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第二章 二人ぼっちの異世界で

第十三話 異世界の朝は二人を明るく照らす

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「…。」

 窓からの暖かな日差しがユウトの顔を照らし、ユウトはぼんやりしながらも深い眠りの世界から目を覚ました。

(こんなに深く眠ったのはいつぶりだろうか…。)

 意識がまだはっきりしないユウトは目元をこすり、意識を覚醒させようとする。

「んっ…。」

「…?」

 何や小さくも可愛らしい声がふと耳元で聞こえ、ユウトはその声の方向を向く。

(………うぉおえええええええええええええええええぇぇえぇぇぇぇぇぇっ!?)

 向いた目先にいたのは昨日見たセクシーなベビドールを着て、可愛らしい寝息を立てて布団から大きく離れて眠るマナの姿であった。

(…なななななななななななななんでっ!?というか魔王寝相悪っ!!)

 起きて早々パニックになって顔を真っ赤にしたユウトは、急いで布団から起き上がろうとする。

「…うーん。」

 しかしユウトが起き上がろうとしたその時、マナは寝返りを打ってユウトの腕を優しく掴む。

(ぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁあああああああっ!!)

 暖かくきめ細かい柔らかな手で初めてマナに触れられたことはとても嬉しいことなのだが、マナの今の姿がユウトの目にはあまりにも刺激的で嬉しいどころではなくなっていた。

(…今なら手をどけられる!急いで手を!!)

 緊張して手を震わせながらも、ユウトはマナの手をどかそうとする。

「…すぅ。」

 しかし手をどかそうとしたその時に、マナはユウトの腕から手をゆっくりと離してしまった。

(…あれ?)

 手が離れてユウトはとりあえず一安心するも、せめて自分がどかすまでは離して欲しくは無かったと変にモヤモヤとした気分になってしまった。

「…。」

 イマイチ気分がスッキリしないユウトは、顔でも洗って気持ちを切り替えようと改めて起き上がろうとする。

「んんっ…。」

 だがこれで終るはずがなく、狙ったかのようにマナはユウトが起き上がろうとした瞬間に自身の胸を押し付けるかのようにしてユウトの腕に眠ったまま抱きついてきた。

(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?)

 一安心して油断したところでいきなり腕に抱きつかれたことによって、柔らかな感触がより強く伝わってくる。

(おお、おおおおっ!おおおおおおおおおおっ!?む、むっ!!胸っ!!胸当たってっ!?)

 先程までは触れていたのは手だけであったため、何とか何らかの対処をしようとすることはできた。
 だが刺激の強い姿で胸まで押し付けられている今のユウトの状況下では、最大級のパニックが脳内を襲ってきて何らかの対処を取ろうにも取ることができず、ただただ真っ赤になって今のマナの姿から視線を逸らすので精一杯であった。

「むぅ…。」

 ユウトがパニックに陥っている中で、マナも深い眠りの世界から目を覚ます。

「…。」

 マナは何かを掴んでいることに気がつく。しかし寝ぼけているからか掴んでいるものがユウトの腕であるとはまだ気が付いていない。

「…う。……くぅ!」

「…?」

 何やらおかしな声がすることに気が付き、その声のする方向へとマナは寝ぼけたまま視線を声の先に向ける。

「…。」

 そしてその視線の先にいたのは顔を真っ赤にして慌てるユウトの姿であった。

「っ!?」

 驚きのあまり一瞬にして目が覚めて、マナは慌てて自分の状況を確認する。

「…ああ、ぁぁぁあああああああああ!」

 今自分が抱きついているのがユウトの腕で、そして自分の胸を強く押し付けていることが分かり声を上げて顔を真っ赤にしていく。

「…ぁ!?」

 そしてパニックに陥っていたユウトもマナが起きてしまったことに、流石に気が付いた。

「「っ!!」」

 マナは急いでユウトの腕を離す。そして動揺しながらも二人は素早く起き上がった。

「ご、ごごっ!!誤解だ!!魔王誤解だっ!!何もしてない!本っ当に何もしてないからっ!!」

 顔を真っ赤にして全力で手を前で振ってユウトは何もしてないと強く主張する。

「…ぁ。ぁぁああ…!ぁあああああああああああ…!!」

 しかし恥ずかしいという感情が脳内を埋め尽くしているマナに、そんな主張は効くはずもなく

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 大きく腕を振りかぶってマナはユウトの頬に強烈なビンタを叩き込むのであった。






