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自分の気持ち
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食事会は1~2週間に一度のペースでしている。
お洒落なフレンチから下町のホルモン焼きや餃子など、一人では中々敷居の高い店を食べ歩く。
3ヶ月過ぎた今では、柴田さんから幸治さん、富永さんから美紀ちゃんへと呼び名も変わり、敬語も砕けてきている。
距離が縮まるに連れ、お互いの仕事やプライベートの話もするようになった。
幸治さんは誰もが知る大企業のシステム課の部長さんで46歳、独身、バツイチ。
30歳の頃に上司からのお見合いを勧められて、結婚したけど5年前に離婚。
子供はいないらしい。
バツイチだけど、あのスペックだから狙ってる人多いだろうなー。
家族は頻繁に外食する私を最初こそ怪しんだが、毎回23時までには帰宅するし、ご機嫌で食べた物を報告するから安心してる。
まさかホルモンや餃子を男性と食べてるとは思ってないらしい。
過保護な両親と兄達にバレたら大変なことになるから、下手な事は言えない。
いくらただの食べ友と言っても、20歳も年上の異性だと知れたら許してくれないだろう。
明日は幸治さんオススメのモツ鍋屋だ。
店主の出身が博多らしく、本場の味が味わえるらしい。
楽しみすぎて顔がニヤけてしまう。
ハッ、いかんいかん。社員食堂で日替りの生姜焼き定食を前に笑ってるとか不気味すぎる。
慌ててご飯を口に含めるが、時すでに遅し。
「富永ちゃん、面白い顔してるね。」
「香織先輩…」
これ、地顔です。
「何か良いことでもあるの?そういえば、おじ様やらと進展でもあった?」
相変わらず、するどい。
「進展っていうか、幸治さんとは食べ友?飯友?になりました。」
「幸治さん…ねぇ。で、なんでニヤけてたの?」
「明日、オススメのモツ鍋屋に行くんです。それが楽しみで、つい。」
ご飯が楽しみでご機嫌とか恥ずかしすぎる!
「なるほど、ね。富永ちゃんがすっかり懐いちゃったわけだ。手は出された?」
「ま、まさか!ただの食べ友ですから。」
そう、私なんかまったく相手にされていない。
ていうか意識されてない。
この3ヶ月、手さえも触れていない。
私達はただの食べ友。
美味しいご飯を一緒に食べる飯友だ。
けど、最近ふとした表情や仕草にドキッとする私がいて戸惑う。
いや、あれはただフェロモンにやられてるだけだ。うん、きっとそうだ。
「そんな顔して無自覚とか。富永ちゃんらしいけど。まぁ、そろそろ何かアクション起こす頃かしら。相手に合わせてじっくり攻めるなんて、流石だわ。落ちた後はどうなる事やら。」
考え事をしていた私には香織先輩の声は耳に入らなかった。
ーーーー
ーーーーーー
食後に女子トイレの個室にて伝染したストッキングを取り替える。
今週に入って2度目とか、もしや、考えたくないけど、わたし太………
「あの肉まん、また太ったよね。」
隣のパウダールームから声がする。
「私も思った!ヤバイよね。あんなのが正社員とか可笑しいわ。」
「いくら仕事ができても、会社のイメージ下げてるよねー。まぁ、肌は白いけど、なんかそのせいで白ブタみたい。」
「香織さんのお気に入りってのもねー。」
「飯友出来たとか言ってたけど、だからデブるんだよって感じ。同じメニュー頼みたくないよね。何か太りそうで。」
うん、私だー。
私の事ですねー。
リアル肉まん頂きました。
この主達の声には聞き覚えがある。
私の苦手なキラキラ派遣女子3人組だ。
「てか、その飯友も同じデブ?」
「うわ、そのテーブルの近くに行きたくない。
類友じゃないと一緒に食事とか外食出来なくない?恥ずかしいもん。」
「だよねー。冬でも汗かいて食べてそう。」
「やだ、女子終わってる。」
ゼロです。
ライフゼロになったッス。
気づいてたよ。
周りの視線なんて。
でも、美味しかったんだよ。
楽しかったんだよ。
目の前の幸治さんも笑ってたから。
誘ってくれるから。
同じように楽しんでくれてるのかなって。
でも、私のせいで幸治さんが笑われるのは正直ツライ。
美味しいご飯一緒に食べれなくてもいい。
幸治さんが笑われるくらいなら我慢出来る。
ああ、そっか。
私、幸治さんの事好きなんだ。
ストンと腑に落ちた。
自分がデブとか
年が離れてるとか理由をつけて、
自分の気持ちを抑えてた。
考えないようにして、ただこの関係が続くように。
意識しないように。
意識してるのを気付かれないように。
いつからかなんて分からない。
もしかしたら、最初の手を差し出された時からかもしれない。
家族以外の異性に優しくされた事があまりないからなぁ。
しかもあの状況だったし。
チョロインだな私。
だけど、一度認めちゃうとダメだ。
もう普通に接する事なんて出来ない。
恋愛未経験の私にはそんなテクニックは持ち合わせていない。
大丈夫。諦める事なんて慣れてるし。
まだ気づいたばかりだから、大丈夫。
うん、大丈夫。
流れ出る涙と鼻水を、脱いだストッキングで拭きながら、明日で食べ友を辞めることを決意した。
