上 下
39 / 43

39 怒るアエル

しおりを挟む
リリアージュはドアに耳をつけてアエルの動向を探った。
しばらくして、ドア越しにアエルの気配が消えたのを感じたリリアージュは、急いでバルコニーに出た。

そして身を乗り出すように下を見て、必死にアエルの姿を探す……。


すると、リリアージュの背後からバキバキっという轟音ごうおんと共に床に何かが倒れる音がした。
リリアージュが何事かと振り返ると、アエルに勢いよく蹴られたドアが床になぎ倒されていた……。

ドアを踏んで向かってくるアエルの顔は怒りに満ちている。

アエルは、バルコニーで固まっているリリアージュの頬を一瞥した。

「……顔の傷か…。あれから勤務中に怪我でも負ったのか?」

リリアージュは急いで頬のガーゼに手を当て、顔を伏せる。
アエルは当惑したように言った。

「あなたは、そんな事の為に私を捨てようとしたのか…?」

たじろいでいるリリアージュの手首を掴むと、アエルは部屋の外に向かった。

「あなたは簡単に私を捨てすぎる…。なぜ私の存在はいつもそんなに軽いのか?私が二度も同じ手に引っかかって去るわけ……ないだろう…?」

ドアの倒れた音に気がついて部屋の前まで来たレオルドが、リリアージュの手を引いて出て行こうとしているアエルに声をかける。

「……連れ出すのはいいが…。リリアージュの事は抱いたぞ。怪我で薬を飲んで意識がはっきりしていない時に何度か……」

その言葉を聞き、アエルに掴まれていたリリアージュの手から力が抜ける……。
レオルドは、足を止めたアエルに更に言葉を投げかけた。

「そんなリリアージュを変わらずに愛せるほど、あなたの心が広いとは思えないが…どうだろう…。俺の思い違いか?」

リリアージュは、絞り出したような小さな声で言った。
「…アエル……私、意識のない時なら抱いていいってレオルドに言ったの……」

アエルはリリアージュの掴んでいた手首を一瞬が強く握った。
しかし、すぐに力を抜き、レオルドの方を向いた。

そして、獲物を見つけた獣のような灰色の瞳で一直線にレオルドをとらえる。
灰色の奥の青色がギラリと冷酷に光るのが、レオルドにも見えた。

「──リリアージュが、戯言を言ったのも、迷惑をかけたのも想像できる……。傷の手当ての事も感謝する。ただ、謝る事はできるが譲る事はできない……」

そう言うと、アエルはリリアージュの手を引きながら公爵邸を出て行った。


        ※※※ 

去って行ったアエルを背に、蹴り倒されたマホガニー材でできたドアを見てレオルドは呟いた。

「………あと少しだったが…手に入れそこなった……。そういえばあの男、護衛騎士団の隊長をやっていたっけ。……馬鹿力め」

レオルドは、軽く足元のドアを蹴った。

「あいつ、口では穏やかな事を言っていたが、人を殺しそうな目で見やがって……。俺とした事が、一瞬…日和ひよった……」

そしてふっと笑うと、ドアのなくなった部屋の入口に腕を組んで寄りかかった。

「まぁ、一時いい夢が見れて、幸せだったと前向きに……とらえるか──」

レオルドは、ゆっくりと目を閉じてふぅ…とため息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...