上 下
6 / 10

二人の想い

しおりを挟む
***由紀side***

目の前にある美味しそうな料理の味が緊張からか全く分からない。
頭の中は食事の後の事でいっぱい。
ダメダメ。今ここで加奈ちゃんの教えを思い出したら!
慌ててワインを口に入れる。

「この舌平目のムニエル美味しいですね。」

「ああ、そうだな。」

………。

「西条さんはお酒はよく呑まれるんですか?」

「ああ、弱くはない。」

…………………。

さっきからこの感じだ。
西条さんも緊張してるのかな。
目線がキョロキョロ、体はソワソワと落ち着きがない。
貰われてきた小動物みたいで可愛い。

今日の格好は前回と違ってシンプルだ。
濃いグレーのスーツに水色のシャツとネイビーのネクタイ。
だけどいい。
とても良い。
結局は何を着ていても似合うのだ。
頭のポマードもたっぷりと塗られて地肌の艶が増している。
口周りの髭は前回より薄い気がするから直前に剃ってきたのかしら?
あっ、眉毛が繋がってないわ。
繋がってても素敵だったけど、私に会う為に整えてきてくれたのだとしたら嬉しい。

自然と笑みを浮かべていると
西条さんがこちらを凝視していた。

「あ、こ、この後だが上に部屋を取っている。き、き、君が嫌じゃなければ、あ、朝まで一緒に過ごして欲しい」

ダラダラと汗を流しながら手のひらが白くなるほど握りしめて小さな声で囁いた。

「もちろんです。そのつもりでいました。こちらこそ宜しくお願いします。」











部屋は最上階のスイートルームだった。
窓から見えるイルミネーションはキラキラと輝いている。
これから起こるであろう出来事に緊張していると

「さ、ささ先にシャワーを浴びてくれ!」

「は、はい。」

西条さんに促されて、私は荷物と共にバスルームへと向かう。
さすがスイートルームというべきか。
広さも造りも豪華だ。
アメニティも充実している。
私は髪をシュシュで結い上げ、服を脱ぎシャワーを浴びる。

だ、大丈夫かな。
うまく出来るかしら?

加奈ちゃんの言葉を思い出す。

「んー。多分西条さんは慣れてないと思うんだよね。しかもオジサンだし。だから由紀も受け身だけじゃなくて、積極的にいかなきゃね。」

受け身ダメ。
積極的に。

「下着は白ね。白一択。これオジサンには鉄板!」

下着は白。

「シャワー後も下着つけて良いよ!由紀も最初から裸にバスローブは抵抗あるでしょ。まぁ、脱がす喜びも興奮のエッセンスよねー。あ、化粧はアイシャドウやマスカラが落としてね。悲惨な事になるから」

脱がす喜び。
興奮のエッセンス。
アイメイクは落とす。


とりあえず加奈ちゃんの教えのもとに白い下着を身につけて、上からバスローブを羽織る。
化粧を落として化粧水と乳液で肌を整えた私は浴室を出た。



ソファーに座っていた西条さんは視線が合うと瞠目して顔を真っ赤にして立ち上がったり、座ったりを繰り返している。

「あの。西条さんシャワーどうぞ?」

「あ、ああ。」

ハッとした表情を浮かべ、西条さんは逃げるように浴室へ向かって行った。




***西条side***

とうとうきた。
彼女と約束した土曜日だ。
お見合い後はどうやって帰宅したのかさえも記憶が曖昧だ。
だが夢では無かった証拠がある。
彼女の連絡先と2人のツーショット写真だ。
写真を撮る仲居の顔が引きつっていたが、隣に立つ彼女からの甘い香りに頭がクラクラしていてそれどころじゃなかった。
写真なんて卒業アルバム以来だから20年ぶりだろうか。
写真嫌いの私にはプライベート写真は一枚もない。
もちろん女性と撮るなんて初めてだ。
だから写真の私の顔が顔面崩壊しているのは仕方ない事なのだ。
美女と野獣どころの騒ぎじゃない。

