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ハッピーエンド*富永美紀side*

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「口に合わなかった?」

幸治さんの声に私は弾かれたように顔を上げる。
せっかく美味しいモツ鍋だったのに箸がすすまなかった。

「え、えっと、美味しかったです。」

慌てて返事をしたけど、じっと見つめられて、思わず目が泳ぎ視線を外してしまう。

「何かあった?さっきから悩ましげな顔してるよね。もし良かったら話を聞かせてほしい。」

優しい微笑みに、ズキンと胸が痛む。
ほら、言わなきゃ。
一言「もう一緒に食事は出来ない」って。
その言葉を口にすれば、この関係は終わる。
元々接点はないから、会う事は無いだろう。
もう二度と。
二度と幸治さんに会えない。

何で?なぜ会っちゃいけないの?

答えは簡単。
私がデブで……意思が弱くて食欲を我慢出来ないから。
デブはよく言われる。
自己管理能力が低いって…
そして、デブと一緒にいる幸治さんが笑われてしまうから。
嫌だ。
それは嫌だ。
私だけならいい。
笑われるのも、嘲られるのも慣れてる。
でも一緒にいる幸治さんまで笑われるのは嫌だ。
あんな素敵な人が笑われるなんて。
幸治さんが笑われるくらいなら、諦めてしまった方が良いし、私も…これ以上傷つかなくてすむ。
だから…だから……この関係は終わるしかない。終わらせないといけない。

昨日から同じ事ばかりグルグル考え続けている。
答えは出ているのに。
理由も明確なのに。
ただ、気持ちが追いつかない。
分かってる、分かってるのに…辛い。

ふいに涙が溢れた。
突然の涙に目の前の幸治さんが驚いてる。

「もしかして具合でも悪いのかい?」

「ち、違います」
ふるふると首を横に振る。

言え、言うんだ。

「あの、2人で食事をするのを今日で最後にしたくて。」

「何で?彼氏でも出来た?」

涙に驚いて瞠目していた幸治さんの目がスッと細まる。

「まさか!えと、この三カ月で太っちゃって。
さすがにこれ以上はーー」

じっと見つめられて、視線が下がる
細くて可愛い女の子だったら良かったのに。
そしたら、幸治さんとの食事も続けられたし、この想いも伝えられたかもしれない。
想いを伝えるーー。
私には…そんな事出来ない。
出来ないから、最初から望まない。
私自身を見てほしいなんて。
望まなければ傷付くことだってない。

「美紀ちゃん。君はとても可愛いよ。」

優しい幸治さんの声。けど顔は上げられない。

「可愛くて、悩めるほどに魅力的な女の子だよ。」

そんなわけない!
自分のことはちゃんと理解してる。
デブで地味でコンプレックスだらけで、傷つくのが怖くて人一倍臆病…。
いいとこなんてない。
幸治さんが言う魅力なんて、どこにもない。
可愛くもない。
勘違いなんてしない。
私は優しい言葉に素直に甘えたり、信じたり出来ない。

「嘘つかないで下さい。」

「嘘じゃない。」

「だって!こんなに脂肪だらけの醜い体ですよ?腕もたるんでるし、お腹だって段差あるのにくびれなんて無いし、太ももなんてパンパンで幸治さんのウエストくらいあるかもしれないのに?」

思わず口にした言葉に自分で傷ついて、自嘲めいて笑った。


「美紀ちゃん…出よう。」

これ以上感情が高ぶらないように、きつく握りしめていた手の上から、ふわりと大きな手が重なる。

「ここじゃ美紀ちゃんの魅力を上手く伝えることが出来ない。」

「え?」

「美紀ちゃんが可愛くて魅力的なのが嘘じゃないと、今から証明してあげる。」

証明?
どうやって?

呆然とした私は、お会計をサッと済ませた幸治さんに手を繋がれて店を出たーーー。





通り沿いで幸治さんが手を挙げてタクシーを拾う。
行き先も分からずに、半ば押し込まれるように乗り込んだタクシーが止まったのは神楽坂にあるタワーマンションだった。

「私の住んでるマンションだよ。店内で話す内容じゃないし、ここならゆっくり話が出来るから。」

再び手を握られてマンションの中へ入ると、落ち着いたブラウンで統一されたエントランスに、奥には吹き抜けとガラス張りのラウンジがあり、コンシェルジュらしき人もいる。
2台あるエレベーターの右側に乗り、15階のボタンを押すのを見て、ふいに今から幸治さんの部屋に行くんだと意識した途端に身体が緊張で強張る。

