幼なじみとセックスごっこを始めて、１０年がたった。

２７、でもヤるもんはヤる

　これが最後のセックスごっこ。

　俺だって思っていた。こんな妙な約束を、高校生にまでなって続けているのは間違っている。

　春姫も同じことを考えていた。当然じゃないか。

「ごめん」

　俺は色あせた毛布をかぶり、春姫を押し倒した。

「テッ……ちゃん」

　彼女が驚いたように声を上げる。
　けれど、すぐに彼女は俺を受け入れて、力を抜いた。俺の手を春姫は拒こばもうとはしなかった。

「春姫、俺は……」

　次の言葉が出てこない。

　何を言っても、きっと何一つ伝えられない。俺自身が自分が何を考えているかが、一番分からない。

　この身体。
　春姫の身体。
　触ると柔らかくて、安心できて、俺より少しだけ体温が高い。

「あのね……テッちゃん。ちょっとの間だけだからね」

「……うん」

「でも、大人ごっこはこれで最後にしよう」

「うん」

　じゃあ、俺たちはなんなんだろう。

　春姫が抱えていた心のモヤモヤの全てが、その言葉に現れていた。こんな関係は間違っている。

　俺は春姫の胸に手を置いた。
　脳裏のうりに今日の春姫の水着姿が浮かぶ。

「あ……っ」

　春姫が小さな声であえぐ。

　その温かさを思い出す。肌に触れた時の柔らかさと、怖がるような震え。肌に触れた胸の形を想像すると、気持ちが高ぶるのが分かった。

　抑えられない。

「テッちゃん……」

　彼女が俺の名前をささやく。
　肌と肌が触れ合う。俺は空虚に腰を動かす。触れ合うところを想像して、心がむくむくと膨れ上がる。

「やっ、あっ」

　腰の動きに合わせて、春姫が息を吐く。興奮しているように見えるけれど、これも全て偽物だ。

　こんなのは偽物の関係だ。

　けれど、触れる身体は本物で、春姫がそこにいるのは確かなことだった。髪の匂いも、心地の良い肌も全て本物だ。

「……ぁ……ぅん」

　彼女がどこか恍惚こうこつとしたような表情を見せる。色っぽくて可愛らしい。できることなら、今すぐ服をむいて、それこそ最後の最後までしてしまいたい。

　俺にはそれができない。

　それをしてしまったら、きっと春姫との関係は取り返しのつかないくらないめちゃくちゃになってしまう。

　俺はそれが怖くて仕方がない。

　これはあくまでセックスごっこで、ごっこの域を出ないから、俺は傷つかないでいられる。

「テッちゃん……おばさんたち、帰ってきたみたい……」

　春姫が暗闇の中で囁ささやく。

　それが終わりの合図。
　結局、俺はごっこの境界線を、踏み越えることも、逃げ出すこともできずに終わってしまった。