美男子が恋をした【R18】

ちよこ

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早速、週末の土曜日に図書館へと向かう事にした。
落ち着かず部屋の中を何度も行ったり来たりを繰り返しながら彼女が居るであろう時間になるのを待つ。


ーーいた、天使だ。
厳かな雰囲気の図書館に降り立つ天使。
その天使は水色のカーディガンにデニム、スニーカー、キャンパスバッグという装いで本棚の前に立ち、本を物色している。
ああ、カジュアルな服装も良い。とても良い。
何を着ていてもよく似合う。
気になる本を見つけたのか、本棚から本を抜き取りパラリとページを繰る。
彼女の周りだけ空気が違うというか、ゆるやかに時間が流れる雰囲気が堪らない。
見れば見るほど、知れば知るほど彼女の存在が大きく、尊いものになる。
そうか、これが巷でうわさの【尊い】とうといか!
  

よし、行くぞ瑛一。
自然に、自然に、とにかく自然にだ。
俺はゆっくりとした足取りで彼女に近づき声をかけた。

「あれ、総務部の…」

「あっ。企画部の……成瀬さん?」

絵莉たんが、お俺の名前をー。
俺の名前を知っていた。
そうです、成瀬です。成瀬と申します。
というか名前を、瑛一と、瑛一と呼んでくれ。えいたん。でも可。はぁはぁはぁ。

「川野さん…だよね?偶然だね。よく来るの?」

「あ、はい。近所なのでよく来ます。」

「そうなんだ、じゃあ。」


俺はたったそれだけ言葉を交わし、その場を去った。
あぁ、もっと話したい。というかずっと話したい。声を聞いていたい。見つめ合いたい。側にいたい。
絵莉たん可愛い。可愛い。いい匂い。可愛い。
落ち着け瑛一!ほぼ初対面から攻めるのは駄目だ。
最初は挨拶程度が望ましい。
急いては事を仕損じる…というではないか。
計画した【 'えいえい'と"えりえり"のラブラブ大作戦 】通りに進めなければ。
俺はそれから毎週のように図書館に通い、挨拶程度の会話に留め、少しずつ、少しずつ絵莉たんと距離を縮めていった。



月日は流れて、俺が図書館へ絵莉たん目当てで通うようになってから3ヶ月が過ぎていた。

「オススメの本、かなり面白かったよ。」

「気に入ってもらえて良かったです。作者は伏線の張り方が上手ですよね。」

「そうだね。まさかあそこで……」

今では自然に彼女の隣の席に座れるようになり、読んだ本について談話室で語り合えるようになった。
好きな本のことを話す絵莉たんが、楽しそうで、可愛いすぎる。




それは俺が彼女と会話を楽しんだ後の事だった。いつものように一足先に帰ろうと図書館の正面玄関を出たら雨が降っている。
今日の天気予報は外れたようだ。
もちろん傘は持ってない。
最寄駅まで走れば7分だが、借りた本があるから雨に濡れるのは避けたい。
周りは住宅ばかりでコンビニも駅近くだ。
さて、どうしようかと悩んでいると、

「駅までご一緒しませんか?」

俺の天使、絵莉たんが差していた傘を傾ける。

「川野さん。」

「窓から雨が降っているのが見えて、成瀬さんが傘を持っていたのか気になって。」

なんですとー!
わざわざ?わざわざ?
俺を追いかけて?
き、き、気になったから?

あぁー好きだ、好きだ、好きだ、好きだ。


微動だにしない俺を不思議そうに首を傾げる絵莉たん。

「成瀬さん?」

「ぁはィ」

ぐっ、変な声がーー。
だって考えてみろ、天使が真っ直ぐに見つめてくるんだぞ!
うわぁ、ちょっ待って、可愛すぎてヤバイ。傘持って下から少し見上げる角度ヤバイ。
いや、これ何これ、可愛い、可愛い、可愛すぎるぅぅぅ~~。


「好きだ。」

「えっ」

「えっ?」

あれ、今、俺何言った?
まさか?まさかの?
心の声が漏れちゃった…的な?
口からつい本音が出ちゃいました…的な?

絵莉たんの綺麗な澄んだ瞳が俺の心臓を鷲掴みする。

言え、言うんだ瑛一!
こうなったら覚悟を決めて言うしかない!
男…成瀬瑛一…いきまーす!!


「川野絵莉さん、貴方の事が好きです。」


言われた言葉を反芻していたのか、絵莉たんの目が徐々に開かれ、口元を細く白い手が覆う。
驚く絵莉たん、可愛い。

「一目見た時からずっと好きだった。だから、その、もし迷惑じゃなかったら…俺と付き合って下さい。」

気の利いた台詞が言えない。だが、絵莉たんには回りくどい言い方じゃなくて、本心のみを伝えたかった。


俺にとっては永遠のように長い時間が経過した頃

「成瀬さん…」

「は、はい。」

絵莉たんが口を開いた。

「あの、よ、宜しくお願いします。」


「えっ」


えっ?え、ええ?
今、宜しくって言った?
宜しくお願いします。って言ってたよね?
お付き合いして下さい。に対して宜しくお願いします。
ということは…
いやいや、待て、待て、待って、待つんだ。
空耳かもしれん。自分の都合のいいように聞こえた空耳かもしれん。
か、確認しよう。そうだ、確認は大事だ。

「あの、川野さん?それはOKという事で良いのでしょうか?」

NOて言わないでぇぇぇぇ。
再度聞き直す俺に

「はい。」

絵莉たんが耳まで真っ赤にしながら首を縦に振るのを見て俺は泣いた。20年ぶりくらいに泣いた。嬉しくても涙は出るんだな。
突如涙を流す俺に驚きながら、ハンカチでそっと拭いてくれた絵莉たんの手の温もりで、これが現実だと分かり、尚更のこと泣いてしまった。
こんな奴が彼氏で申し訳ない。
そうーー、か、彼氏!か、か、彼氏!?
俺が?俺が絵莉たんの彼氏?
それにしても30歳目前の男が突然泣き出すとか、付き合って早々引かれてたらどうしよう。
そっと絵莉たんを見ると目があって微笑まれた。
ああ、好きだ。

「あの、成瀬さんがいつも話を聞いてくれて凄く嬉しかったし、読んだ本の感想を言い合えるのもすごく楽しくて。成瀬さんみたいな素敵な人と付き合うなんて以前なら考えもしなかったけど、この3ヶ月で一緒に過ごす時間が私にとっても大切で、ずっと続くといいなーーって思ってたから………あの、私も…好きです。」

夢じゃない。夢じゃないんだ。 
頬を赤く染める彼女を見て、心の底から好きだと思った。
好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きだー!

 

ああ、今日は何て素晴らしい日なんだ。
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