お洒落なフレンチから下町のホルモン焼きや餃子など、一人では中々敷居の高い店を食べ歩く。
3ヶ月過ぎた今では、柴田さんから幸治さん、富永さんから美紀ちゃんへと呼び名も変わり、敬語も砕けてきている。
距離が縮まるに連れ、お互いの仕事やプライベートの話もするようになった。
幸治さんは誰もが知る大企業のシステム課の部長さんで46歳、独身、バツイチ。
30歳の頃に上司からのお見合いを勧められて、結婚したけど5年前に離婚。
子供はいないらしい。
バツイチだけど、あのスペックだから狙ってる人多いだろうなー。
家族は頻繁に外食する私を最初こそ怪しんだが、毎回23時までには帰宅するし、ご機嫌で食べた物を報告するから安心してる。
まさかホルモンや餃子を男性と食べてるとは思ってないらしい。
過保護な両親と兄達にバレたら大変なことになるから、下手な事は言えない。
いくらただの食べ友と言っても、20歳も年上の異性だと知れたら許してくれないだろう。
明日は幸治さんオススメのモツ鍋屋だ。
店主の出身が博多らしく、本場の味が味わえるらしい。
楽しみすぎて顔がニヤけてしまう。
ハッ、いかんいかん。社員食堂で日替りの生姜焼き定食を前に笑ってるとか不気味すぎる。
慌ててご飯を口に含めるが、時すでに遅し。
「富永ちゃん、面白い顔してるね。」
「香織先輩…」
これ、地顔です。
「何か良いことでもあるの?そういえば、おじ様やらと進展でもあった?」
相変わらず、するどい。
「進展っていうか、幸治さんとは食べ友?飯友?になりました。」
「幸治さん…ねぇ。で、なんでニヤけてたの?」
「明日、オススメのモツ鍋屋に行くんです。それが楽しみで、つい。」
ご飯が楽しみでご機嫌とか恥ずかしすぎる!
「なるほど、ね。富永ちゃんがすっかり懐いちゃったわけだ。手は出された?」
「ま、まさか!ただの食べ友ですから。」
そう、私なんかまったく相手にされていない。
ていうか意識されてない。
この3ヶ月、手さえも触れていない。
私達はただの食べ友。
美味しいご飯を一緒に食べる飯友だ。
けど、最近ふとした表情や仕草にドキッとする私がいて戸惑う。
いや、あれはただフェロモンにやられてるだけだ。うん、きっとそうだ。
「そんな顔して無自覚とか。富永ちゃんらしいけど。まぁ、そろそろ何かアクション起こす頃かしら。相手に合わせてじっくり攻めるなんて、流石だわ。落ちた後はどうなる事やら。」
考え事をしていた私には香織先輩の声は耳に入らなかった。
ーーーー
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食後に女子トイレの個室にて伝染したストッキングを取り替える。
今週に入って2度目とか、もしや、考えたくないけど、わたし太………
「あの肉まん、また太ったよね。」
隣のパウダールームから声がする。
「私も思った!ヤバイよね。あんなのが正社員とか可笑しいわ。」
「いくら仕事ができても、会社のイメージ下げてるよねー。まぁ、肌は白いけど、なんかそのせいで白ブタみたい。」
「香織さんのお気に入りってのもねー。」
「飯友出来たとか言ってたけど、だからデブるんだよって感じ。同じメニュー頼みたくないよね。何か太りそうで。」
うん、私だー。
私の事ですねー。
リアル肉まん頂きました。
この主達の声には聞き覚えがある。
私の苦手なキラキラ派遣女子3人組だ。
「てか、その飯友も同じデブ?」
「うわ、そのテーブルの近くに行きたくない。
類友じゃないと一緒に食事とか外食出来なくない?恥ずかしいもん。」
「だよねー。冬でも汗かいて食べてそう。」
「やだ、女子終わってる。」
ゼロです。
ライフゼロになったッス。
気づいてたよ。
周りの視線なんて。
でも、美味しかったんだよ。
楽しかったんだよ。
目の前の幸治さんも笑ってたから。
誘ってくれるから。
同じように楽しんでくれてるのかなって。
でも、私のせいで幸治さんが笑われるのは正直ツライ。
美味しいご飯一緒に食べれなくてもいい。
幸治さんが笑われるくらいなら我慢出来る。
ああ、そっか。
私、幸治さんの事好きなんだ。
ストンと腑に落ちた。
自分がデブとか
年が離れてるとか理由をつけて、
自分の気持ちを抑えてた。
考えないようにして、ただこの関係が続くように。
意識しないように。
意識してるのを気付かれないように。
いつからかなんて分からない。
もしかしたら、最初の手を差し出された時からかもしれない。
家族以外の異性に優しくされた事があまりないからなぁ。
しかもあの状況だったし。
チョロインだな私。
だけど、一度認めちゃうとダメだ。
もう普通に接する事なんて出来ない。
恋愛未経験の私にはそんなテクニックは持ち合わせていない。
大丈夫。諦める事なんて慣れてるし。
まだ気づいたばかりだから、大丈夫。
うん、大丈夫。
流れ出る涙と鼻水を、脱いだストッキングで拭きながら、明日で食べ友を辞めることを決意した。
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