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File1 自覚無き殺人犯
第六十九話 事件解決の裏側4
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「チッ……どこ行きやがった」
歩の意識を奪った男は苛立ち横たわる歩の腹を蹴った。男の視線は夜の街を彷徨う。探すのは追跡装置。だが、見失った。
男はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「すみません。撃ち落とせませんでした……」
「大丈夫だよ。想定内だからね」
電話の相手は透であった。その声は涼やかで落ち着いていた。
──
────
──────
「………」
異変を察知してすぐ、椿は無言で歩との通信を切断していた。追跡装置が撃ち落とされぬよう操作し、電線にとまるカラスやスズメに紛れ込ませた。
雑務総務課三人の目的は、総務課長である透がどういった捜査をしているかを調べることだ。
刑事部の刑事総務課の上善からの調査依頼されたこともあり、以降、能力者事件があるたびに透と士郎の追跡を試みているのだが、思うようにいかず、追跡は今回で三回目となる。
追跡失敗の要因は協力者の存在である。しかも、外部の人間の。さらにいえば、そこそこの人数、いや、それ以上のかもしれない。
運の悪いことに、一回目で透に雑務総務課三人の存在がばれてしまい、透の警備が強化されて二回目はさらに追跡は困難を極めた。ばれたといっても三人は直接、透と対峙したわけではないが、強化された状況を見るに、そう捉えざるを得なかった。
であるから、三人はばれていることを前提として動き、足での追跡はやめて装置にたよることにしたのであった。
──
────
──────
黒塗りのセンチュリーに乗る透は、指と指の間に挟まれた対象人物の写真を目を細めて見ていた。
「もうすぐ来るかな。ちゃんと見ててよ?」
透は後部座席から運転席に座る士郎をルームミラー越しに目を向けるが、ふたりの視線は交わらない。
「ね? 士郎君……」
「わかってます」
透と士郎は服部和毅の職場である川嶋医科器械株式会社前で待ち伏せしていた。
「出てきました」
士郎が窓の奥の人物を見据えたまま淡白に伝える。
「じゃ、行こうか……」
士郎は車から降りて、透の後部座席のドアを開け、ショルダーバッグを取り出し肩にかける。
「有難う」
透の声に士郎が小さく頷きドアを閉めた。
透が服部和毅の背後にまわる。
「失礼ですが、服部和毅さんでしょうか?」
「はい、どなた──⁉︎」
透が服部の口をハンカチで塞ぎ、頭を振り暴れて逃げようとする服部の首を、ハンカチで押さえた反対側の腕でぎちぎちと締め上げ、路地裏に連れ込んだ。
「ゔんん⁉︎ ゔぅう……」
ハンカチに睡眠作用のある薬品は使用されておらず、服部は暴れ続ける。士郎も路地裏に入った。そして、服部の腹部を一発思いっきり拳をめり込ませれば、服部は力なくだらりと倒れ、暴れることをやめた。
透と士郎は服部を二人で担いで先程と同じ車の後部座席に服部を乗せて発進した。
透の左拳には赤い御守りが握られていた。
──
────
──────
「一体、ドういうコトなのダ……?」
追跡装置で見ていた椿は呆然としていた。それもそのはず、透の姿は一切映像には写し出されていなかったのだから。
士郎が車から降りて後部座席のショルダーバッグを取り出し、ドアが閉まった後すぐ、服部が誰もいない後ろを振り返った瞬間、不自然な足取りで路地裏に連れてかれて行った。
「何ガ……」
何が起こったのか、椿はわからなかった。
しばらくして、士郎も路地裏に入ったかと思えば、すぐに車に戻ってきたが足取りがやや遅い。
車を降りる時、乗る時も士郎ただひとりしかいなかった。
「課長ハ?」
一体、どこに────。
歩の意識を奪った男は苛立ち横たわる歩の腹を蹴った。男の視線は夜の街を彷徨う。探すのは追跡装置。だが、見失った。
男はズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
「すみません。撃ち落とせませんでした……」
「大丈夫だよ。想定内だからね」
電話の相手は透であった。その声は涼やかで落ち着いていた。
──
────
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「………」
異変を察知してすぐ、椿は無言で歩との通信を切断していた。追跡装置が撃ち落とされぬよう操作し、電線にとまるカラスやスズメに紛れ込ませた。
雑務総務課三人の目的は、総務課長である透がどういった捜査をしているかを調べることだ。
刑事部の刑事総務課の上善からの調査依頼されたこともあり、以降、能力者事件があるたびに透と士郎の追跡を試みているのだが、思うようにいかず、追跡は今回で三回目となる。
追跡失敗の要因は協力者の存在である。しかも、外部の人間の。さらにいえば、そこそこの人数、いや、それ以上のかもしれない。
運の悪いことに、一回目で透に雑務総務課三人の存在がばれてしまい、透の警備が強化されて二回目はさらに追跡は困難を極めた。ばれたといっても三人は直接、透と対峙したわけではないが、強化された状況を見るに、そう捉えざるを得なかった。
であるから、三人はばれていることを前提として動き、足での追跡はやめて装置にたよることにしたのであった。
──
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黒塗りのセンチュリーに乗る透は、指と指の間に挟まれた対象人物の写真を目を細めて見ていた。
「もうすぐ来るかな。ちゃんと見ててよ?」
透は後部座席から運転席に座る士郎をルームミラー越しに目を向けるが、ふたりの視線は交わらない。
「ね? 士郎君……」
「わかってます」
透と士郎は服部和毅の職場である川嶋医科器械株式会社前で待ち伏せしていた。
「出てきました」
士郎が窓の奥の人物を見据えたまま淡白に伝える。
「じゃ、行こうか……」
士郎は車から降りて、透の後部座席のドアを開け、ショルダーバッグを取り出し肩にかける。
「有難う」
透の声に士郎が小さく頷きドアを閉めた。
透が服部和毅の背後にまわる。
「失礼ですが、服部和毅さんでしょうか?」
「はい、どなた──⁉︎」
透が服部の口をハンカチで塞ぎ、頭を振り暴れて逃げようとする服部の首を、ハンカチで押さえた反対側の腕でぎちぎちと締め上げ、路地裏に連れ込んだ。
「ゔんん⁉︎ ゔぅう……」
ハンカチに睡眠作用のある薬品は使用されておらず、服部は暴れ続ける。士郎も路地裏に入った。そして、服部の腹部を一発思いっきり拳をめり込ませれば、服部は力なくだらりと倒れ、暴れることをやめた。
透と士郎は服部を二人で担いで先程と同じ車の後部座席に服部を乗せて発進した。
透の左拳には赤い御守りが握られていた。
──
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「一体、ドういうコトなのダ……?」
追跡装置で見ていた椿は呆然としていた。それもそのはず、透の姿は一切映像には写し出されていなかったのだから。
士郎が車から降りて後部座席のショルダーバッグを取り出し、ドアが閉まった後すぐ、服部が誰もいない後ろを振り返った瞬間、不自然な足取りで路地裏に連れてかれて行った。
「何ガ……」
何が起こったのか、椿はわからなかった。
しばらくして、士郎も路地裏に入ったかと思えば、すぐに車に戻ってきたが足取りがやや遅い。
車を降りる時、乗る時も士郎ただひとりしかいなかった。
「課長ハ?」
一体、どこに────。
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