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File1 自覚無き殺人犯
第三十二話 逮捕の裏側15 弟の能力
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正人の触覚、味覚、嗅覚、聴覚、痛覚、視覚、肉体の自由を服部が蝕み呑み込みはじめる。
水中で満たされた正人の視界は干上がろうとし急激に水位が下がり、水から顔を出してしまった。
奥歯に噛んだトランプの切れ端を再度強く噛み締め、どうにか気力で意識を保てば膝まで下がった水位がまたプラネタリウムの天井まで上昇した。
「さ、せるかよ!」
策を練るための思考は弟に委ねたままにし、正人は自身の身体に集中して服部に乗っ取りかけられた身体を力ずくで奪い返えそうとする。
しかし、正人はとうとう視覚と肉体の自由を半分奪われてしまう。足に力を込めて一歩一歩踏みしめよろりとしながらプラネタリウムに並ぶ座席の一つに手をかける。
これは俺の身体だ!
ガンガン!
「ゔッ! イッ……!」
最後の力を振り絞り、座席シートの角に頭をぶつける。痛みに悶絶する声は正人と弟と服部のものである。正人本人にも弟にも服部にもダメージはあった。
この雑な追い出し方は紛れもなく正人自身の行動によるものだった。
しかし虚しくも正人は服部に完全に呑みこまれ、全ての自由を奪われる。
やべぇ……重た………乗っ取、られ、る。
目蓋が徐々に重くなり、正人は瞳を閉ざした。
身体は崩れ落ち、掴んでいた座席シートを手放し、ドサッと身体を床に打ち付ける。
正人が膝に手をつきながらゆらりと立ち上がり、目を開けた。正しくは正人の肉体を乗っ取った服部がだ。
正人自身の肉体と思考は完全に乗っ取られた。
しかし、
『とっとと兄貴から出ていきやがれクソ野郎が‼︎』
服部が全てを乗っ取っても、乗っ取ることができないものがあった。
それは、正人が弟と呼ぶ思考。
服部はその存在には一切気付いていない。
彼もまた服部と似通った精神干渉する能力をもった超能力者。
彼の超能力の正体、それは、"感覚置換"だ。
その名の通り相手の感覚と自分の感覚を置換する能力である。
今、彼が発動している能力は感覚置換の応用である感覚共有である。百パーセントの発動で感覚置換、約八十パーセントの発動で感覚共有が可能となる。
発動条件は、対象の正確な姿の想起と"代わりたい"という強い意思。
弟の超能力には距離の制限はなく、自宅から正人を援護していたのだ。
今まで雑務課のメンバーから度々不自然に思われていた言動は、常に正人の精神に干渉していた正人の実の弟の仕業であり、正人が二重人格であったわけではなかった。
距離の制限がないのは大きなメリットと言えるが、デメリットを挙げるとするならば同じ血を分けた兄弟であるが故にお互いの思考が常に干渉しやすい状態にあり、二つの思考がどちらのものなのか分別しにくいことであった。
"あぁ~良かった。ちゃんと対応できてる。順応し過ぎてどっからどこまでが俺の言葉なのか分かりづらいけど、この質問は絶対俺じゃないな。"
この時の正人の心情は正しく弟の感覚共有を指していた。
『代われッ!』
その強い意思に力が応えるかのように、弟の視界を刹那燃え上がる炎の渦で占めた。直後、パンッと弾け飛び視界を占めた炎が消失し、能力の発動を知らせる。
能力の全開放で感覚共有から感覚置換にカチリとスイッチが切り替わった。
水中で満たされた正人の視界は干上がろうとし急激に水位が下がり、水から顔を出してしまった。
奥歯に噛んだトランプの切れ端を再度強く噛み締め、どうにか気力で意識を保てば膝まで下がった水位がまたプラネタリウムの天井まで上昇した。
「さ、せるかよ!」
策を練るための思考は弟に委ねたままにし、正人は自身の身体に集中して服部に乗っ取りかけられた身体を力ずくで奪い返えそうとする。
しかし、正人はとうとう視覚と肉体の自由を半分奪われてしまう。足に力を込めて一歩一歩踏みしめよろりとしながらプラネタリウムに並ぶ座席の一つに手をかける。
これは俺の身体だ!
ガンガン!
「ゔッ! イッ……!」
最後の力を振り絞り、座席シートの角に頭をぶつける。痛みに悶絶する声は正人と弟と服部のものである。正人本人にも弟にも服部にもダメージはあった。
この雑な追い出し方は紛れもなく正人自身の行動によるものだった。
しかし虚しくも正人は服部に完全に呑みこまれ、全ての自由を奪われる。
やべぇ……重た………乗っ取、られ、る。
目蓋が徐々に重くなり、正人は瞳を閉ざした。
身体は崩れ落ち、掴んでいた座席シートを手放し、ドサッと身体を床に打ち付ける。
正人が膝に手をつきながらゆらりと立ち上がり、目を開けた。正しくは正人の肉体を乗っ取った服部がだ。
正人自身の肉体と思考は完全に乗っ取られた。
しかし、
『とっとと兄貴から出ていきやがれクソ野郎が‼︎』
服部が全てを乗っ取っても、乗っ取ることができないものがあった。
それは、正人が弟と呼ぶ思考。
服部はその存在には一切気付いていない。
彼もまた服部と似通った精神干渉する能力をもった超能力者。
彼の超能力の正体、それは、"感覚置換"だ。
その名の通り相手の感覚と自分の感覚を置換する能力である。
今、彼が発動している能力は感覚置換の応用である感覚共有である。百パーセントの発動で感覚置換、約八十パーセントの発動で感覚共有が可能となる。
発動条件は、対象の正確な姿の想起と"代わりたい"という強い意思。
弟の超能力には距離の制限はなく、自宅から正人を援護していたのだ。
今まで雑務課のメンバーから度々不自然に思われていた言動は、常に正人の精神に干渉していた正人の実の弟の仕業であり、正人が二重人格であったわけではなかった。
距離の制限がないのは大きなメリットと言えるが、デメリットを挙げるとするならば同じ血を分けた兄弟であるが故にお互いの思考が常に干渉しやすい状態にあり、二つの思考がどちらのものなのか分別しにくいことであった。
"あぁ~良かった。ちゃんと対応できてる。順応し過ぎてどっからどこまでが俺の言葉なのか分かりづらいけど、この質問は絶対俺じゃないな。"
この時の正人の心情は正しく弟の感覚共有を指していた。
『代われッ!』
その強い意思に力が応えるかのように、弟の視界を刹那燃え上がる炎の渦で占めた。直後、パンッと弾け飛び視界を占めた炎が消失し、能力の発動を知らせる。
能力の全開放で感覚共有から感覚置換にカチリとスイッチが切り替わった。
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