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28、もんもんとする夏休み
しおりを挟む予告通り夏休みの間、春姫が水曜日に俺の家に来ることはなくなった。十年以上続いた俺たちの日常は、電源でも切ったかのように途絶えた。
春姫のいない水曜日は、味のしない果実だった。毎日が面白くもなんともなくなった。
俺は一人、自分の部屋で過ごす日々が続いた。
その間、誰にも会うことはなかった。携帯の電源は切った。福男や猪苗代からラインが来ていたが、見ることもしなかった。
いっそのこと全部なくなった方が、全てを忘れられた。
地味でぼんやりとした日々が過ぎ去っていった。夏休み始めの、四人で海に行った青春真っ盛りな日常は何処へやら、俺は半引きこもりみたいな生活に戻ってしまっていた。
中学最後の一年と似ているな、と思い起こす。
陽キャグループに馴染めなかった俺は、最後の一年をほとんどこの部屋で過ごしていた。学校と家の往復。ひたすら受験勉強をしていた。
『テッちゃん、すごいねぇ。どんどん成績上がっていくね』
ただ、その時には春姫がいた。
『私なんか、すぐ追い抜かされちゃいそう。ほら、数学の模試なんか、私より点数良い!』
『時間だけはあるからな』
『それでもすごいよ。こんな短期間で、志望校もうちょっとレベルあげても良いんじゃない?』
『そうか。考えてもみなかったけど……それも良いかな』
『ね! そしたら同じ高校だよ』
春姫との会話を思い出して、ペンを置く。集中できない。部屋の風景に、どうしても春姫の姿がちらつく。
話し相手になってくれて、なんでも聞いてくれた。友達なんていなくても、毎週水曜日に春姫が来てくれることで、全て満たされていた。
それがいなくなってしまった今、俺は改めて自分が失おうとしているものの、重さを知っていた。
『気持ちの整理をしたいの』
彼女がいなくなった今、その存在の重みに気がつく。自分がどれくらい恵まれていたかを知る。
「俺、あいつのラインすら知らなかったんだな……」
連絡を取ろうにも、俺の連絡先には春姫はいない。今までわざわざ連絡を取らずとも、水曜日になれば、当たり前のように隣にいて、用があってもなくても、一緒にいることができた。
「……ダメだ。うまくいかない」
勉強にも集中できず、窓の外を見る。
すぐ隣は春姫の家で、ブラインドは降ろされていて、中の様子は見えない。まだ一週間くらいしか経っていないはずなのに、もう何年も会っていないような気がする。
そして夏休みは、あっという間に終わりを告げた。俺は春姫と一言も話すことができず、悶々とした気持ちを抱えたまま二学期を迎えることになった。
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