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第4章 奴隷と暮らす

第31話

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 森中のエルフたちが駆けつけたものの時既に遅し、悪魔召喚はとうに成功しており、グリォンの羽をもつ犬の悪グラシャ・ラボラス魔がそこにいた。名のある悪魔──それは、高位の悪魔であることを示していた。

「なんと素晴らしいのでしょう……」

 悪魔召喚に成功したエルフの彼は、恍惚の表情を浮かべ満足気にグラシャ・ラボラスを見つめていた。駆けつけたエルフたちに気づくことはなかった。

「おまえ……なんということを……」

 その震えた声に、初めて彼は目の前の悪魔から視線を外す。

「父さん……」

 とうに寝静まっているはずの父親の姿に一瞬目を丸くした彼だったが、その驚いた表情は、すぐに満面の笑みに変わった。

「見てください! 僕、悪魔召喚に成功しました! この悪魔は恐らく名のある悪魔に違いありません! グリフォンのような羽と犬の身体が何よりその証拠です! きっと、グラシャ・ラボラスという悪魔です!」

 その無邪気に語る彼の姿を見て、父親以外のエルフたちが彼に武器を向けた。

「貴様、悪魔召喚など……我々を殺すつもりか‼︎」

「その悪魔を使役して、何を成し遂げようとしている‼︎」

「今すぐに、この者を殺さねばなりません‼︎」

 彼を批判する声が口々に上がる。何故、こんなことになってしまったのか理解出来ずにいる彼は、きょとんと首を傾げる。

「何故、僕が皆を殺さねばならないのですか? ただ、僕は自分の限界を知りたくて……それに何故、僕は殺されなければならないのですか?」

 いつまで待たせるつもりだとでもいうように、しびれを切らしたのか、のそりとグラシャ・ラボラスが口を開いた。

「ここにいるエルフどもを、とっとと殺しちまえよぉ。早く契約成立させてぇ、ボクと一緒に遊ぼーよぉ! ねぇ?」

 普通にしていれば愛くるしい犬の顔が歪められる。にちゃあと薄気味悪く目を細め口角を上げるその表情は、正に悪魔そのもので……円になって彼を囲むエルフたちが後退る。武器を持つ手はプレッシャーで小刻みに震える。

「殺しませんよ。自分の力を知ることが出来たので、もう帰って良いですよ。有難うございました」

「何言ってんのぉ? 悪魔召喚に必要なのはぁ……」

 そう言って、今度は愛くるしい表情かおをしたラボラスが、犬の手で彼の胸にトンと触れる。

「キミの魔力とぉ……」

 彼の胸に置いたラボラスの手が離され、今度はエルフたちに向けらた。そして、再び顔を歪め、悪魔に相応しい表情かおをして言った。

「あそこにいる、エルフたちの……魂だよぉ?」

「そ、そんな……⁉︎」

 彼は、そこで初めて自分の犯した罪を知った。

 顔を真っ青にさせて打ちひしがれる彼は、膝から崩れ落ちるようにして地面に両手をつく。

 そんな彼の絶望的な表情かおを見たラボラスは、背中についた漆黒の翼を羽ばたかせ、地面に転げ回って高笑いした。しんと静まり返った深夜の森に、ラボラスの楽し気な声のみが響き渡る。

 ひとしきり笑い続け満足したラボラスは、いまだに地面に両手をつく彼の側へ寄る。

「契約しようがしなかろうが、ボクを召喚したんだ。魂は貰うからねぇ?」

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