「大丈夫?」

思わずビクッと震えたが、素直に緊張していると告げる。

「私もだよ。このマンションに越してから美紀ちゃんが初めての客人だから。」

その言葉に少し安堵する。離婚後に引っ越したと聞いていたから 、新しい新居に呼ばれた女性は私だけだという事だーー。

エレベーターが15階に止まり、ドアが開く。
内廊下を歩き一番奥にある部屋の扉を開けると、広々とした大理石の玄関があり、広い廊下を進むと今度は高い天井に大きな窓のあるこれまた広いリビング。
家具はシンプルだけどセンスある黒で統一されていて、幸治さんらしいお洒落な部屋だ。
一人暮らしのはずなのに綺麗に整理整頓されていて、どこまでイケオジを地で行けば気が済むんだと少し憎らしく思うのは仕方ない。

「荷物はこのカゴに置いて、ソファーで楽にしてて。コーヒーでいいかな?」

「あっ、はい。」




**

コーヒーを半分ほど飲んで、少し落ち着いた頃に幸治さんが口を開いた。

「美紀ちゃん、さっきの話だけど2人で会うのが苦痛になったとかじゃないんだよね?」

「まさか!幸治さんとの食事は毎回楽しいです。」

「だったら何でかな?」

「その…さっきも伝えたように、少し太っちゃって…このままじゃマズイなって思って…」

「本当に?それが理由なの?」

真っ直ぐに見つめられて、全て見透かされているような気がして、返事が出来ずにうつむいてしまう。同時にさっきから我慢していた感情が膨れ上がり、涙がこぼれ落ちる。

「わ、私ッ…傷つきたくなくて逃げようとしたんです。自分と…幸治さんから……」

美紀もわかっていた。幸治は、ちゃんと自分を見てくれていた。
外見では無く中身を見てくれていた。
なのに、自分は傷つくのを恐れて逃げようとしたのだ。
この優しい彼から。
彼が笑われてしまうからーーと理由をつけて。
自分だけが傷ついてるつもりで、結局はただの独りよがり。
きっかけはトイレでの話だったかもしれない。けど、根本的な事は自分に自信が無かっただけなのだ。


「美紀ちゃん。」

その声に全身がギュっと強張る。
私はなんて自分勝手なんだろう。
傷つくのが怖くて勝手に逃げようとして。
涙でぼろぼろになった顔に幸治は優しく微笑みかけた。

「人は失敗したり、傷ついたりするからこそ成長出来る。失敗をして同じ過ちを繰り返さないように学んで、傷ついたからこそ人に優しくなれたり、気持ちを理解する事が出来る。傷付く事が恐いからといって逃げていては、何も始まらないし、人として成長もできない。 人との繋がりは傷付けあい、痛みを伴う事もあるけど、同時に喜びを分かち合い幸せを得るものでもあるよ。私は美紀ちゃんと一緒に信頼関係を築いていきたい。」

今まですぐ諦めて、逃げて、必死に目を背け続けてきた私は………。
涙が次から次へと溢れてくる。


「正直に言えば、信頼もだけど、愛情も築きたいと思ってる。美紀ちゃんの事が好きだから。」

えっ?

幸治さんの言葉は聞こえたのに、理解ができない。
愛情?
好きー?
誰がーー?
誰をーーー?



「美紀ちゃんに一目惚れして、話がしてみたくて、振り向いて欲しくて…こんなおじさんが年甲斐もなく20歳も年下の若い子を必至に口説いて、可笑しいでしょう?」

落ち着いた声だけど、膝の上にある幸治さんの手が僅かに震えていてはっとする。
本当に?本当に私の事を……?
戸惑う私を見つめる眼差しは優しくて、どこか熱を帯びていて。

「美紀ちゃんが好きだ。私と付き合って欲しい。」
 
幸治さんが私を好き…
痛いほどに心臓が暴れてるーー。
心が鷲掴みにされるって、こういう事?

私も幸治さんが好き。
けれども、こんな色気だだ漏れの声で好意を寄せられた場合、とっさにどうすればいいかなんて分からない。
いや、恋愛上級者じゃないと対応出来ないレベルだと思う……。
突然の展開に固まってると、幸治さんの顔がすぐ目の前に迫り「美紀ちゃん、返事は?」とこれまた甘~い声で囁かれたら口にしちゃうでしょ。

「はひッ」て………。

その瞬間、幸治さんとの距離がゼロになって、唇に柔らかいものが触れた。

あれ、これって今キスしてる?

えーと、キス、キッス、チュウ、ちぅ、ちっす、口づけ、接吻…
唇同士の接触で、愛情ひょうげんで。。。

あぁ、気持ちいい。
プニプニしてる。気持ちいい。
もっとして、もっと、もっと。
「ぷはぁ」
あまりの気持ちよさに呼吸するの忘れてた。

じゃなくて!!

