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第二章 二人ぼっちの異世界で

第十二話 偽装された真実

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「…よっと。」

【テレポート】を使用してロキは時が静止したままのユウトとマナの世界に戻って来ていた。

「いやぁ…。まさかあんなに上手くいくなんて思いもしなかったなぁ…」

ユウトとマナの行動にとても満足しているロキは、笑みを隠そうにも隠しきれていなかった。

「さてと…。そんなユウトくんとマナちゃんの生活に水を差されても困るわけで…。邪魔をしそうなここのおバカさんたちには退場していただかないとねぇ…。」

シルクハットを被り直すと、ロキはユウトとマナがぶつかり合おうとしていた場所へ向かう。

「【フェイク・インパクト】」

その場所に止まったロキは、指を『パチン』と鳴らす。





パァッン!!





すると大きな音が玉座の部屋全体に響いて、まるで強いエネルギー同士が衝突したような痕跡が地面や玉座の部屋の壁に現れてきた。

「【フェイク・ブラッド】・【フェイク・ドレス】・【フェイク・ウェポン】」

ロキが魔法を詠唱するたびに、その場に無かったはずの血痕や壊れたはずのユウトの剣の一部、そしてマナのドレスの一部が現れていく。

「…これで激しいぶつかり合いを起こした形跡とその際に飛び散った血痕は偽装できた。後は…。」

偽装したユウトの剣の一部と偽装したマナのドレスの一部を拾い上げて、ロキはそれらを焦がして血痕の上にばらまいた。

「ちょっと雑がもしれないけれど、まぁこの世界なら問題は無いか。この血もDNA検査とかしてしまえばすぐに本人のものではないとバレるけど、この世界にはそんな高度な技術や機械は存在しないから大丈夫だろうね。」

ロキは最後の確認を行い

「【タイム・ストップ】解除。」

止まっていた時間を動かし始めた。

「もうこの世界には用は無い…。………さてっ!!早くヴィーナスの所に戻ってユウトくんとマナちゃんの様子を見ないとね!!あー!これからが本当に楽しみだっ!!」

ロキはウキウキした様子で【テレポート】を唱えると玉座から姿を消した。















「オオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!」

「…くうぅっ!!」

勇者であるユウトを魔王であるマナの元へ行かされたことに激高したエグマは、立ちはだかるリリィと激しくぶつかり合う。

「ウルアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!」

魔王軍の幹部としてのプライドを大きく傷つけられたザザクは、強い怒りを露わにしてアゼルに斧を振り下ろす。

「…おごぉっ。」

斧の威力は先程よりもひどく跳ね上がっており、盾で攻撃を防ぐたびにアゼルの肉体に強い衝撃を走らせ、防ぐたびにダメージを知らず知らずの内に受けてしまう。

「くそっ…!」

「…アゼル!」

「…無視をするなと!!…言っただろがあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

大きくプライドが傷ついたのは他の魔王軍の幹部たちも同じで、強い怒りを露わにしてラーナはルーフェに襲い掛かる。

「…クッ!」

「【変形自在デフォメーボル・斬撃スラッシング】っ!!」

両手に持つ剣の長さを高速で変形させ、不規則ながらも強力な斬撃をラーナは連続で繰り出していく。

「うぅ…!」

ユウトを先へ行かせるために大きく体力と魔力を消費しているせいか、ルーフェの動きは悪くなっており、得意のカウンター攻撃を繰りだせずにラーナの斬撃を喰らい続けてしまう。

