2 / 12
気持ちを伝えよう
しおりを挟む早速、週末の土曜日に図書館へと向かう事にした。
落ち着かず部屋の中を何度も行ったり来たりを繰り返しながら彼女が居るであろう時間になるのを待つ。
ーーいた、天使だ。
厳かな雰囲気の図書館に降り立つ天使。
その天使は水色のカーディガンにデニム、スニーカー、キャンパスバッグという装いで本棚の前に立ち、本を物色している。
ああ、カジュアルな服装も良い。とても良い。
何を着ていてもよく似合う。
気になる本を見つけたのか、本棚から本を抜き取りパラリとページを繰る。
彼女の周りだけ空気が違うというか、ゆるやかに時間が流れる雰囲気が堪らない。
見れば見るほど、知れば知るほど彼女の存在が大きく、尊いものになる。
そうか、これが巷でうわさの【尊い】か!
よし、行くぞ瑛一。
自然に、自然に、とにかく自然にだ。
俺はゆっくりとした足取りで彼女に近づき声をかけた。
「あれ、総務部の…」
「あっ。企画部の……成瀬さん?」
絵莉たんが、お俺の名前をー。
俺の名前を知っていた。
そうです、成瀬です。成瀬と申します。
というか名前を、瑛一と、瑛一と呼んでくれ。えいたん。でも可。はぁはぁはぁ。
「川野さん…だよね?偶然だね。よく来るの?」
「あ、はい。近所なのでよく来ます。」
「そうなんだ、じゃあ。」
俺はたったそれだけ言葉を交わし、その場を去った。
あぁ、もっと話したい。というかずっと話したい。声を聞いていたい。見つめ合いたい。側にいたい。
絵莉たん可愛い。可愛い。いい匂い。可愛い。
落ち着け瑛一!ほぼ初対面から攻めるのは駄目だ。
最初は挨拶程度が望ましい。
急いては事を仕損じる…というではないか。
計画した【 'えいえい'と"えりえり"のラブラブ大作戦 】通りに進めなければ。
俺はそれから毎週のように図書館に通い、挨拶程度の会話に留め、少しずつ、少しずつ絵莉たんと距離を縮めていった。
月日は流れて、俺が図書館へ絵莉たん目当てで通うようになってから3ヶ月が過ぎていた。
「オススメの本、かなり面白かったよ。」
「気に入ってもらえて良かったです。作者は伏線の張り方が上手ですよね。」
「そうだね。まさかあそこで……」
今では自然に彼女の隣の席に座れるようになり、読んだ本について談話室で語り合えるようになった。
好きな本のことを話す絵莉たんが、楽しそうで、可愛いすぎる。
それは俺が彼女と会話を楽しんだ後の事だった。いつものように一足先に帰ろうと図書館の正面玄関を出たら雨が降っている。
今日の天気予報は外れたようだ。
もちろん傘は持ってない。
最寄駅まで走れば7分だが、借りた本があるから雨に濡れるのは避けたい。
周りは住宅ばかりでコンビニも駅近くだ。
さて、どうしようかと悩んでいると、
「駅までご一緒しませんか?」
俺の天使、絵莉たんが差していた傘を傾ける。
「川野さん。」
「窓から雨が降っているのが見えて、成瀬さんが傘を持っていたのか気になって。」
なんですとー!
わざわざ?わざわざ?
俺を追いかけて?
き、き、気になったから?
あぁー好きだ、好きだ、好きだ、好きだ。
微動だにしない俺を不思議そうに首を傾げる絵莉たん。
「成瀬さん?」
「ぁはィ」
ぐっ、変な声がーー。
だって考えてみろ、天使が真っ直ぐに見つめてくるんだぞ!
うわぁ、ちょっ待って、可愛すぎてヤバイ。傘持って下から少し見上げる角度ヤバイ。
いや、これ何これ、可愛い、可愛い、可愛すぎるぅぅぅ~~。
「好きだ。」
「えっ」
「えっ?」
あれ、今、俺何言った?
まさか?まさかの?
心の声が漏れちゃった…的な?
口からつい本音が出ちゃいました…的な?
絵莉たんの綺麗な澄んだ瞳が俺の心臓を鷲掴みする。
言え、言うんだ瑛一!
こうなったら覚悟を決めて言うしかない!
男…成瀬瑛一…いきまーす!!
