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File1 自覚無き殺人犯
第五十二話 警戒と帰宅
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自宅のドア前に到着する。
隣の部屋が気になって、表札にチラリと一瞬だけ目をやった。
『春夏冬』
と書かれていた。
自宅のドアノブに鍵を差し込んでぎこちない動作で回す。手慣れたはずなのに、今日は能力を発動したままだからか違和感があった。
普通に歩くだけでも、小さな動作をするだけでも水を掻き分けるように目に見えて波打つ。実際の水よりも重たさはなく、そういった映像の中にいるだけに過ぎないのに、水は重いという固定概念に捉われているためか、いつもより少しだけ重くて動かしずらいような錯覚を覚えた。同時に、能力の発動時間はいつも短時間であることが多かったため、新鮮だとも思った。陸が水に沈んで、水の中で人間が普通に生きていけたのなら、こんな感じなんだろうかとも思った。
中に入ってドアの鍵を閉める。
目の前には黒くて分厚い遮光カーテンがあり、玄関から部屋が見渡せないようになっている。
シューズボックスを開けてトランシーバーのような四角いもの──盗聴盗撮発見機を手に取り、スイッチを入れて、玄関の端から端の隅々まで盗聴器や盗撮カメラが設置された形跡がないかを確認する。
能力が入り込んだ形跡も無し、と。
発見機を手にしたままカーテンを開ければ、次にあるのは鉄の塊──金庫のドアだ。
映画に出てくるような分厚く頑丈そうなドア。その真ん中に小さな穴がある。そこに俺は人差し指を入れた。
『承認、完了致しました。お帰りなさいませ、正人様。本体に触れた形跡無し、指紋無し。セキュリティに問題ありません。安全性ブルー。通行を許可致します』
無感情で抑揚のない機械音声が響いた後、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
ごく普通の賃貸マンションだから、防犯性を高める為に大きな工事をするわけにはいかないし、何かあってすぐに出ていかなければならなくなったときに外すのも苦労する。
だが、このドアは分厚く頑丈そうな形だが、実は厚さは一.五センチメートルと薄い。また、折り畳み可能だから持ち運びも容易い。さらに、毛細血管認証システムだから、登録者しか部屋に通すことができない。仮にもしこのドアに俺以外の誰かが触れれば、ドアに搭載されている監視カメラが作動し録画するようになっている。素手でドアに触れたのならばその指紋をデータとし保存されるようになっている。安全性については、ブルーが安全、イエローが注意、レッドが危険と振り分けられている。イエローは誰かがドアに触れた場合で、レッドは、侵入者を許した場合だ。
開発者は家の自慢の弟だ。
椿先輩も天才だが、家の弟も負けていない。
因みに、このドアの名前は『ヤンドア』という。
─────開発した当初。
「なあ、兄貴」
「ん? どした?」
「このドアさ、ヤンデレの恋人が使いそうなドアみたいじゃない? 頑丈で、監視カメラもついてて、使い方変えたら、人間監禁できるしな」
「おまえ、恋愛漫画みすぎじゃないか? ジャンルも偏りすぎだぞ」
「エロ本一つも買えねー兄貴に言われたくねーよ……」
この時の会話がきっかけで、『ヤンデレみたいなドア』略して『ヤンドア』となったわけだ。
俺はヤンドアを通り抜け、盗聴盗撮発見機と真実の目で不審な形跡がないかを確認する。
ここも大丈夫そうだな……。
次に俺はベランダ近くに置いた監視カメラモニターを確認する。そこには、俺の家のベランダが映し出されている。誰もいないこと、見ていないことを確認し、ベランダに出て調べる。
外も……大丈夫そうだな。
それから俺は寝室へ移動し、ベッド上の枕を手に取ると中にある物を取り出す。
掌よりも小さな黒いリモコンだ。そこにボタンは一つしか存在しない。普段枕を使う上で鳴らないように、ボタンの部分はへこんでいる。指を入れて押すタイプのやつだ。
俺はそれを三秒間長押しした。ここでは何も起こらない。
リモコンを枕の中に戻して再度、ベランダへ足を運ぶ。
ベランダ前のリビングに人影が一つ。
