上 下
35 / 43

35 アエルが好きなのは顔と髪

しおりを挟む
「お前……何言って…?」

「アエルはね…小さい頃から私が怪我をするのを嫌がった。顔にすり傷でも作ろうものなら、いつもは優しいのにひどく怒ったの。だから…」
ガーゼが貼られている頬にそっと手を当てた。

「こんなになってしまっては、多分許してくれない……。アエルが私を好きな理由の大部分は、顔と髪だから…」

吹き出しそうになったレオルドは、冗談ではなく本気で言っている様子のリリアージュに、言いかけた言葉を引っ込めた。

「そもそも今回だって、王宮できちんと身をたてているアエルの元に私が押しかけただけ…しかもアエルの反対していた騎士になって…。アエルは一人でちゃんとやっていたのに」

リリアージュは自分でアエルを養おうと思って、鼻息荒く登城した過去の自分を嘲笑うかのように言った。

「レオルドに肩代わりしてもらった傷の治療費も高額だろうし……。アエルにもお金を全然返せていない。結婚して、アエルの専属の騎士をやってお金を返そうと思ったけど…私はやっぱり騎士としてもポンコツだし…」

「……専属の…騎士?何かのプレイか…?」

レオルドは話の内容が理解できず、下品な想像しかできなかった。

そんなレオルドを無視して、リリアージュは自分に言い聞かせるようにぼそぼそと話を続けた。

「アエルの性格から考えて、無理をして税金を払って子爵の爵位を維持しそうだし……。そもそも伯爵の爵位を返上して、うちに来たのだし。2回も爵位返上するなんて、屈辱以外の何ものでもない……」

リリアージュのもともと血色の悪かった顔は、どんどん色を無くしていった。

「結婚を承諾したのも、私の事は邪険にできなかったんだと思う…。長年飼っている犬猫を、簡単に追い払えないのと同じで…。けど、私は歩く負債だから…アエルに押し付けられない……」

「……俺には、負債を押し付けてもかまわないのか?」

核心を突かれ、レオルドに対する申し訳なさと、自分の浅はかさとで自然に涙がこぼれ落ちる…。

レオルドは急いでリリアージュの目にハンカチを当て涙をせき止めた。

「涙を止めろよ…。傷に触れたら治りが悪くなる。俺はお前のこと、負債だなんて思ってない…お前が勝手に言った」

「だって、本当の事だもの……。前にも涙を止めろと言われた…けど……止められない」

「じゃあ、押さえて拭いてやるよ…。泣き過ぎて目も腫れたらお化けだな…」

そう言われて、リリアージュは笑った。
「ふふっ…さすがにお化けとは、結婚はできない?」

レオルドは、少しほほえんで目を閉じた。

リリアージュはレオルドの頬がこけ、顎に髭が生えている事に、ふと気がつく。

服もくたびれていて、いつもはきれいに撫で付けてある髪も、幾筋か目にかかっている……。

意識が混濁として、目を覚ます度にいつでもレオルドは側にいたから、もしかして一週間ずっと横にいてくれたのかもしれない……。

「いや……卒業してお前と別れて寂しかったよ…。形だけでも3年間付き合えて俺は幸せだったから、お前と結婚できるのならもっと幸せだろうな…」

「……でも、もう昔の自慢できる彼女ではきっと…ないよ?」

くっくっと、レオルドは笑った。

「俺は、お前が百キロに太っても連れまわして周りに自慢するよ……」

リリアージュは、自分の涙を拭いているレオルドの手をそっとつねって言った。

「……嘘つき」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい

青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。 ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。 嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。 王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...