「川野絵莉さん、貴方の事が好きです。」
言われた言葉を反芻していたのか、絵莉たんの目が徐々に開かれ、口元を細く白い手が覆う。
驚く絵莉たん、可愛い。
「一目見た時からずっと好きだった。だから、その、もし迷惑じゃなかったら…俺と付き合って下さい。」
気の利いた台詞が言えない。だが、絵莉たんには回りくどい言い方じゃなくて、本心のみを伝えたかった。
俺にとっては永遠のように長い時間が経過した頃
「成瀬さん…」
「は、はい。」
絵莉たんが口を開いた。
「あの、よ、宜しくお願いします。」
「えっ」
えっ?え、ええ?
今、宜しくって言った?
宜しくお願いします。って言ってたよね?
お付き合いして下さい。に対して宜しくお願いします。
ということは…
いやいや、待て、待て、待って、待つんだ。
空耳かもしれん。自分の都合のいいように聞こえた空耳かもしれん。
か、確認しよう。そうだ、確認は大事だ。
「あの、川野さん?それはOKという事で良いのでしょうか?」
NOて言わないでぇぇぇぇ。
再度聞き直す俺に
「はい。」
絵莉たんが耳まで真っ赤にしながら首を縦に振るのを見て俺は泣いた。20年ぶりくらいに泣いた。嬉しくても涙は出るんだな。
突如涙を流す俺に驚きながら、ハンカチでそっと拭いてくれた絵莉たんの手の温もりで、これが現実だと分かり、尚更のこと泣いてしまった。
こんな奴が彼氏で申し訳ない。
そうーー、か、彼氏!か、か、彼氏!?
俺が?俺が絵莉たんの彼氏?
それにしても30歳目前の男が突然泣き出すとか、付き合って早々引かれてたらどうしよう。
そっと絵莉たんを見ると目があって微笑まれた。
ああ、好きだ。
「あの、成瀬さんがいつも話を聞いてくれて凄く嬉しかったし、読んだ本の感想を言い合えるのもすごく楽しくて。成瀬さんみたいな素敵な人と付き合うなんて以前なら考えもしなかったけど、この3ヶ月で一緒に過ごす時間が私にとっても大切で、ずっと続くといいなーーって思ってたから………あの、私も…好きです。」
夢じゃない。夢じゃないんだ。
頬を赤く染める彼女を見て、心の底から好きだと思った。
好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだー!
ああ、今日は何て素晴らしい日なんだ。
0
お気に入りに追加
534
あなたにおすすめの小説
ハイスペックな元彼は私を捉えて離さない
春野 カノン
恋愛
システムエンジニアとして働く百瀬陽葵(ももせひまり)には付き合って2年程の彼氏がいるが忙しくてなかなか会う時間を作れずにいた。
そんな中、彼女の心を乱すある人物が現れる。
それは陽葵が大学時代に全てを捧げた大好きだった元彼の四ノ宮理玖(しのみやりく)で、彼はなんと陽葵の隣の部屋に引っ越してきたのだ。
ひょんなことなら再び再会した2人の運命は少しづつ動き出す。
陽葵から別れを切り出したはずなのに彼は懲りずに優しくそして甘い言葉を囁き彼女の心を乱していく。
そんな彼となぜか職場でも上司と部下の関係となってしまい、ますます理玖からの溺愛&嫉妬が止まらない。
振られたはずの理玖が構わず陽葵に愛を囁き寵愛を向けるその訳は───。
百瀬陽葵(ももせひまり) 26歳
株式会社forefront システムエンジニア
×
四ノ宮理玖(しのみやりく) 28歳
株式会社forefront エンジニアチーフ
※表紙はニジジャーニーで制作しております
※職業、仕事など詳しくないので温かい目でみていただきたいです
ドSでキュートな後輩においしくいただかれちゃいました!?
春音優月
恋愛
いつも失敗ばかりの美優は、少し前まで同じ部署だった四つ年下のドSな後輩のことが苦手だった。いつも辛辣なことばかり言われるし、なんだか完璧過ぎて隙がないし、後輩なのに美優よりも早く出世しそうだったから。
しかし、そんなドSな後輩が美優の仕事を手伝うために自宅にくることになり、さらにはずっと好きだったと告白されて———。
美優は彼のことを恋愛対象として見たことは一度もなかったはずなのに、意外とキュートな一面のある後輩になんだか絆されてしまって……?
2021.08.13
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ある夜の出来事
雪本 風香
恋愛
先輩と後輩の変わった性癖(旧タイトル『マッチングした人は会社の後輩?』)の後日談です。
前作をお読みになっていなくてもお楽しみいただけるようになっています。
サクッとお読みください。
ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる