イケメンの定義〜西条さんがブサイクって皆さん正気ですか?〜

ちよこ

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理想の王子様

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私は王子様に恋をした。



事の発端は一週間前に遡る。

「あの、部長困ります。立って下さい」

呼び出された会議室に入るなり私の目の前で、顔を床に擦り付けながら土下座する部長に声をかける。

「早坂、本当に申し訳ない。この通りだ!会うだけで良い。会って少し食事してくれるだけで良いんだ。私を、いや私達営業一課を助けてくれ!!」


えっ、何の話?
まったく状況が分からずに途方にくれる私に説明してくれたのは同じく営業一課の係長。

なんでも得意先との契約に我が社の書類に不備が見つかり、対処したが相手側は契約破棄を言い出して、どうしても契約を結びたい部長へ出された相手からの提案が私とのお見合いらしい。

はい?
お見合い?
いやいやいや、営業一課の契約に私は全く関係ないですよね。
そもそも何で?
頭の中はクエッションマークでいっぱいだ。

「相手は東西コーポレーションの副社長なんだ。打診してきたのは社長である東川さんだが、友人でもある副社長の西条さんに女っ気が無いのを心配してね。我が社の美人で有名な君の噂を聞いて決めたらしい。もしお見合いを断れば今回の契約は白紙に戻ってしまう。そうすると損失は7000万程になる」

7000万…
部長と係長の顔は真っ青だ。
それはそうだろう。
その損失を土下座で回避出来るなら何回でもする。

「この通りだ。早坂!何も結婚するわけじゃない!ただお見合いの席にいてくれるだけでいいんだ。無事終わったら、断って良いと先方も言っている。ただ、美人と食事する機会を与えたいとの事だから。早坂は得意先との接待と思ってくれれば良いんだ。
もちろん休日出勤手当も2倍出す。お願いだ。営業一課を助けてくれー!」


そんな話を聞かされたら断るのは難しい。
私は渋々ながらも、引き受けた。






結果、うん。部長ナイス!
7000万以上の価値あり。


目の前に王子様がいる。
ポマードをたっぷりなでつけた頭は地肌がチラチラと見えていてバーコード具合が素晴らしい。
それとは対照的に口の周りは髭を剃っていても分かるほどにびっしりと青い。
よく見ると眉毛も繋がっている。
糸のような細い目は開いているのかさえもわからない。
鼻はペシャンコで上向き。
唇は分厚くて青紫。
身長は160cmあるかしら?
短い足がキュート。

それに服装も素敵。
濃紺ストライプのスーツはイタリア製かしら。
シャツは夜のネオンのように輝く紫色のサテン生地。
ネクタイは蛍光オレンジのペイズリー柄。
どこで売ってるの?
斬新すぎるわ。
そしてこの癖のあるファッションに負けていないのが凄い!!
自分のものにしてるというのかしら、
この人以外にこの服装は出来そうにない。

隣に座る部長の目は涙目だ。

「すまん。休日手当5倍出す。本当にすまん。まさかこれ程までとは…」

何かブツブツ呟いているが私には聞こえない。

目の前に座る王子様、西条貴之さんに夢中で目が離せないのだから。
名前まで素敵で完璧すぎる。
脳内がピンク色になっていると西条さんが口を開いた。

「私は乗り気じゃなかったが、そちらがどうしても会いたいと言うから忙しい合間を縫って出てきてやったんだ。感謝してほしい。」

小さな声でボソッと呟く。
斜め上を見ていて目は合わない。
額には脂汗が浮いている。

何なの、可愛すぎる。
小さな猫がシャーシャー言ってるみたい。

「はじめまして西条様。わたくし早坂由紀と申します。本日はお忙しい中、御足労頂きましてありがとうございます。」

目線を合わせてゆっくりと微笑みかける。
すると西条さんの顔は真っ赤に染まり益々汗が溢れ出てきた。

「あ、ああ。君の事は噂で良く聞く。ふん。どうせ男を取っ替え引っ替えして遊んでるんだろう。」

「西条さん。なんて事を!早坂は非常に勤務態度も真面目で如何わしい噂なども聞きません。いくらなんでも酷すぎます」 

部長が青い顔を真っ赤に変えて西条さんに詰め寄る。

「部長ありがとうございます。でも大丈夫です。西条さん、どんな噂を耳にされたかは存じませんが私は潔白です。だって24年間誰ともお付き合いした事の無い清らかな身体ですもの。まぁ、この場で証明する事は出来ませんけど、その機会は西条さんが望んで下さるのならいつでもお申し付けください。」

「な、な、何を言ってるんだ」

あら、赤い顔で口をパクパクする姿が金魚みたいで可愛い。

「早坂。お前…本気か?」

部長はまた真っ青な顔色をして震えてる。

「ええ。部長、あとは私達二人で話し合いますので、今日は帰宅していただいても結構です。お疲れ様でした。」


いや、しかし、だが…と口にする部長に荷物を手渡し、無理矢理に帰らせた。



「ふふ。保護者も帰りましたし、今後のことを話しませんか?」

「き、君は本気で言ってるのか?私はついさっき君に酷い暴言を吐いたんだぞ。それに私の容姿に思う事はないのか?」

「本気で言ってない事は分かってますし、容姿については、その…」

恥ずかしさに口ごもる私に

「ふっ、やはりな。どうせ事を大きくしない為に口から出まかせを言ったんだろう。あのままだと堀部長が煩いからな。ああ、大丈夫だ。いつもの事だからな。気にしてない。」

喋りながら無表情になり小さくなる体を見つめていると思わず呟いてしまった。

「好き。」

「分かってる。よく言われるよキモイとな。って…えっ?好き?」

「はい。好きです!可愛すぎる!」

「か、可愛い?私がか?君は何を言ってるんだ。」

またまた西条さんの顔は真っ赤になり脂汗が浮いてきた。

「ええ。西条さんが可愛いんです。実は一目惚れしてしまいました。出来ればお付き合いして頂きたいです。」

私もつられて赤くなりながら、生まれて初めての告白をした。

「一目惚れ…君は視力が…はっ!分かったぞ。これが噂の美人局だな。私は引っかからないぞ!心配しなくても契約は結ぶ。破棄は取り消すから安心しろ。」

一世一代の告白を全く本気に取られないどころか、美人局だと思われるなんて。

「違います。本当に西条さんが理想のタイプで一目惚れしたんです!まずはお友達からでよいのでお願いします。」

「理想のタイプ…私がか?やはり視力に問題が…えっ。いや、本当に?コレは夢か?それとも死期が近い私に哀れんだ神が最後に……そうならば臆することはないな。よし、もう一度聞くが私に一目惚れをして交際を申し込んだのは本気だろうか?」

恐る恐る尋ねてくる西条さんに頭の中で悶えながらも、私は真面目な顔をして答えた。

「はい。本気です。冗談で告白なんてしません。そもそも告白自体もこれが初めてですし。」

「あぅ。うぁ…そ、そうか。やはり夢だな。今は夢を見てるのだ。最近は働き詰めだったから疲れてるんだな。それにしても良い夢だ。こんな美人と仕事以外で話す事なんてこの先無いのだから夢の中ぐらい良い思いをしよう!よし、な、なら次回はディナーでもどうだ?帝和ホテルのフレンチなんだが……土曜の夜にだ!本気なら良いだろう!?」


少し強気な語尾なのに潤んだ瞳に体は震えていて、そのギャップがたまらない私は笑顔で返事をした。


「はい。楽しみにしてます」





これが西条さんと私の出会いである。

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