「あああの、あの、幸治さん?」

「ん?嫌だった…?」

「い、嫌じゃな「じゃ、もう一度」」

有無を言わさず、また唇を塞がれる。
あぁ、やっぱり気持ちいい。
思わず目をつぶりうっとりしていると、暖かいものが口の中に入ってきた。
えっ?これってもしかして…幸治さんの舌?
びっくりして目を見開くと、目の前には色気絶賛だだ漏れ中のイケオジが目を細めていた。
こちらの反応を見ながら、口の中で主の存在が無いかのように動き回る。
貴方のおうちでは無いですよ!と言いたい…が言えない。 
何故なら主が絶賛腰砕け中だからです。

「んんっ」

キスってこんなに恥ずかしい声が出るんだ。
こんな激しくも甘いキスにどうすればいいのかなんて分からないっていうか、もう駄目だ。

「はぁぁん」

自分がこんな甘ったるい声を出すなんてーー。
恥ずかしさのあまり離れようとするが、逆にぎゅっと抱きしめられる。

「美紀ちゃん…可愛い。」

耳元で囁かれる低音ボイスと大きな手で背中を背骨に沿って撫でられ、ゾクリッと体が痺れる。
口の中で触れてないところが無いんじゃないかと思うほどに存分に貪られて、立っているのもやっとなほどにぐでんぐでんにされて、手引かれた先にはダブルベッドがあった。


ええっ!
ベッド?
シャ、シャワーは?
ていうか下着!下着!
お腹!お腹!お腹!

「あ、あああ、あの!幸治さん!」

「ん、どうした?」

ヤバイです!色気ヤバイです!さっきからその甘い声と熱を帯びた眼差しはなんですか?

「シャ、シャワーを!あの、モツ鍋で汗かいちゃったし!」

「んー、別に気にしないけど?」

「いやいや!私は気にします!」

「うーん、却下します。」

「な、な、何で?」

「間を開けると、美紀ちゃんに逃げられそうだから」

ニコリと笑って幸治さんは私をベッドへと倒した。


抱かれるのにシャワー無しって上級者すぎるんですけど…って、あれ?抱かれるのは確定ですか?今からですか?
あまりの展開の速さにアワアワしていると、着ていたニットを脱がされ、スカートを脱がされ、タイツも脱がされ、恥らう間もなくあっという間に下着姿にされていた。

「あれ?え、ちょっ、あれー?幸治さん?」

えっ、えっ?今、私ってば下着姿?
ブラとパンツのみ?
あぁ、お気に入りのじゃないけど上下セットの着てて良かったー。
じゃなくて!
お腹!お腹!お腹!!
お腹に!タイツの跡ついてるー!!
お尻!お尻!お尻!!
太もも!太もも!太もも!!
ていうか全身!全身ヤバイ!!

さっき言ったじゃん!
脂肪だらけの醜い体だって!
あのシリアスな感じはどこいった?

何か!何か隠すもの下さい!
もう泣きたい。いや、さっきから泣いてるけども。


「ああ、すごく綺麗だ。美紀ちゃん可愛い。」


見苦しいはずの肥満ボディを、上から下までうっとりとした眼差しで舐めるように見られる。

もう、駄目だ。この羞恥プレイという拷問から逃げられそうにない。

パニック中の私を見ながら幸治さんもスーツを脱いでいく。
ネクタイを緩める仕草にときめいてしまうのは不可抗力です。
シャツを脱ぎ、スラックスを脱ぎ。同じ下着姿になる。
うぅー。何あのお腹!何で割れてるの?
3か月で私は太ったのに、幸治さんは何で引き締まった体してるの?
思わずジロジロと見ていると、ふいに見てはいけないものが目に入りそうで……
兄達の下着姿で見慣れてるはずなのに、何か、何か、見れない。
いやいや、見ちゃいかんでしょ。
破廉恥だわ。

「ふっ。そんな顔で誘われると優しく出来る自信がなくなるな。」

誘ってません!どんな顔してるかは分からないけど、誘ってません!

さっきから言い返したいのに、口はパクパクするばかりだ。


「とりあえず、私に美紀ちゃんを食べさせてね。」

台詞はおかしいのに優しい口調で声が色っぽくて、またもや体の力が抜ける。

だからその色気はどこに売ってるんですか~。


 


***

宣言通りに私はペロリと食べられた。
途中、舐められたり、吸われたり、噛まれたり……体まるごと食べられた。
ある場所を食べられる前に、シャワーを浴びせて欲しいと泣いて頼んだけど無理でした。

あの…信頼関係を築いていきたいって、さっき言ってましたよね?








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