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40時限目 学内対抗戦(1)
しおりを挟む学内対抗戦はソード・アカデミアの中でも、最も大きな行事の一つとなっている。国中から多くの貴族や王族たちが観覧に訪れて、スタジアムの各所に取り付けられたカメラ式魔道具から戦闘の推移を見守る。
名だたる家柄の嫡子らが、どういう成績をおさめるのか、今後十年のその家系の衰勢を見極める場と言っても過言ではない。生徒たちは単なる成績ではなく、彼らの名誉をかけてポイントを争うことになる。
会場である森の一画に観戦席が設けられていて、そこには教師陣始め、賢老院の面々も現れ始めていた。
「アイリッシュ卿、来られたのですか」
フジバナはすらりとしたグレーのドレスを着たアイリッシュ卿を見て、頭を下げた。
「えぇ、なんとか予定を空けてもらいました。あら……ダンテ先生はどうしたのですか?」
「隊長はちょっと……トラブルが……」
「あらいろいろ大変そうね。まぁ、あの人なら大丈夫でしょう?」
「はい、そう信じています」
良い返答です、と嬉しそうに言って、アイリッシュ卿はフジバナの隣の席に着こうとした。その時、横から野太い声が彼女たちに声をかけた。
「おやぁ、これはアイリッシュ卿ではないですか」
「……バーンズ卿、お久しゅう」
「今日は例のえこひいきクラスの様子を見に来たんですか?」
大きく出た腹を揺らしながら、バーンズ卿は高笑いした。その隣の席では校長と教頭がゴマをするような愛想笑いを浮かべていた。ちらりと空席になっている椅子を見ると、フッと鼻で笑う様子を見せた。
「あのポンコツ教師は逃げ出しましたか。命令一つ守れないグズな男を教師にするなど、慧眼と称されたあなたも随分と衰えましたな」
「……!」
「フジバナさん、抑えなさい」
バーンズ卿の言葉に、怒りを見せたフジバナをアイリッシュ卿は優しくなだめた。
「こういう手合いをまともに相手してはいけませんよ」
「アイリッシュ卿……」
「ダンテ先生は必ず来るんでしょう」
フジバナは大きく頷いた。それを見てにっこりと微笑み返したアイリッシュ卿は、改めてバーンズ卿に向き直った。
「あなたが私たちを貶めようと画策していることは知っています。旧校舎に教師を送らなくなったことも、退学の件に関しても」
「落ちこぼれを選別するのは当然でしょう。この学園は国の核となる人間を選別する場所です。弱きものはいりません」
「弱い強いで判断することが、全てではありませんよ。あの子達にはあの子達の長所があります」
「口だけなら、なんとでも言えますからな」
「あら。……でしたら私は首を賭けてもよろしくてよ」
「は?」
突然飛び出したアイリッシュ卿の言葉に、バーンズ卿も高笑いをやめて、表情を凍らせた。
「今、なんと?」
「私の賢老院の座をかけると言ったのです」
「あ、アイリッシュ卿、さすがにそれは……!」
「良いんですよ。フジバナさん。ダンテ先生やあの人たちが賭けているのに、私が何もリスク無しだとはおかしいでしょう。その代わり、もしあの子たちがこの対抗戦を無事に終えたら、もう手は出さないと誓ってもらえますか?」
信じられないと驚きの表情を見せていたバーンズ卿だったが、ごくりと唾を飲み込むと、目を細めて蛇のような鋭い眼光でアイリッシュ卿を睨んだ。
「その言葉に二言はないですな……?」
「もちろんですよ」
アイリッシュ卿の返答に、バーンズ卿は観戦席中に響く大声で叫んだ。
「乗った! 良いでしょう。もし、万が一、全員が対抗戦を通過するようなことがあれば、私はクラスナッツには手を出さない。約束しますよ」
「成立ですね」
互いに平静な表情をしていたが、賭けの内容としては信じられないものだった。国の行政に関して、大きな権力を持つ賢老院の座をかけるなんて、フジバナは聞いたことがなかった。
バーンズ卿とアイリッシュ卿の間に見えない火花が散っていた。くるりと踵を返して、観戦席に座ったアイリッシュ卿にフジバナは問いかけた。
「ほ、本当に良かったんですか?」
「さぁどうでしょう。年甲斐もなく、少し舞い上がってしまったのかもしれません」
「舞い上がってしまった……って」
「わくわくしますね。本当に」
アイリッシュ卿はそう言って、観戦席の前面に設置された大型ビジョンを見つめた。分割画面にはそれぞれのチームの様子が映されている。4クラス65人。そこには緊張した面持ちで、戦闘開始の合図を見守るクラス「ナッツ」の五人の姿もあった。
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