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ポンポンポンチーン。 こりゃ、死んだな。

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「そのまえに、何か余に言うことはないのかな? 人の子よ。うん?」

そう言った魔王は、とてもいい笑顔で私の頭蓋骨を掴んでいた手を一度離した。

そして、今度は片手で私の両頰を鷲掴みにし、そのまま上に持ち上げ、再び足が浮く。

先程よりも顔を一層、近づけられた。

何もなければ、目の保養でむしろご褒美だったはずだが、今回ばかりは状況が違う。

私は、ただ魔王と目を合わせたくないのと、助けてほしいという理由で、ガルシアをひたすら睨み続け、念を送る。

ガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアガルシアあぁあぁああぁてめぇぶっ殺す!

ガルシアはいまだに私から顔をそむけている。

助けてほしいという気持ちを通り越して、ガルシアをぶっ殺したいという気持ちがまさってきた気がしないでもない。

ガルシアにそれが伝わったのか、ガルシアの毛が汗でしなり、先程まで少し立っていた尻尾も完全に垂れ下がっている。

流石に私の視線に我慢ならなかったのか、ガルシアは頭に身につけていた鎧の顔が見えている部分を完全にシャットアウトしやがった。

どうやら、助けてほしいという念ではなく、殺気のような念がガルシアに伝わってしまったらしい。

魔王の部下、人間相手にメンタル弱すぎじゃね?

それとも、私の殺気が凄すぎたのかな?

ふふふふふ………これでもいくつもの修羅場をくぐり抜けてきたからな。

大抵の人間は私の殺気でよく失禁したものよ。

などと、思考を別の所へ飛ばして目の前の現実から一度逃避し、再び魔王をチラリと見やれば。



あ、やべぇ。

これ確実に死ぬわ。

瞬時にそう思った。

顔が近くにあったということもあり、魔王から殺気に近いものが伝わってきたのだ。






その時、

「陛下、この惨事はいったい何があったのです? それにまた、覇気を出して……」

呆れた顔で客間に入ってきたのはメイドのリーナだった。

リーナと一瞬、目が合う。

『リーナ! 頼む! 助けてくれ!』

その一瞬で私はリーナに目で助けを求めた。

「この惨事はと聞かれてもなぁ、これを見ればわかるのではないか?」

魔王が私の足の下にある魔法陣を足で指した。

リーナがそこに目を向ける。

「……もしやお嬢様?」

と疑いの目を向けられる始末。

ぎゃあぁあぁぁぁああぁーーーー!

望んでない展開キタァァアアァァーーー!

違う違う違う違うちがーーーーう!

今すぐにでも口を開け弁解したいところだが、両頰を鷲掴みにされて上手く開けず、縦になった唇が魚の口のように上下に動くだけだった。

頰の肉が歯に食い込んで地味に痛い。

弁解できる奴はガルシアのみ。

だが、コイツはダメだ。

あとの二人は完全に私だけの仕業だと思っているらしい。



おい、誰でもいいから助けてくれぇ……。


私の悲痛な心の叫びは、誰にも届かなかった。



だって、唇しか動かせないんだもの。










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