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5、陰キャですが、何か。
しおりを挟む俺たちが通う友森学園は、家から電車で数駅行ったところにある。小学校の頃までは一緒に学校に通っていたが、春姫が陸上部の朝練を始めるようになってからは、別々の時間に通うようになっている。
偏差値は中の中。
せっせと勉強しなくても入ることができる学校を選んで、俺は入学した。真面目に勉強をしている春姫は、もう少し上の学校に行くことができたはずだが、校庭が広いからという理由でこの学校を選んだらしい。
始業時間十分前になって着席すると、後ろの席の来栖福男が俺の肩をトントンと叩いた。
「テツ殿、数学の宿題はやったでござるか?」
その巨体に似合わないコソコソ声で、福男は俺に話しかけた。俺が黙ってノートを渡すと、福男は深々と頭を下げた。
「くぅ~、助かったでござる。いやはや、昨日は深夜まで新作のエロゲに没頭しておりましてな」
「良いから、写し終わったら早く返せよな」
「持つべきものは友達ですなぁ」
嬉しそうに福男はペンを走らせ始めた。
イヤに奇妙な喋り方の来栖福男は、俺にとっての数少ない友人であり、福男にとっても俺が唯一の友人だった。珍妙な喋り方かつ、見るからにオタクな格好とあれば、人はそうそう近寄ってこない。福男も三次元にはあまり興味がないから、近づかない。
ただ図体だけはやたらに大きい。
何の縁かは知らないが、福男は一年からずっと同じクラスで、ぼっち同士と言うこともあり自然と仲が良い。
「ねむ……」
授業開始までやることもないので、俺は机に突っ伏して寝ることにした。
福男と俺の共通点としては、カーストで言えば下の下だということだ。無口な陰キャと、デブオタク。今日もクラスの隅っこで埃かぶっている
まぁ、それで良い。
福男と一緒にいることは気楽だった。絵に描いたような青春生活とは違うが、誰かに気を使って傷ついたり、傷つけられたりするよりはずっと楽だ。
「おっはよー!」
ぼんやりうたた寝していると、クラスの陽キャグループがぞろぞろと教室に入ってきた。部活の朝練が終わる時間は大体同じなので、彼らは始業時間ギリギリになって入ってくる。
陽キャ連中が入ってくると、静かだった教室が一気に騒がしくなる。ああいう元気さとは俺と福男は、正反対に位置する。
塊なっている陽キャグループから少し遅れて、春姫が教室に入ってきた。
髪を後ろ手で一つ結びにして、友達と話している。制服の袖から見える素肌は、日焼け止めが塗られていて蛍光灯の光を吸い込んでいた。
春姫は顔を上げると、俺たちに向けて微笑みかけた(ように見えた)。
「おぉ、姫がこちらに笑いかけました!」
その仕草に福男がパァっと顔を輝かせた。
「吉兆ですな。きっと今日は何か良いことがあるでござる」
「そうかな」
「友森学園の五本指にも入る美少女の力ですぞ」
「それ誰が決めたんだよ」
「拙者です」
独断かよ。
「噂によれば、密かにファンクラブも存在しているらしいでござる」
「まさか、漫画じゃあるまいし」
「割と確かな情報網でござる」
妙に真実めいた顔で、福男は言った。
「まぁ、不思議じゃないが……」
福男の言う通り、春姫は男子からも女子からも人気がある。
おっとりとした性格で、人当たりも良いし、何より可愛い。入学早々、陸上部の先輩から告白されたとも聞いている。
幼なじみだと言うのに、俺とは天と地ほども違うような存在だ。
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