9 / 41
9、一緒に登校
しおりを挟むその日、いつもの時間に登校しようとすると、ちょうど家から出てきた春姫と鉢合わせた。いつも朝練に行くジャージ姿ではなく、今日は制服を着ている。
「あっ、テッちゃんだ」
春姫が俺の顔を見て、おーいと手を振る。こんな時間に珍しい。俺が歩いていくと、春姫はへらっと笑った。
「おはよー、早いね」
「珍しいな。朝練、どうしたんだ」
「今日は休みなの。……久しぶりだね、テッちゃんと一緒の時間に出るの」
「そういえば、そうだな。小学校以来か」
春姫と二人で駅までの道を歩いていく。
早くも夏の兆しが見えていた。
コンクリートで舗装された道路には、太陽の日差しが照り返している。県道に出て、俺たちの横を大型のトラックが走ると、その度に春姫のチェックのスカートがひらひらとはためく。
「最近どう?」
「まぁまぁ、いつも通りだよ。春姫は?」
「わたしも普通かなー。相変わらず、練習は厳しいし、タイムがなかなか伸びないんだ」
浮かない様子で春姫が言った。
思えば水曜日以外で、春姫と話すことは久しいように思えた。こうやって一緒に歩きながら、彼女と話すのは高校になって、なかったかもしれない。
「テッちゃんはもう部活とかやらないの?」
「もう懲りたよ。帰宅部の方が気が楽だ」
「そうだね。来栖くんといつも仲よさそうにしているし」
まさか春姫が福男のことを認識しているとは思わなかった。今度教えてあげよう。泣いて喜ぶに違いない。
「なんか電車混んでるねぇ」
駅に着くと、ホームにあふれる人の多さに春姫が目を丸くした。
「人身事故かー」
電光掲示板には遅延のふた文字が表示されている。さっき再開したばかりで、乗ることができなかった人たちが、立ち往生していたようだった。
ちょうど到着した電車に人が殺到していく。
「ツいてないな。でも、これに乗らないと間に合わないし……」
「しょうがないよ。行こ行こー」
電車は、おしくらまんじゅうみたいな混雑っぷりで、なんとかして俺と春姫はつり革に捕まることができた。
「でも、もったい無かったな。テッちゃん長距離速かったのに」
「まさか。春姫の方がずっと速かっただろ」
「ううん。そんなことない。走るテッちゃん、すごく格好良かったんだから」
格好良い。
そんな素直な褒め言葉を聞くのは、何年ぶりだろう。正月の時に親戚のおばちゃんに言われたくらいだ。
「バカ言え。俺なんか下から数えた方が早い」
「ううん。そんなことないよ。テッちゃんはずっと格好良いよ」
大真面目に首を横に振る春姫を見ていると、無性に恥ずかしくなってくる。
「俺を褒めるのは俺くらいだよ」
「そうかなぁ……」
今更、こんなことで恥ずかしがることもないはずなのに。こういうのは春姫の昔からの口癖みたいなもので、冗談半分で受け取れば良いのに。
なぜか鼓動が高鳴ってしまうのだろう。同時に布団の中で喘ぐ春姫の姿が、脳裏をよぎる。煩悩がどうしても、よぎってしまう。
「テッ……ちゃん」
ふと我に返ると、春姫が俺の名前を呼んだ。まるでごっこをしている時のように、顔が赤く染まっている。
「春姫?」
「……た……」
今にも泣き出しそうな顔で、春姫が俺の顔を見る。
「たすけて」
視線を後ろに送ると、スーツの中年男が、春姫のスカートに手を伸ばしていた。
痴漢だ。
「姫ちゃん!」
とっさに彼女の名前を叫び、俺は彼女をかばうようにして抱き寄せた。
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~
みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。
ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。
※この作品は別サイトにも掲載しています。
※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる