警視庁雑務部雑務総務課〜父の無実の罪を晴らすため就職しました〜

産屋敷 九十九

文字の大きさ
上 下
14 / 99
File1 自覚無き殺人犯

第三話 総務課長の見解

しおりを挟む
「もぉ~椿君はせっかちだねぇ。もう少しだけ付き合ってくれよ。年寄りの話は長いもんだと知ってるでしょ?」

はぁ、と一つ溜め息をつきながら課長は掌を上に向け首を横に振った。

「……課長がそんなんだからコンパ行っても誰もお持ち帰りできないんダヨ#/$€%」

「余計なお世話だよ!」

監視カメラを指差して、レンズの奥の椿先輩にツッコむ。


詳しいな、椿先輩。


ゲフンゲフン!と課長は咳払いし、「じゃ、切り替えようか」説明を再開した。




「加藤大輔が記憶喪失だという線は置いておいて、彼が正常な状態であることを前提として聞いてほしい」


その可能性は低いってことなのか?


課長が文字で埋まったホワイトボードを一回転させて、まっさらなボードにペンをはしらせながら説明をし始めた。

「犯行当日、服部和毅と加藤大輔は同じ日に有給を取っていたんだ。
服部和毅は午前八時頃外出し、午前八時半に自宅から車で七.五キロメートル先にあるネットカフェに到着。
午後十二時時十五分ネットカフェを後にし、午後十二時四十五分に帰宅した。
書斎で妻の遺体を発見後、午後十二時五十五分に警察へ通報。
その時、現場に駆けつけた警察官から服部和毅の様子を聞いてみれば、自分の妻が殺されたというのに落ち着いていて、まるで他人事のようだったそうだ」


同じ日に有給⁉︎ たまたまか?
いやっ、どっちかが合わせたとしか思えてならない。遺体発見から通報するまでたったの十分か……。


俺はホワイトボードに書かれた時間をジッと見つめた。


随分と早いような気が。
妻が殺されたのに狼狽なかったって……不倫疑惑もあるし、夫婦仲が冷え切ってるとそういうもんなのか?


「一方で、加藤大輔は午前九時車で外出。
午前九時二十三分コンビニエンスストアに到着し、そこで包丁を購入した。
午前九時半にコンビニエンスストアを離れ被害者宅へ向かい、午前十時十五分被害者宅に到着し犯行に及ぶ。
死亡時刻は午前十時四十分。
それから返り血のついたシャツを脱いで着替え、被害者宅近所のゴミ捨て場に捨て、犯行現場を後にし十一時五十分に帰宅した」


ずさんな犯行計画だな。人を殺し慣れていないと計画的にはいかないってことなのか? 計画してたなら包丁ももっと前に購入しておくとかは考えなかったのか? 衝動的な犯行? でも有給もとってるし、一応考えて行動している?


「因みに服部和毅と加藤大輔の仲はあまり良くないそうだ。
連絡先も交換していないし、着信履歴を見てもお互いの名前は無かった。
仲が良くないというよりは服部和毅が一方的に加藤大輔を嫌っていたようだね。
他の同僚に酒の席でよく加藤大輔の悪口を言っていたそうだ。
"何でアイツばっかり""俺だって頑張ってるのに"ってね。
いわゆる仕事のできる同僚に対する嫉妬だよ」


仲が良くなかったってことは同じ日に有給をとったのは、はやっぱり偶然?


「どうも最近、離婚で揉めてたみたいだ。
服部和毅が妻に離婚を切り出し、愛人と結婚するとね。
離婚の話は彼から聞いたものだ。
周りで不倫疑惑はあったけど、離婚までは伝わってなかったようだね」


ただの女遊びじゃなくて、愛人までつくって完全に不倫してたのか。


「服部和毅には妻を殺害する動機がある。
一方で、加藤大輔には面識の無い被害者を殺す動機が無い」

「妻を殺害することで愛人と結婚できるというメリットがあるってことですよね?」

「そう。そして加藤大輔が被害者を殺すことで服部和毅にメリットが生まれる」

「邪魔な妻と邪魔な同僚を一気に排除できるわねぇ」

「あぁ。さらに完全犯罪となれば、服部和毅は罪に問われない」

「まさに一石三鳥のいいことずくめダナ#/$€%」




「……っと、まとめるとこんな感じかな?」


カチリとペンにキャップをし、他のメンバーに見えるようにボードの横に身体をずらした。



***



ホワイトボード:裏


服部和毅
午前八時      :外出、ネットカフェに向かう
午前八時半     :ネットカフェに到着
午後十二時十五分  :ネットカフェを後にする
午後十二時四十五分 :帰宅、書斎で妻の遺体を発見
午後十二時五十五分 :警察へ通報


加藤大輔
午前九時     :外出
午前九時二十三分 :コンビニエンスストアに到着 包丁を購入
午前九時半    :コンビニエンスストアを出て被害者宅へ向かう
午前十時十五分  :被害者宅に到着し犯行に及ぶ
午前十時四十分  :殺害、返り血のついたシャツを脱いで着替え被害者宅近所のゴミ捨て場に捨て、犯行現場を後にする
午前十一時五十分 :帰宅



【不審な点】
   加藤大輔
・被害者との面識が無い
・動機無し
・犯行時の記憶無し
・被害者宅を訪問したことがない
・服部和毅及び被害者と連絡を取り合ったことがない

   服部和毅
・ネットカフェを訪れたのは今回初めてだった
・服部和毅はネットカフェで寝ていただけで特に何もしていない
・加藤大輔と連絡を取り合っていない



***




「服部和毅と加藤大輔はお互いの連絡先を知らないのに何故、入れ替わるようにしてお互い帰宅したんだ?」

「そもそもお互いの連絡先知らないし、仲も良くないから服部和毅がネカフェに行く予定も知らないわよねー? まるで知っていて動いたみたいね」

「犯行当日にはじめてネカフェに行ったってのもおかしな話ねぇ。それが偶々だったとしてもはじめてなら色々見てまわるくらいはするでしょぉ普通」

「ね? おかしな事件でしょ?」と課長はホワイトボードのペンをカタンッと置いて、ボードに背を向けメンバーの顔を覗き見る。




「だから、私はこう仮定したんだ」



課長が口が裂けそうなくらいに口角を釣り上げてニヤッとした。






「服部和毅は能力者で、彼は人の身体を操る能力を得ている。
しかし、能力の発動条件として身体の自由を奪われるため、妻の殺害を終えるまでの間、ネットカフェで過ごすことになった、とね」

















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

”その破片は君を貫いて僕に突き刺さった”

飲杉田楽
ミステリー
"ただ恋人に逢いに行こうとしただけなんだ" 高校三年生になったばかり東武仁は授業中に謎の崩落事故に巻き込まれる。街も悲惨な姿になり友人達も死亡。そんな最中今がチャンスだとばかり東武仁は『彼女』がいる隣町へ… 2話からは隣町へ彼女がいる理由、事故よりも優先される理由、彼女の正体、など、現在と交差しながら過去が明かされて行きます。 ある日…以下略。があって刀に貫かれた紫香楽 宵音とその破片が刺さった東武仁は体から刀が出せるようになり、かなり面倒な事件に巻き込まれる。二人は刀の力を使って解決していくが…

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...