「「…おはようございます。」」

「あっ!ユウトさん!マナさん!おはようございます!!昨日はよく眠れましたか…、って……………、えっ…?」

 足取りを軽くして笑顔でララカは二人を迎え入れよとするが

「「…。」」

 顔を赤く染めて恥ずかしそうにしているマナと頬に大きな紅葉を作っているユウトの姿に色々と困惑してしまった。

「えっと…。ユウトさん…、大丈夫じゃ………………、ないですよね。」

「…はい。………気にしないで下さい。」

「…と、とりあえず朝ごはん用意しましたので早く食べちゃいましょうか!」

「「はい。」」

 席に座って暖かな朝食でお腹を満たした三人はそれぞれテーブルを片付けると、ララカは今日することを話し出した。

「今日ですが、午前中はフォル・ディームの文字を覚えてもらいます。」

「「文字ですか…。」」

「はい。じゃあとりあえずここの文字をちゃんと読めるか確認するため、これを読んでみてください。」

 そういうと、いつの間にか用意していたホワイトボードにホワイトボードマーカーで何やら書き始めた。

「…では問題です!私はここに何と書いたでしょうか!?」

 とララカは『My name is Laraca Cloat.』と書かれたホワイトボードをユウトとマナに向ける。

「「…。」」

 しかし当然ながらユウトとマナにとっては初めて見る文字であるため、いくら頭を捻ろうが書かれている意味などさっぱり分からなかった。

「…まぁ、読めないですよね。正解は『私の名前はララカ・クロートです。』と書いてあります。」

「「へ…、へぇ…。」」

「ここに来られる方は言葉が話せても、ここの文字が書けなかったり読めなかったりすることはよくあることなのでお気になさらないで下さい。」

「「…はい。」」

「しかしちょっと妙なんですよね…。」

「「…!?」」

 何か怪しまれたのではないかと、二人は顔に焦りを見せる。

「お二人の書かれた字を上手く翻訳して文字を覚えてもらうのをサポートしようとしたのですが、本で調べても全くお二人の書かれた文字に該当したものは見つからなかったんですよ。」

「「…。」」

「それで一つ気が付いたんです。」

「「…!」」

「調べるに使った本は実は十年前に買ってあったものだったので、調べても意味が無かったんですよね。」

『てへっ』と笑うララカに、二人は焦りが取れた瞬間に大きくその場でズッコケた。

「さて!余談はここまでにして、文字を覚えましょうか!!」

 そう言うとララカは筆記用具とノートと何かの教材をテーブルの上に置いて、新たに用意したホワイトボードに何やら書き始めた。

「…とりあえず今日の目標は『このホワイトボードにフォル・ディームの文字で書かれているお二人の名前を自分の力だけで書けるようになる』です!」

「「…分かりました。」」

「最初はフォル・ディームの文字に慣れる所から始めたいと思います!テキストに書いてある文字は代わりに私が読みますので、遠慮しないでどんどん聞いてください。じゃあまずは二ページからやりましょうかっ!!」

