イケメンの定義〜西条さんがブサイクって皆さん正気ですか?〜

ちよこ

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初デート 前編

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「こ、今週の土日は休みが取れたから、何処かに出掛けないか?由紀さんの予定が空いてればだが。ど、どうせ暇だろぅ…」

電話越しに聞こえる貴之さんの声は、少し上ずっていて、つい笑みがこぼれてしまう。

誰だったかな、男性の声が上ずるのは好きな相手に緊張してしまう時だと教えてくれたのは…
うん、加奈ちゃんだ。

「はい、暇です。だから貴之さんに相手をしてもらえないと淋しくて。」

「なっ。また君はッ。きっ、昨日観たい映画があると言ってただろう。それに行こう。その後に 食事でもして………わ、わわ、私の部屋に来ないか?あああれだ。飼ってるペットを見たいと言っていただろう。それだ、それだけだ。」

なんて、なんて可愛いんだろう。
顔のニヤケが止まらない。

「映画もペットも見たいです。嬉しい!でも、貴之さんのお部屋に行けるのが一番嬉しいです。楽しみにしてますね。」

「あぁ、ああ。わたしも楽しみにしてる。じゃあ、土曜日に。おやすみ。」

「はい、おやすみなさい。」


通話を切り、私は嬉しくてベッドにダイブした。
2人で過ごしたホテルの夜から、実に二週間ぶりに会えるのだ。
貴之さんは経営者の一人として、本当に忙しい。
けど、こうして忙しい合間を縫って必ず毎日連絡をくれる。

本当に可愛くて、優しくて、素敵な人。

さて、土曜日は何を着て行こうかな。着替えも用意した方がいいかしら?
ふふっ。明日、貴之さんに聞いてみよう。何て答えてくれるかな。

由紀は赤くなった貴之の顔を思い出しながら、クローゼットへと服を選びに行く。







**西条貴之   デート当日**

あの夜から2週間が過ぎた。
毎日、連絡を取り合っているが、会えない時間が長くなればなる程、夢なんじゃないか、私の妄想だったんじゃないかと思ってしまう。

あんな幸せな時間は38年間で初めて過ごしたから…。

だが彼女から来る、私の身体を気遣うメッセージや通話履歴を見て、これは現実なんだと、夢ではないと安堵する。

孤独だった私は彼女のお陰で幸せを知った分、もう知らなかったあの頃には戻れない。

そう、彼女を手離す事なんて出来ないんだ。

例えそれが彼女にとって幸せじゃなかったとしても…。



そんな思いを胸に抱きながら、待ち合わせ場所で私を待つ彼女の元へ向かう。

彼女の前には20代半ばの男が必死に話しかけていた。

「いいじゃん。ご飯食べに行こうよー。それにしてもマジ美人だね!ドンピシャ好み。」

「だから、困ります!彼と待ち合わせ中なんです!」

「まだ来てないんだし、ブッチしちゃおうよ!美味しいの奢るからさ!」

「だから、『由紀さん。待たせてすまない。』」

「貴之さん!!」

不機嫌だった彼女の顔が私を見た瞬間に、花が咲いたような笑顔になる。

彼女は本当に綺麗だ。
声を掛けていた男も見惚れて口が開いている。
そして彼女が笑顔を向けた私を見て、今度は驚愕の顔をする。
まぁ、そうだろうな。普通の反応だ。

「映画の時間も近いし行こう。」

「はい。うふふ。2週間ぶりの貴之さんだ。今日の服も素敵です!」

また、そんな可愛い事を!ここが外でなければ、抱きしめてしまいそうになる。


「ちょっ、待てよ!」

何処かで聞いたことがあるセリフを言いながら、すっかり存在を無視された男が叫ぶ。

「そいつが彼氏とか嘘だろ?悪い冗談すぎ。ただのキモいオッサンじゃねーか」

確かにその通りだ。

しかし、

「キモいオッサンだが、彼女と付き合ってるのは事実だ。時間が無いので失礼するよ。さぁ行こう、由紀さん。」

私はそっと彼女の手を握り歩き出す。

後ろでまだ「嘘だろ、あんな季節感も無い服を着たブサイクに…」とブツブツ呟いている。

季節感?
今日は5月にしては暖かいので、お気に入りの赤いシャツをグリーンのパンツにインして、茶色の革靴を履いている。

私は自分の服装を見てみるが、彼が何を言っているのか分からなかった。

少し思案を巡らしたが、手ひらの温もりに包まれ、考えを放棄した。


「さっきはああ言ったが、映画が始まるまで時間があるから、先に食事でも行こう。何か食べたいのはあるかい?」

「そうですね、今無性にモミの木の下で、チキンとケーキを食べたい気分のような…」

モミの木?クリスマスみたいだな。と不思議に思いながら

「モミの木の下は無理だけど、近くに美味しいイタリアンがあるらしい。そこならチキンとケーキはあると思うが」

「ハッ。それでいいです。貴之さんと一緒に食べれるなら、何だって。」


~~~~ッ。だから君は!!
ニッコリ微笑む彼女を前に、私はただ頷くしか出来なかった。
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