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35 アエルが好きなのは顔と髪
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「お前……何言って…?」
「アエルはね…小さい頃から私が怪我をするのを嫌がった。顔にすり傷でも作ろうものなら、いつもは優しいのにひどく怒ったの。だから…」
ガーゼが貼られている頬にそっと手を当てた。
「こんなになってしまっては、多分許してくれない……。アエルが私を好きな理由の大部分は、顔と髪だから…」
吹き出しそうになったレオルドは、冗談ではなく本気で言っている様子のリリアージュに、言いかけた言葉を引っ込めた。
「そもそも今回だって、王宮できちんと身をたてているアエルの元に私が押しかけただけ…しかもアエルの反対していた騎士になって…。アエルは一人でちゃんとやっていたのに」
リリアージュは自分でアエルを養おうと思って、鼻息荒く登城した過去の自分を嘲笑うかのように言った。
「レオルドに肩代わりしてもらった傷の治療費も高額だろうし……。アエルにもお金を全然返せていない。結婚して、アエルの専属の騎士をやってお金を返そうと思ったけど…私はやっぱり騎士としてもポンコツだし…」
「……専属の…騎士?何かのプレイか…?」
レオルドは話の内容が理解できず、下品な想像しかできなかった。
そんなレオルドを無視して、リリアージュは自分に言い聞かせるようにぼそぼそと話を続けた。
「アエルの性格から考えて、無理をして税金を払って子爵の爵位を維持しそうだし……。そもそも伯爵の爵位を返上して、うちに来たのだし。2回も爵位返上するなんて、屈辱以外の何ものでもない……」
リリアージュのもともと血色の悪かった顔は、どんどん色を無くしていった。
「結婚を承諾したのも、私の事は邪険にできなかったんだと思う…。長年飼っている犬猫を、簡単に追い払えないのと同じで…。けど、私は歩く負債だから…アエルに押し付けられない……」
「……俺には、負債を押し付けてもかまわないのか?」
核心を突かれ、レオルドに対する申し訳なさと、自分の浅はかさとで自然に涙がこぼれ落ちる…。
レオルドは急いでリリアージュの目にハンカチを当て涙をせき止めた。
「涙を止めろよ…。傷に触れたら治りが悪くなる。俺はお前のこと、負債だなんて思ってない…お前が勝手に言った」
「だって、本当の事だもの……。前にも涙を止めろと言われた…けど……止められない」
「じゃあ、押さえて拭いてやるよ…。泣き過ぎて目も腫れたらお化けだな…」
そう言われて、リリアージュは笑った。
「ふふっ…さすがにお化けとは、結婚はできない?」
レオルドは、少しほほえんで目を閉じた。
リリアージュはレオルドの頬がこけ、顎に髭が生えている事に、ふと気がつく。
服もくたびれていて、いつもはきれいに撫で付けてある髪も、幾筋か目にかかっている……。
意識が混濁として、目を覚ます度にいつでもレオルドは側にいたから、もしかして一週間ずっと横にいてくれたのかもしれない……。
「いや……卒業してお前と別れて寂しかったよ…。形だけでも3年間付き合えて俺は幸せだったから、お前と結婚できるのならもっと幸せだろうな…」
「……でも、もう昔の自慢できる彼女ではきっと…ないよ?」
くっくっと、レオルドは笑った。
「俺は、お前が百キロに太っても連れまわして周りに自慢するよ……」
リリアージュは、自分の涙を拭いているレオルドの手をそっとつねって言った。
「……嘘つき」
「アエルはね…小さい頃から私が怪我をするのを嫌がった。顔にすり傷でも作ろうものなら、いつもは優しいのにひどく怒ったの。だから…」
ガーゼが貼られている頬にそっと手を当てた。
「こんなになってしまっては、多分許してくれない……。アエルが私を好きな理由の大部分は、顔と髪だから…」
吹き出しそうになったレオルドは、冗談ではなく本気で言っている様子のリリアージュに、言いかけた言葉を引っ込めた。
「そもそも今回だって、王宮できちんと身をたてているアエルの元に私が押しかけただけ…しかもアエルの反対していた騎士になって…。アエルは一人でちゃんとやっていたのに」
リリアージュは自分でアエルを養おうと思って、鼻息荒く登城した過去の自分を嘲笑うかのように言った。
「レオルドに肩代わりしてもらった傷の治療費も高額だろうし……。アエルにもお金を全然返せていない。結婚して、アエルの専属の騎士をやってお金を返そうと思ったけど…私はやっぱり騎士としてもポンコツだし…」
「……専属の…騎士?何かのプレイか…?」
レオルドは話の内容が理解できず、下品な想像しかできなかった。
そんなレオルドを無視して、リリアージュは自分に言い聞かせるようにぼそぼそと話を続けた。
「アエルの性格から考えて、無理をして税金を払って子爵の爵位を維持しそうだし……。そもそも伯爵の爵位を返上して、うちに来たのだし。2回も爵位返上するなんて、屈辱以外の何ものでもない……」
リリアージュのもともと血色の悪かった顔は、どんどん色を無くしていった。
「結婚を承諾したのも、私の事は邪険にできなかったんだと思う…。長年飼っている犬猫を、簡単に追い払えないのと同じで…。けど、私は歩く負債だから…アエルに押し付けられない……」
「……俺には、負債を押し付けてもかまわないのか?」
核心を突かれ、レオルドに対する申し訳なさと、自分の浅はかさとで自然に涙がこぼれ落ちる…。
レオルドは急いでリリアージュの目にハンカチを当て涙をせき止めた。
「涙を止めろよ…。傷に触れたら治りが悪くなる。俺はお前のこと、負債だなんて思ってない…お前が勝手に言った」
「だって、本当の事だもの……。前にも涙を止めろと言われた…けど……止められない」
「じゃあ、押さえて拭いてやるよ…。泣き過ぎて目も腫れたらお化けだな…」
そう言われて、リリアージュは笑った。
「ふふっ…さすがにお化けとは、結婚はできない?」
レオルドは、少しほほえんで目を閉じた。
リリアージュはレオルドの頬がこけ、顎に髭が生えている事に、ふと気がつく。
服もくたびれていて、いつもはきれいに撫で付けてある髪も、幾筋か目にかかっている……。
意識が混濁として、目を覚ます度にいつでもレオルドは側にいたから、もしかして一週間ずっと横にいてくれたのかもしれない……。
「いや……卒業してお前と別れて寂しかったよ…。形だけでも3年間付き合えて俺は幸せだったから、お前と結婚できるのならもっと幸せだろうな…」
「……でも、もう昔の自慢できる彼女ではきっと…ないよ?」
くっくっと、レオルドは笑った。
「俺は、お前が百キロに太っても連れまわして周りに自慢するよ……」
リリアージュは、自分の涙を拭いているレオルドの手をそっとつねって言った。
「……嘘つき」
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