警視庁雑務部雑務総務課〜父の無実の罪を晴らすため就職しました〜

産屋敷 九十九

文字の大きさ
上 下
54 / 99
File1 自覚無き殺人犯

第四十三話 お見舞い

しおりを挟む
俺は兄貴の意識状態を把握するため、感覚共有を発動したのだった。


暗ッ! 重ッ!

マジかよ………やっぱ意識……ない?


能力を発動した瞬間、俺の視界は暗闇に包まれ、目蓋を開くのさえ困難であった。共有から置換に切り替わるぎりぎりの所を攻めて刺激をしても開く気配を全くみせない。


兄貴……。


開けかたはわかっているのに実行できないもどかしさを共有し、俺は兄貴の回復を願い呼びかけた。


兄貴……ごめん………。


俺の得意とするのは頭脳戦で兄貴の得意とするのは接近戦だった。俺の援護とは違って、能力を発動しながら服部と対峙したのはかなり兄貴へ負担になってしまったのかもしれない。

兄貴の身体能力の高さを俺はよく知っていたし、心の底から信頼していた。だからこそ過信し過ぎてしまった。

兄貴の身体能力の高さがより発揮される場面というのは、非能力者に対してだったのにそれを超能力者相手と同様に考え援護してしまったのは俺の落ち度だろう。

リビングのソファーに座る俺の本体の頬を涙で濡らした。

感情の揺れで集中が途切れ、感覚共有が解除されかけたがどうにか踏み止まる。

頬を伝う涙を袖で拭い、一度深呼吸をして落ち着かせ感覚共有を継続した。



コンコンコン。コォー……。



これは……ノックとスライドドアか?


兄貴の意識はないものの、聴覚は失われていないようだ。

コツコツと床を響かせる足音は、段々と大きくなる。

 
この足音……ブーツか? ってことは歩さんか?



兄貴の右耳の聴覚を刺激した足音がピタリと停止した。

「正人く~ん、調子どぉ? 今日はお花持ってきたわよぉ~」

声の主はやはり歩さんだった。

直後、


くさッ! 匂いキツッ!


鼻をつんざく花の匂い。恐らく歩さんが花を兄貴の鼻へ近づけたのだろう。

嗅覚も失われていなかったようだ。

「匂ったかしらぁ? やっぱり真っ赤なバラはいいわよねぇ~。鉢植えにしたから退院してからも楽しめるわよぉ」


オイオイオイオイ!

兄貴に何の恨みがあってそれを選んだんだよ!
マジであり得ねぇ……。
血を連想させる赤い花は駄目だろうが!
匂いのキツイ花も患者に対して迷惑だ!
鉢植えは持っての他、根付くってことから寝付くっていうイメージがあるから縁起が悪いって常識だろうが!
花贈るなら、ガーベラ辺りが妥当だろ!花言葉知らねぇーのかよ! 希望だぞ希望!
兄貴に愛の花贈ってどうすんだよ!
愛があるなら、縁起の悪いもん持ってくんなよ!   
いやいや、あっても困るけどさぁ……。


再び三度のノックの後、ドアの開く音がした。

歩さんが出て行った気配はなく側にいるので、恐らく別の人物が入ってきたのだろう。

 
今度は誰だ?


「どうだい歩君?」


この声……課長か。


「うわぁ~、鉢植えの真っ赤なバラ。縁起ワルッ! 歩君、お金は出すからもうちょっと縁起のいい花を買っておいで。もし正人君に何かあったら、このバラと関連付けて考えてしまうよ……」


課長が常識人でマジで良かった……。


「んもぉ~。たかがバラよ? 人を殺す力なんて無いわよ。それに折角、正人くんのために買ったのに勿体ないわぁ」

「う~ん。確かに立派な鉢植えだしねぇ。まぁ、あったらあったで、正人君喜びそうだしこのままでいっか」


オイオイ、納得してないで説得しろよ課長ッ!
確かに兄貴は喜ぶだろうけどさ!

ってか立派な鉢植えって何ッ⁉︎ 
一体どんな鉢植えなんだよ!


「ねぇ、このバラって何本あるの?」

「百八本よぉ」

 
百八本⁉︎ 意味わかっててこの本数なのか⁉︎ 
確信犯なのか⁉︎

百八本のバラは"結婚して下さい"って意味だぞッ! ねぇ、うちの兄貴狙ってんの⁉︎


「すごいねぇ……」


課長ッ⁉︎ 感心した声出してねぇで今すぐそのバラ即刻撤去しろよ!



俺は意識の無い兄貴を余所に、一人悶々としながらリビングで頭を抱えたのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

”その破片は君を貫いて僕に突き刺さった”

飲杉田楽
ミステリー
"ただ恋人に逢いに行こうとしただけなんだ" 高校三年生になったばかり東武仁は授業中に謎の崩落事故に巻き込まれる。街も悲惨な姿になり友人達も死亡。そんな最中今がチャンスだとばかり東武仁は『彼女』がいる隣町へ… 2話からは隣町へ彼女がいる理由、事故よりも優先される理由、彼女の正体、など、現在と交差しながら過去が明かされて行きます。 ある日…以下略。があって刀に貫かれた紫香楽 宵音とその破片が刺さった東武仁は体から刀が出せるようになり、かなり面倒な事件に巻き込まれる。二人は刀の力を使って解決していくが…

若月骨董店若旦那の事件簿~水晶盤の宵~

七瀬京
ミステリー
 秋。若月骨董店に、骨董鑑定の仕事が舞い込んできた。持ち込まれた品を見て、骨董屋の息子である春宵(しゅんゆう)は驚愕する。  依頼人はその依頼の品を『鬼の剥製』だという。  依頼人は高浜祥子。そして持ち主は、高浜祥子の遠縁に当たるという橿原京香(かしはらみやこ)という女だった。  橿原家は、水産業を営みそれなりの財産もあるという家だった。しかし、水産業で繁盛していると言うだけではなく、橿原京香が嫁いできてから、ろくな事がおきた事が無いという事でも、有名な家だった。  そして、春宵は、『鬼の剥製』を一目見たときから、ある事実に気が付いていた。この『鬼の剥製』が、本物の人間を使っているという事実だった………。  秋を舞台にした『鬼の剥製』と一人の女の物語。

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

処理中です...