だが彼女はそんな写真を嬉しそうに見て笑っていた。

ああ、もう駄目だ。反則だ。
そんな笑顔を見せられて惚れないわけがないだろう。

たった笑顔一つで38年間守り続けた自己防衛壁をいとも簡単に崩された。

認めるしかない。
私こそが一目惚れして、彼女の全てを手に入れたいと…。
分不相応な事は重々承知だ。
でも、でも一度くらいは望んでも良いじゃないか。
諦め続けてきた人生で、初めて差し出された手を掴んだっていいじゃないか。
最初で最後であろうチャンスをものにしたい。


私はその為に恥を忍んで東川に相談をした。


「えっ。何々、本当にうまくいっちゃったの?あの可愛子ちゃんと?」

「まだうまくはいっていない。次に会う約束をしただけだ。」

「そんな言いながらホテルで土曜のディナーなんてヤリます!て言ってるのと一緒じゃん。まぁ、それを承諾した彼女も理解してると思うけど」

ニヤニヤ笑いながら話す東川を見て早くも相談した事を後悔する。

「と、とにかく私にはデートの経験がないんだ。何か気をつけるべき注意点があるなら教えて欲しい」

「注意点ねぇ。」




東川との会話を思い出しながら私は目の前に並ぶ料理を消費していく。
味なんて分からないままに。

目の前には光沢のある紫色のワンピースを着た美しい女性がいる。
少し大きくカットされた胸元にはオレンジ色のネックレス。
どこか見覚えのある配色だが、気のせいだろうか?
なんにせよ彼女が美しい事は事実だ。

見惚れていたせいで彼女からの問いかけに空返事をしてしまう。
そんな失礼な態度にもかかわらず彼女は私に微笑んでくれる。

「あ、こ、この後だが上に部屋を取っている。き、き、君が嫌じゃなければ、あ、朝まで一緒に過ごして欲しい」

ああ、駄目だ。何でもっとスマートに誘えないんだ!
ダラダラと汗を流しながら手のひらが白くなるほど握りしめる。

「もちろんです。そのつもりでいました。こちらこそ宜しくお願いします。」

だが彼女は真っ直ぐに私を見つめて答えてくれる。




部屋は最上階のスイートルームを取った。
せめて部屋くらいは良いものにしたい。
カードを受け取る際のフロントや部屋を案内するベルボーイの視線は無視した。


彼女がシャワーを浴びている間に東川からのアドバイスを実行する。

「ほら、西条は久しぶりでしょ。スムーズにいかない場合も考えてゴムは2、3枚は用意した方が良いね。家でも練習してたほうが良いよ。爪も切るように。」

4枚用意した。
東川の言う通り久しぶりの装着には随分戸惑い3枚程無駄にしたが、スマートに付けれるようになった。
爪は切りすぎて深爪だ。

枕元にゴムを置いていると彼女が浴室から出てくる気配がした。

慌ててソファーへと座る。


しばらくするとバスローブに身を包んだ女神が現れた。
少し上気した顔は化粧を落としていてスッピンだ。
スッピンという定義が根本から覆られそうになる。
なんなんだ!
彼女はなんなんだ!
何故あんなに美しいのだ。

惚けていた私は彼女に促されて慌てて浴室へと向かった。

浴室でも東川の言葉を思い出す。

「頭は洗おう!ポマードは取るんだ。彼女の顔にポマードを付ける気か?」

くっ。私にとっての聖水だが仕方ない。
彼女のきめ細やかな肌に付けるわけにはいかないからな。

「耳の下と首の後ろは念入りに洗うんだ。加齢には勝てないからね。」

耳の下と首の後ろは念入りに。
ついでに髭も念入りに剃った。

シャワーを浴びながら東川の言葉を反芻する。

「何だかんだ言って俺達はオジサンだからね。若い奴らには勝てない事もある。回数とか、硬度とか。でもほら、経験値と耐久力は負けないじゃん。あ、西条は経験値ないから耐久力と前戯にかける時間で勝負だね」

