警視庁雑務部雑務総務課〜父の無実の罪を晴らすため就職しました〜

産屋敷 九十九

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File1 自覚無き殺人犯

第五十八話 関連する事件

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一先ひとまず雑務部の闇? は置いておいて俺たちは服部の事件に話を移行した。

「服部が赤ん坊になったってのは、能力の代償として退行化したわけじゃねぇのか?」

「退行化した原因が代償によるものかは全然わかってないんだけど、赤ん坊になった服部の左太腿に痕ができてたらしいんだ」

「痕?」




───課長と二人の車内にて。


「退行化したんだけど、あまりもたないみたいだ……」

ルームミラーに課長の険しい顔が映る。

「もたないって、何がですか?」

「服部の命は長くはもたない。つまり、まもなく死ぬってことだよ」

「え……? 退行化したなら、あとは成長するだけでは」

「腐食痕が少しずつ広がって、服部の体を蝕んでいる。このままいけば、間違いなく……死ぬ」


腐食……痕?


俺は訳がわからず首を傾げる。

「あぁ、そういえば正人くんはまだ知らなかったか……。世間には大々的に公表されてない事件だし、それもそうか」

課長がしまったと苦笑しながら額に左拳を当てる。

「十六年前のアメジストクルーズ船自爆テロ事件は覚えているね?」

「はい、もちろん覚えてます。その事件を境に超能力者の犯罪率は格段に上昇しましたから」

「その事件の前からなんだけど、犯罪を犯す能力者を捕らえて身体検査すると、そのうちの八割は身体に紫色の腐食痕があったんだ。腐食痕のあった者たちは取り調べ室や拘置所、刑務所で徐々に苦しみだし、やがて死亡した」


腐食痕? 死亡? 一体、何故……。


質問を急ぎ開きかけた口を意識的に止め、俺は課長の続く言葉を待った。

「腐食痕のある者たちの死に方は皆んな同じだったよ。身体の一部分にあった腐食痕が徐々に広がり身体の皮膚の七割に達した時、死に至っている」

ルームミラーの課長の視線が俺と交わる。

「そして、私たちはそれが人為的なものと考えている」

「根拠は、あるんですか?」

信号機が黄色に点滅する。ブレーキで車が減速し、停止すると課長がこちらへ顔を向けた。

「『まだ死にたくない。飲まなきゃよかった』って何人か同じようなことを言っていたよ。
能力を得る代償として、命を削ったんだろうね。
それから、『俺は選ばれし者なんだ。俺は絶対に死なない』って叫びながら死んでいった人もいたよ。適応すれば死なずに済むとか言われたんだろう」


"飲まなきゃ"ってことは、薬物投与か。
力欲しさに一か八かで……。


「まるでギャンブルですね……では、今回の事件も?」

「そうだろうね。腐食痕があった者たちが能力を得ていたということは、何者かが能力者を生み出す実験をしているのかもしれない。そして、服部和毅も犠牲者になった者のうちの一人だろうね」

「その犯人は、まだ? 亡くなる前に彼等から名前は? その犯人の最終目的は一体……」

課長は首を横に振った。

「何故だか皆んな、思い出せないらしいんだよ。
変な薬盛られたか、記憶を操作するような能力者がそうしたのか……雑務課を立ち上げる前から私はその得体の知れない犯人を追ってるんだけど……なかなか、ね。だから、目的自体もわからないんだよ」

そう言って課長は深い溜め息を吐いた。

「まぁ、とにかく今回の事件も全て公表することはできないだろう。服部恵子を殺害したのは、服部和毅って報道はされるだろうけど、服部和毅がどうして死んだのかは有耶無耶うやむやにして終わりかな」


それって……


「隠蔽、ですか」

「うん。警察組織としての面子メンツもあるしね。足取りが掴めれば公表するだろうけど、長年追っても全くだし……気持ち悪いかもしれないけどこればかりは仕方がない」

信号機が青に切り替わり課長は前方へ顔を戻す。そして、アクセルを踏み発進した。


今回もってことは、これまでにも隠蔽を繰り返していたってことだよな?
単独であれば、まだ何かしらの証拠が掴めたかもしれない。でも、全く見つからないってことはかなり大きな組織なのかもしれない。
課長たちは隠蔽しなければいけないくらいの組織を相手しているのだろうか?

十六年前の事件との関連は?
あの事件を境に能力者の犯罪率が上昇したのは、その組織も関係している?

課長が十六年前の事件を持ち出したのは、関係しているからなのか? それとも、区切りとしてわかりやすいから?

でも、それだけは絶対に聞けない……。下手なことを聞いたら、俺が事件関係者だってバレてしまう。


俺は奥歯にグッと力を入れて、吐き出そうな言葉を押し殺した。



***


「オイオイオイオイオイオイオイオイオイ⁉︎」

弟が眼球が飛び出そうなくらいにひん剥いて、驚きを身体全体で表現する。

「ど、どうした⁉︎ 落ちつけ、な?」

驚きを通り越してやや混乱状態に陥った弟の両肩を優しく叩けば、それを素早く跳ね除けられ、今度は弟が俺の両肩を掴みグラグラと容赦なく揺さぶってきた。

「落ち着いてられるかよ⁉︎ アンタ全然わかってねぇだろ⁉︎ 課長とアンタとの会話に、親父に関する重要な情報があっただろ⁉︎」

その驚愕の事実に今度は俺が弟の両肩を揺さぶる羽目になった。

「嘘だろ⁉︎ ど、どこだよ⁉︎」

「隠蔽と十六年前の事件だよ⁉︎ 犯罪組織の濡れ衣じゃなくて、警察の隠蔽工作の可能性が出てきただろうが‼︎」







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