望は貯めるものではなく、吐き出すものである』って女神からの教典にもあっただろう」
「そんな教えあったかなぁ……」
首を傾げながら、リタはうーんと唸っていた。
だが、見た目は純情な少女であるサティに毒気を抜かれたのか、肩をすくめて首を横に振った。
「まぁ良いや、私も悪かった。ついカッとなってしまったよ。ほっぺたつねって悪かったね。飴ちゃんやるよ」
「わーい、ありがとう!」
リタからもらった飴玉を、サティはすぐさま舌で転がし始めた。安い女神だ。
「パトレシアも今度はちゃんと家の中でやるんだよ」
「はい、すいませんでした」
パトレシアが、リタに頭を下げる。
……家の中なら良いのか?
「ところで、リタはここで何をしているの?」
「あぁ、最近ここらで悪い噂があってね。知っているかい、『邪神教』の噂?」
「邪神教?」
聞いたことがあるような……ないような。
パトレシアはまったく知らなかったらしく、ううんと言って不思議そうな顔をしていた。
「知らないのも無理はないか。何せ私たちが子どもの頃にはすでに消滅していたからね。教祖とほどんどの信徒たちは死亡している」
「死んだ? どうして?」
「自滅したんだよ。邪神教は女神信仰に対抗していた……いわゆるカルト宗教だ。邪神とかいう良く分からないものを降臨させようと、いろんな魔法にも手を出していたらしい。まぁ、結局は魔法が暴発して勝手に壊滅したらしいけれど」
「壊滅したなら、何が問題なの?」
「問題はそいつらの残党なんだよ。最近、邪神教のコスチュームをかぶった連中がウロウロしているって噂があって。見なかった? ぼろきれみたいな服を着て仮面を付けている奴ら」
「いや、見てないな」
「だよね。一応自治会の見回りを頼まれてパトロールしていたんだけれど、何もない。平和そのものだね」
リタはそう言って『パトロール中』と書かれた腕章を、誇らしげに見せびらかした。
「見つかったのは変態カップルくらいかな」
「分かった、分かった。平和で何よりだ」
「邪神教か……」
リタは何かと見間違えたのだろうとは言っていたが、ただ1人サティだけがその『邪神教』名前を聞いて、ポツリとつぶやいていた。
パトレシアもすっかり正気に戻って、リタを説得していた。
「……穴の中から妙な声がしていると思ったら、お前らこんなところで何しているんだ」
「だから違うの! わざと入ったんじゃなくて、放り込まれたんだから……信じて!」
「だからって……あんな場所でヤることはないでしょ!」
なんだんかんだ言って俺たちを引き上げたリタは、散々にパトレシアを叱っていた。
上がってきた俺の顔を見ながら、「いつの間にこんな変態カップルになっていたんだ」と呆れたようににつぶやいた。
「リタ、違うんだ。実は女神……じゃない知り合いのシスターが罠を仕込んでいて」
「シスターが?」
「そうそう。あ、帰ってきた」
助けられた俺たちの姿を見て、残念そうな顔をしたサティが歩いてきていた。暴食の限りを尽くしてたらしく、口の周りに食べカスを付けて、ポンポンと膨れたお腹をさすっていた。
「ちっ、その様子だと作戦は失敗したらしいな」
「この人、シスター? まじで?」
「残念なことに」
信じられない顔したリタを横目で見て、サティは大きくため息をついた。
「やれやれ、君は誰だ? 本当に何てことをしてくれたんだ。せっかく良い感じだったのに」
「良い感じって……あんたか?2人に媚薬を仕込んだのは」
「うん、効果はばつぐんだった」
あっさりと返答したサティに、リタはしばらく固まったあとで、そのほっぺをぎゅうっとつねった。
「いたたたたた」
「一体何考えているのか知らないけれど、悪ふざけでやる域を越えているよ、シスターさん」
「私はただ手助けをしようと……」
「シスターのなりをして不貞行為の手助けだなんて。修道衣を着ておきながら、なんてことするの。もう一度聖堂の床掃除からやり直して、ちゃんど女神さまの教えを学び直した方が良いんじゃないかな」
目の前の女が女神だとは言えまい。
ゴムのように伸びた頬からリタが手を放すと、パチンと良い音がした。腫れた頬を痛そうにさすって涙目になりながら、サティはリタを睨みつけた。
「むー、私にこんなことをするなんて、天罰がくだるぞ」
「はん、それはどうだか」
「言ったな……!」
「はいはい、2人ともそこまで、そこまで」
ピリピリと臨戦態勢に入っていた2人の仲裁に入る。この2人に暴れられたら、ひとたまりもない。買い物どころではなくなってしまう。
「悪いな、リタ。彼女は俺の連れでサティって言うんだ。まだ世間知らずで、非常識なところもあるけれど、悪いやつではないんだ」
「そうそう、私は悪いやつではないよ。『欲望は貯めるものではなく、吐き出すものである』って女神からの教典にもあっただろう」
「そんな教えあったかなぁ……」
首を傾げながら、リタはうーんと唸っていた。
だが、見た目は純情な少女であるサティに毒気を抜かれたのか、肩をすくめて首を横に振った。
「まぁ良いや、私も悪かった。ついカッとなってしまったよ。ほっぺたつねって悪かったね。飴ちゃんやるよ」
「わーい、ありがとう!」
リタからもらった飴玉を、サティはすぐさま舌で転がし始めた。安い女神だ。
「パトレシアも今度はちゃんと家の中でやるんだよ」
「はい、すいませんでした」
パトレシアが、リタに頭を下げる。
……家の中なら良いのか?
「ところで、リタはここで何をしているの?」
「あぁ、最近ここらで悪い噂があってね。知っているかい、『邪神教』の噂?」
「邪神教?」
聞いたことがあるような……ないような。
パトレシアはまったく知らなかったらしく、ううんと言って不思議そうな顔をしていた。
「知らないのも無理はないか。何せ私たちが子どもの頃にはすでに消滅していたからね。教祖とほどんどの信徒たちは死亡している」
「死んだ? どうして?」
「自滅したんだよ。邪神教は女神信仰に対抗していた……いわゆるカルト宗教だ。邪神とかいう良く分からないものを降臨させようと、いろんな魔法にも手を出していたらしい。まぁ、結局は魔法が暴発して勝手に壊滅したらしいけれど」
「壊滅したなら、何が問題なの?」
「問題はそいつらの残党なんだよ。最近、邪神教のコスチュームをかぶった連中がウロウロしているって噂があって。見なかった? ぼろきれみたいな服を着て仮面を付けている奴ら」
「いや、見てないな」
「だよね。一応自治会の見回りを頼まれてパトロールしていたんだけれど、何もない。平和そのものだね」
リタはそう言って『パトロール中』と書かれた腕章を、誇らしげに見せびらかした。
「見つかったのは変態カップルくらいかな」
「分かった、分かった。平和で何よりだ」
「邪神教か……」
リタは何かと見間違えたのだろうとは言っていたが、ただ1人サティだけがその『邪神教』名前を聞いて、ポツリとつぶやいていた。
0
お気に入りに追加
367
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
もし学園のアイドルが俺のメイドになったら
みずがめ
恋愛
もしも、憧れの女子が絶対服従のメイドになったら……。そんなの普通の男子ならやることは決まっているよな?
これは不幸な陰キャが、学園一の美少女をメイドという名の性奴隷として扱い、欲望の限りを尽くしまくるお話である。
※【挿絵あり】にはいただいたイラストを載せています。
「小説家になろう」ノクターンノベルズにも掲載しています。表紙はあっきコタロウさんに描いていただきました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる