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28 ナラの木林で
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「──それよりも」
ちらっとアエルの手首を見てリリアージュは言った。
「なんでまだそのブレスレットを着けているの?お姫様と結婚するんでしょう?だいたいねぇ、それは安物なの。あなたに安物は似合わない。それ…返してよ」
「…それならば、なんであなたは剣帯ベルトのところにブレスレットを着けている?規定違反だろう?見つかったら罰則があるはずだが…」
「見つからないし、仕事中はここに着けていない。内ポケットに入れている……」
「リリアージュ。誤解があるようだが姫が結婚するのは、タタン国の王子とだ。半年前のパーティーで出会い意気投合し、嫁ぐ事が決まった。私はリリアージュが会いに来てくれるのを待つ…そういう話ではなかったか?」
約束を覚えていてくれた嬉しさと、結婚しないのだという安心感で、ついリリアージュの顔が緩む。
それを見られたくなくて、両手で顔を包みながらリリアージュは言った。
「そういう…話だった」
「リリアージュは色が白いから、赤くなるとすぐ分かる。今はお互い大人だから公の場で…こういう事をしても…」
アエルはそう言いながら、リリアージュの顎に手をそえ唇にキスをした。
そして唇をそっと離すと言った。
「…死罪にはならない?」
リリアージュの頭の中は突然のアエルのキスで、恥ずかしさと嬉しさが溢れパニックを起こす…。
今、長年言えなかった言葉を言わなければ、また数年先になるかもしれない。
もう、自分以外の人といてほしくなかった。
自分だけを見てほしかった。
リリアージュは無意識のうちに、アエルの服を両手でぎゅっと掴んだ。
「私と結婚してくれる?…私が騎士として働いて養うから。アエルは仕事をしないで好きな事だけしてていい……だから…」
「……結婚?」
リリアージュから体をゆっくり離して、アエルは聞き返した。
風で黒い髪がなびいて、アエルの美しい顔を全てリリアージュは間近で見る事ができた。
灰色の瞳の奥の青色も、綺麗に透けて見える。
そしてリリアージュは、自分が愚かな事を言っているという事にすぐに気が付く。
昔、他をあたってくれと言われていた、舞台女優のセリーヌと自分の姿が重なる…。
アエルに抱かれてから、三年はたっている。
その間にアイリス姫以外の女性との関わりもあったはずだ。
自分のようにレオルド以外の人とは口をきかず勉学と剣術に明け暮れ、他を遮断した状態で三年前の気持ちのまま、ここにアエルがいるはずがないではないか…。
そもそもあの時だって、流されるように我が儘娘の自分と寝ただけの事。
恋人ですらなかった。
アエルを養うも何も……。
本当に……いつまでたっても自分は幼稚だ。
アエルにしがみついていた両手から力が抜け、知らぬうちにパサリと自然に下におりていた。
「困らせるつもりはなかった…。言い方を間違えた。もしよかったら…恋人にしてほしい…」
リリアージュは溢れる恋心を悟られないように、足元を見つめたまま下を向いてアエルに聞いた。
「…恋人が無理なら…たまに一緒に過ごすのは……?学費も、もちろんちゃんと返すし…」
いつまでも自分の足元を見て、アエルの顔を見られないでいる勇気のない意気地なしの自分に、リリアージュは情けなくなった。
すると、思いがけない言葉がリリアージュの頭の上から降り注ぐ。
「プロポーズは私からしたかった。抱いた時もだが…全てリリアージュに、私の行動の先手を取られてしまう」
アエルは下を向いたままのリリアージュを、そっと抱きしめて言った。
「──私と、結婚してくれるのか?」
リリアージュは思わず顔をあげ、アエルの顔を見た。
「…いいの?」
「あなたとなら、いつでもする…」
ちらっとアエルの手首を見てリリアージュは言った。
「なんでまだそのブレスレットを着けているの?お姫様と結婚するんでしょう?だいたいねぇ、それは安物なの。あなたに安物は似合わない。それ…返してよ」
「…それならば、なんであなたは剣帯ベルトのところにブレスレットを着けている?規定違反だろう?見つかったら罰則があるはずだが…」
「見つからないし、仕事中はここに着けていない。内ポケットに入れている……」
「リリアージュ。誤解があるようだが姫が結婚するのは、タタン国の王子とだ。半年前のパーティーで出会い意気投合し、嫁ぐ事が決まった。私はリリアージュが会いに来てくれるのを待つ…そういう話ではなかったか?」
約束を覚えていてくれた嬉しさと、結婚しないのだという安心感で、ついリリアージュの顔が緩む。
それを見られたくなくて、両手で顔を包みながらリリアージュは言った。
「そういう…話だった」
「リリアージュは色が白いから、赤くなるとすぐ分かる。今はお互い大人だから公の場で…こういう事をしても…」
アエルはそう言いながら、リリアージュの顎に手をそえ唇にキスをした。
そして唇をそっと離すと言った。
「…死罪にはならない?」
リリアージュの頭の中は突然のアエルのキスで、恥ずかしさと嬉しさが溢れパニックを起こす…。
今、長年言えなかった言葉を言わなければ、また数年先になるかもしれない。
もう、自分以外の人といてほしくなかった。
自分だけを見てほしかった。
リリアージュは無意識のうちに、アエルの服を両手でぎゅっと掴んだ。
「私と結婚してくれる?…私が騎士として働いて養うから。アエルは仕事をしないで好きな事だけしてていい……だから…」
「……結婚?」
リリアージュから体をゆっくり離して、アエルは聞き返した。
風で黒い髪がなびいて、アエルの美しい顔を全てリリアージュは間近で見る事ができた。
灰色の瞳の奥の青色も、綺麗に透けて見える。
そしてリリアージュは、自分が愚かな事を言っているという事にすぐに気が付く。
昔、他をあたってくれと言われていた、舞台女優のセリーヌと自分の姿が重なる…。
アエルに抱かれてから、三年はたっている。
その間にアイリス姫以外の女性との関わりもあったはずだ。
自分のようにレオルド以外の人とは口をきかず勉学と剣術に明け暮れ、他を遮断した状態で三年前の気持ちのまま、ここにアエルがいるはずがないではないか…。
そもそもあの時だって、流されるように我が儘娘の自分と寝ただけの事。
恋人ですらなかった。
アエルを養うも何も……。
本当に……いつまでたっても自分は幼稚だ。
アエルにしがみついていた両手から力が抜け、知らぬうちにパサリと自然に下におりていた。
「困らせるつもりはなかった…。言い方を間違えた。もしよかったら…恋人にしてほしい…」
リリアージュは溢れる恋心を悟られないように、足元を見つめたまま下を向いてアエルに聞いた。
「…恋人が無理なら…たまに一緒に過ごすのは……?学費も、もちろんちゃんと返すし…」
いつまでも自分の足元を見て、アエルの顔を見られないでいる勇気のない意気地なしの自分に、リリアージュは情けなくなった。
すると、思いがけない言葉がリリアージュの頭の上から降り注ぐ。
「プロポーズは私からしたかった。抱いた時もだが…全てリリアージュに、私の行動の先手を取られてしまう」
アエルは下を向いたままのリリアージュを、そっと抱きしめて言った。
「──私と、結婚してくれるのか?」
リリアージュは思わず顔をあげ、アエルの顔を見た。
「…いいの?」
「あなたとなら、いつでもする…」
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