耐久力…彼女を前にして持つだろうか。
テクニックなど無い私の前戯で彼女は満足してくれるだろうか。

「あ、そうだ。西条は体は小さいわりに結構立派な武器持ってるじゃん。俺ほどじゃ無いけど!それで彼女をガンガン攻めれば大丈夫じゃない?」

「ガンガンというが、初めての相手にもか?」

「うんうん。ガンガンねー、って初めて?誰が?えっ、あの子未経験なの?うわーいきなり上級者プレイになったね。処女かー」

やはり処女は違うのか。

「うーむ。とにかく前戯に時間をかけるしかないね。お互いに初心者なんだし、2人で気持ちいい事を見つけるしかないわ。どうやったって痛いらしいし。」

痛いのか…
彼女に苦痛は与えたくない。

「俺から言えるのはこれくらいかね。頑張れよ!」




シャワーを止めて私は体を拭く。

鏡に映る姿は酷いものだ。

薄毛を隠すために伸ばしたかみは肩ほどまで伸びている。濡れているせいか肌色の面積が広い。
髭は剃っても濃く口周りは青色だ。
頭に反して体毛は濃い。
日本人女性が嫌がる胸毛は臍の下まで繋がっている。
もちろん太ももの後ろも毛だらけだ。
年々出てくる腹は完全なメタボだ。

この見苦しい身体を彼女に晒さなければいけない。
彼女は幻滅するだろうか。
それとも笑ってくれるだろうか。


私はバスローブを羽織り彼女の元へと向かう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

【続】18禁の乙女ゲームから現実へ~常に義兄弟にエッチな事されてる私。

KUMA
恋愛
※続けて書こうと思ったのですが、ゲームと分けた方が面白いと思って続編です。※ 前回までの話 18禁の乙女エロゲームの悪役令嬢のローズマリアは知らないうち新しいルート義兄弟からの監禁調教ルートへ突入途中王子の監禁調教もあったが義兄弟の頭脳勝ちで…ローズマリアは快楽淫乱ENDにと思った。 だが事故に遭ってずっと眠っていて、それは転生ではなく夢世界だった。 ある意味良かったのか悪かったのか分からないが… 万李唖は本当の自分の体に、戻れたがローズマリアの淫乱な体の感覚が忘れられずにBLゲーム最中1人でエッチな事を… それが元で同居中の義兄弟からエッチな事をされついに…… 新婚旅行中の姉夫婦は後1週間も帰って来ない… おまけに学校は夏休みで…ほぼ毎日攻められ万李唖は現実でも義兄弟から……

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

愛娘(JS5)とのエッチな習慣に俺の我慢は限界

レディX
恋愛
娘の美奈は(JS5)本当に可愛い。そしてファザコンだと思う。 毎朝毎晩のトイレに一緒に入り、 お風呂の後には乾燥肌の娘の体に保湿クリームを塗ってあげる。特にお尻とお股には念入りに。ここ最近はバックからお尻の肉を鷲掴みにしてお尻の穴もオマンコの穴もオシッコ穴も丸見えにして閉じたり開いたり。 そうしてたらお股からクチュクチュ水音がするようになってきた。 お風呂上がりのいい匂いと共にさっきしたばかりのオシッコの匂い、そこに別の濃厚な匂いが漂うようになってきている。 でも俺は娘にイタズラしまくってるくせに最後の一線だけは超えない事を自分に誓っていた。 でも大丈夫かなぁ。頑張れ、俺の理性。

大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。

水鏡あかり
恋愛
 姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。  真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。  しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。 主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。

<完結>【R18】バレンタインデーに可愛い後輩ワンコを食べるつもりが、ドS狼に豹変されて美味しく食べられちゃいました♡

奏音 美都
恋愛
原田美緒は5年下の後輩の新人、柚木波瑠の教育係を担当している。可愛いワンコな柚木くんに癒され、萌えまくり、愛でる幸せな日々を堪能していた。 「柚木くんは美緒にとって、ただの可愛い後輩ワンコ?  それとも……恋愛対象入ってるの?」 「うーーん……可愛いし、愛しいし、触りたいし、抱き締めたいし、それ以上のこともしたいって思ってるけど。これって、恋愛対象?」 「なに逆に聞いてんのよ!  それ、ただの痴女じゃんっ!! こわいなぁ、年増の痴女……」 恋に臆病になってるアラサーと可愛い新人ワンコの可愛い恋のお話、と思いきや、いきなりワンコがドS狼に豹変して翻弄されるドキドキラブコメディー。

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

処理中です...