逆光で表情が見えづらかったが、誰だかすぐに認識できた。
俺の自宅へ唯一侵入できるのは───
「おかえり、兄貴」
「ただいま」
俺の弟だけだからだ。
隣の部屋が気になって、表札にチラリと一瞬だけ目をやった。
『春夏冬』
と書かれていた。
自宅のドアノブに鍵を差し込んでぎこちない動作で回す。手慣れたはずなのに、今日は能力を発動したままだからか違和感があった。
普通に歩くだけでも、小さな動作をするだけでも水を掻き分けるように目に見えて波打つ。実際の水よりも重たさはなく、そういった映像の中にいるだけに過ぎないのに、水は重いという固定概念に捉われているためか、いつもより少しだけ重くて動かしずらいような錯覚を覚えた。同時に、能力の発動時間はいつも短時間であることが多かったため、新鮮だとも思った。陸が水に沈んで、水の中で人間が普通に生きていけたのなら、こんな感じなんだろうかとも思った。
中に入ってドアの鍵を閉める。
目の前には黒くて分厚い遮光カーテンがあり、玄関から部屋が見渡せないようになっている。
シューズボックスを開けてトランシーバーのような四角いもの──盗聴盗撮発見機を手に取り、スイッチを入れて、玄関の端から端の隅々まで盗聴器や盗撮カメラが設置された形跡がないかを確認する。
能力が入り込んだ形跡も無し、と。
発見機を手にしたままカーテンを開ければ、次にあるのは鉄の塊──金庫のドアだ。
映画に出てくるような分厚く頑丈そうなドア。その真ん中に小さな穴がある。そこに俺は人差し指を入れた。
『承認、完了致しました。お帰りなさいませ、正人様。本体に触れた形跡無し、指紋無し。セキュリティに問題ありません。安全性ブルー。通行を許可致します』
無感情で抑揚のない機械音声が響いた後、ガチャリと音を立ててドアが開いた。
ごく普通の賃貸マンションだから、防犯性を高める為に大きな工事をするわけにはいかないし、何かあってすぐに出ていかなければならなくなったときに外すのも苦労する。
だが、このドアは分厚く頑丈そうな形だが、実は厚さは一.五センチメートルと薄い。また、折り畳み可能だから持ち運びも容易い。さらに、毛細血管認証システムだから、登録者しか部屋に通すことができない。仮にもしこのドアに俺以外の誰かが触れれば、ドアに搭載されている監視カメラが作動し録画するようになっている。素手でドアに触れたのならばその指紋をデータとし保存されるようになっている。安全性については、ブルーが安全、イエローが注意、レッドが危険と振り分けられている。イエローは誰かがドアに触れた場合で、レッドは、侵入者を許した場合だ。
開発者は家の自慢の弟だ。
椿先輩も天才だが、家の弟も負けていない。
因みに、このドアの名前は『ヤンドア』という。
─────開発した当初。
「なあ、兄貴」
「ん? どした?」
「このドアさ、ヤンデレの恋人が使いそうなドアみたいじゃない? 頑丈で、監視カメラもついてて、使い方変えたら、人間監禁できるしな」
「おまえ、恋愛漫画みすぎじゃないか? ジャンルも偏りすぎだぞ」
「エロ本一つも買えねー兄貴に言われたくねーよ……」
この時の会話がきっかけで、『ヤンデレみたいなドア』略して『ヤンドア』となったわけだ。
俺はヤンドアを通り抜け、盗聴盗撮発見機と真実の目で不審な形跡がないかを確認する。
ここも大丈夫そうだな……。
次に俺はベランダ近くに置いた監視カメラモニターを確認する。そこには、俺の家のベランダが映し出されている。誰もいないこと、見ていないことを確認し、ベランダに出て調べる。
外も……大丈夫そうだな。
それから俺は寝室へ移動し、ベッド上の枕を手に取ると中にある物を取り出す。
掌よりも小さな黒いリモコンだ。そこにボタンは一つしか存在しない。普段枕を使う上で鳴らないように、ボタンの部分はへこんでいる。指を入れて押すタイプのやつだ。
俺はそれを三秒間長押しした。ここでは何も起こらない。
リモコンを枕の中に戻して再度、ベランダへ足を運ぶ。
ベランダ前のリビングに人影が一つ。
逆光で表情が見えづらかったが、誰だかすぐに認識できた。
俺の自宅へ唯一侵入できるのは───
「おかえり、兄貴」
「ただいま」
俺の弟だけだからだ。
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