「シィァアアアァァァァァァッ!!」

ルーフェが苦しむ中で、怒りに満ちたスルシュはニルを八つ裂きにしようと、素早さと攻撃力を上げてニルに連続攻撃を仕掛ける。

「…っ。」

ただでさえ隙があまりないスルシュが素早くなったことにより、ニルの槍さばきはほとんど通用しなくなり、槍の先端に魔法を付与させることも出来なくなっていた。

「【死へ誘う羊の連撃】っ!!」

ぶつかり合いの末に、ザザクはリリィの魔法障壁を勢いよく蹴り壊す。

「うぐっ…!!」

魔法障壁が壊された衝撃でダメージを受けたリリィは、ふらついてゆっくりと後退する。

「「「「はぁ…、はぁ…、…はぁ。」」」」

気が付けばユウトの仲間たちは壁の端に追い詰められており、逃げ場を完全に失っていた。

「安心しろ…。すぐには殺さん…。たっぷりと苦痛と絶望を与えた上で、ゆっくりと嬲り殺してやる…。」

そう一言告げると、エグマは畳みかけようとリリィとの距離を一気に詰める。

「【地獄へ導く黒羊の蹴り】っ!!」

「…っ!!」

エグマが蹴り技をリリィの顔面に叩き入れようとしたその時

「…くぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

アゼルが全身の痛みを堪えてエグマとリリィの間合いに盾を構えて無理やり入り込んできたのだ。

「【反撃カウンター・するマリン・ウェーブ】っ!!」

エグマの強い蹴りとアゼルの盾がぶつかり合った瞬間

「っ!?」

アゼルの盾から辺り一片を覆いつくす程の大量の水が一気に放出された。

「「「うおぁあああああああああああぁぁぁぁぁ…!!」」」

突然現れた大量の水に為す術もなく、魔王軍の幹部全員が水に飲まれて流されていく。

「…チィッ!…悪あがきを!!」

「…ケホッ!!ケホッ!!…身体に、…沁みる!?」

「これは、海水か…!?」

「………ええ、そうよ。」

海水を振り払っていた魔王軍の幹部たちが視線を上げた先に、杖の先端に魔力を強く溜めているリリィの姿が映る。

「いいこと教えてあげるわ。原理は知らないけど、海水は電気をよく通すのよね…。」

「…!!」

言葉の意味を悟ったエグマは、リリィとの距離を急いで詰めようとする。

「…もう遅いっ!!【雷光殺乱散らいこうさつらんさん】っ!!」

光を帯びた強力な電撃が空中で細く散らばるようにして広がっていき、魔王軍の幹部たち目掛けて降り注がれていく。

「「「「アアぁああアあぁあアあアぁあァアああぁあアあァあアああァぁあアアあぁアッ!!!」」」」

ただでさえ強力な電撃の猛襲は海水が引き金となって魔法の持続時間を増やした上で魔法そのものの威力が底上されて魔王軍の幹部たちはより強い苦しみの底へ堕とされていった。

「…ア。アアガッ…!」

「オォ…。オァガガ…!」

「ぅ……、うぁえ…!」

「………お、…の、……れ、ぇ!」

電撃から解放されたものの、魔王軍の幹部たちは受けたダメージと強い痺れで動けなくなって地面へとゆっくり倒れこんだ。

「はぁ…。…はぁ。」

「い、……行くぞ!」

「アゼル…!あなたもう身体が…!」

「…んなこと言ってられねぇ!!勇者を…!…ユウトを必ず俺は勝たせるんだっ!!」

「…!」

「…行こう。…ここまで来たんだ。何も得ないで帰る訳にはいかないからな…。」

「…アゼル、無理は絶対にしないで。」

「…あぁ!!」

ニルに肩を貸してもらい、アゼルは立ち上がる。そして四人は螺旋階段を上り、魔王のいる玉座のある部屋へ急いで向かう。

(勇者様…!もう少しの辛抱です…!だから…!!)

ユウトの無事を祈り、四人は玉座の部屋の扉を強くこじ開けた。

「「「「…!!」」」」

扉を開けた瞬間、異様なまでに物が焦げた臭いと血生臭い臭いが四人を襲う。

((((まさか…!))))

最悪の可能性に恐怖しながらも、四人は速足で玉座の部屋の中心へ向かう。

「「「「…。」」」」

四人が玉座の部屋の中心に見たものは、勇者と魔王がぶつかり合った形跡とその際に飛び散った真新しい血痕であった。

「勇者様…。」

顔色を悪くしたリリィは血痕の近くで脱力すると、手を震わせながら血痕の近くにあったユウトの武器の一部を拾い上げる。

「…うぅぅ、うぅううぅっ…。」

それを拾い上げた瞬間、リリィの目元から大粒の涙が流れ出す。

「「「…。」」」

緊張の糸が解れてしまい、三人も脱力して膝を地面につかせた。

「…ユウト。嘘だろ…。嘘だって言えよ…!嘘だと言ってくれよっ!!!」

「ユウト…。どうして…!!」

「うぅ……、うううぅぅっ………。」

心の中が一気に悲しみで満たされていき、三人の目からは涙が止まらなくなっていた。

「…うぐっ!」

身体の痺れから解放された魔王軍の幹部たちは、隠し通路を使って玉座の後ろからユウトの仲間たちに気が付かれないようにゆっくりと出てきていた。

「魔王様…!」

部屋の中心へと魔王軍の幹部たちは急いで向かう。

「…!?」

しかしそこにあったのは、衝突した形跡と真新しい血痕と焼き焦げたマナのドレスの一部だった。

「バカな…。バカな!バカな!!……そんなバカなことが!?」

「冗談じゃじゃねぇ…!ふざけてんじゃねぇ!!」

「…ひぐっ。う、ううぅ…。」

突如として襲ってきた絶望の光景に、魔王軍幹部たちは涙を止められずに脱力する。

「魔王…、様…。」

エグマは冷や汗を異常なほどに流して大きく震えたまま地面に手を付けた。

「私は…、また…!!魔王様を………!!!」

額から流れる汗と共に大粒の涙がエグマの目から落ちていく。

「うぅ…。」

そしてエグマの心の中が絶望が満たした瞬間

「…うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

小さな子供のように大きく泣き崩れてしまった。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

守るべき存在が消えた互いの種族は、もう殺し合いをする気力を完全に失った。

「ううっ…。うううっ…!」

しかしそれはロキの手によって全て偽装されたものであること。

ユウトとマナがまだ生きているということ。

そしてその二人が禁断の恋に落ちてしまったことなど、彼らはこの場でその手掛かり一つすらも見つけることは出来なかった。

「あぁあ…。ぁぁあっ…!」

こうした悲しみの声をいくら天に捧げようとしても、皮肉にも別の世界で生きている二人には決して届くことは無かった。
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