 こうしてララカに言われるがままに二人はテキストを開いて、筆記用具を手にして文字を覚えようとテキストに取り掛かった。

「…えっとこれが小文字の『d』で…。」

「ユウトさん。それは『d』ではなく『b』ですよ。」

「あ、あれっ?……えっと。」

「これは『p』…?…いや『q』だったかしら?」

「そうです。これは『q』ですよ。マナさんは呑み込みが早いですね。」

「あ、ありがとうございます。」

 ララカの手解きを受ながらテキストを進めて二時間が経った頃、二人はなんとなくではあるがフォル・ディームの文字を理解し始めていた。

「お二人ともだいぶフォル・ディームの文字に慣れ始めましたので、ここでですがお二人にはヒント無しでここの文字で自分の名前を書いて頂きます。」

「「はい。」」

「では…、書いてみてください。」

 妙な緊張感を持ったまま二人は、ノートに頭を悩ませながらフォル・ディームで使われている文字で自分の名前を書く。

「「…できました。」」

「では確認しますね。」

 ララカは二人のノートを受け取ると、一文字一文字に細かく目を通していく。

「…確認したところ、マナさんは特にスペルミスも無いので後は文字全体のバランスを良くすれば問題ないですよ。」

「良かった…。」

 マナは安心した様子で胸を撫で下ろす。

「ただユウトさんなのですが…。」

「…。」

「色々と酷すぎて、どこをどのように突っ込めばいいのかすら分からないです。あまり言いたくはありませんが、全部やり直しです。」

「…はい。」

 ユウトはその言葉を聞いて項垂れた。

「とりあえず!三十分後に再テストを行います!マナさんは文字全体のバランスを良くすること!そしてユウトさんは私が付きっきりで教えますので覚悟してくださいね!!」

「「は、はいっ!!」」

 こうして二人はノートとテキストを開いて再テストに向けてフォル・ディームの文字を頭に詰めていく。

「ユウトさん!またスペルミスを起こしてますよ!」

「うぅ…。」

「あっ!さっき言ったのに、『r』と『v』がまたごちゃごちゃになってますよ!」

「え…?ぇーと…?」

「…えっとこれなら大丈夫ですかね?」

「はい!マナさん、その調子ですよ!」

 こうして太陽が一番高く昇るまで勉強会は続き、マナは二回目のテストで無事に合格したものの、ユウトは勉強が大の苦手だったらしく、合格するまで七回も掛かってしまった。

「…とりあえず、これでテストはおしまいです。お二人とも、お疲れさまでした!」

「はい…。」

 頭を使いすぎたユウトは頭から謎の煙を出して、机にうつ伏せていた。

「…ごめん魔、マナ。俺が勉強できないばっかりに、こんなに時間を掛けてしまって…。」

「気にしないで勇、ユウト。誰にだって苦手なものくらいあるから。」

 うつ伏せたまま謝っているユウトをマナは優しく慰めていると、片付けが終わったララカが席に戻ってきた。

「そろそろお昼ご飯の時間なのですが、その前にお二人にお聞きしたいことがあります。」

「「?」」

「お聞きしたいこと。それは今のお二人は何をすることが出来るかということです。」

「「出来ること…。」」

『何が出来るか』と言われて二人は自分にできることは何かと考える。

「「…。」」

 しかしお互いの種族を滅ぼすことしか今まで考えてこなかった二人にとって、自分にはこの世界で何が出来るのだろうかと強く思い詰めてしまった。

「…別にそこまで思い詰めなくてもいいんですよ!例えば剣を扱えるとか魔法が使えるとか…。」

「「…!」」

 思い詰めてしまった二人に何気なくララカは二人に簡単な例を出すが、それが二人にとっては十分な助け船になった。

「…俺は剣が使えます。」

「私は魔法が使えます。」

「……えっと。あくまで例として出したんですが、嘘ではないんですよね…?」

「「はい!」」

 二人の顔からはいつの間にか思い詰めて表情は消えていた。

「分かりました。とりあえずお腹もすきましたし、お昼ご飯にしちゃいましょうかっ!!」

 こうしてララカはニッコリと笑うと、楽しそうにキッチンへと向かうのであった。
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