68 / 103
第3章 奴隷と暮らすまで
第24話
しおりを挟む
新聞販売店を出て、歩きながらノートにチェックを入れ、確認する。
「あとは、治療器具と医学書、薬品……だな」
(薬品は『ローダの薬屋』で買うとして……)
「治療器具と医学書はどこで売っている?」
進む足を止め振り返り、狐人を見る。
「大体は治療院近くにあるかな? 大きな治療院のところだと、納品しやすいようにすぐ側に治療器具の店があるよ。ほら、あそこだと大きいし、近くにあるんじゃないかな?」
そう言って、狐人が親指で指差す先へ顔を向ければ、横に長い長方形でクリムゾンレッドの建物が見えた。
「あの平らな屋根で赤褐色の建物か?」
「そうそう」
(病院のわりに派手な色だな……)
ノートをアイテムボックスへしまい、私たちはその建物の方向へ向かった。
***
目の前に聳え立つのは、遠目に見ていた通りの横に長い長方形でクリムゾンレッドの建物。そして、窓は縦に長い長方形のスライドガラスで、室内の換気のためか複数開放され、カーテンがふわりと膨らんだり萎んだりを繰り返している。
用事があるのはここではなく、その周辺の店舗だが。
「あのさぁ、医学書って結構高額なんだけど大丈夫?」
「別にかまわない。店舗ごと買えるくらいの余裕はあるからな。主治医としての職務を全うできるようにしっかり揃えてくれ」
医学だけには留まらず、マニアックな本が並ぶ『専門書店』や『治療器具専門店』といった複数の店舗を回って行った。
素人の私にはよくわからないが、狐人は同じような器具を手に取っては見比べるのを繰り返しているから、メーカーによって使いやすいものがあるんだろうかと思った。
特に狐人は獣人だから、獣人の手に馴染む器具を探すのにじっくり選んでいたのかもしれない。
(そういえば……手、大きいもんな)
狐人のわりには、随分と真剣に時間をかけて選んでいる。仕事とプライベートをしっかり使い分けるタイプなのかもしれない。へらりとした軽い性格が今後の主治医としての仕事に影響しなさそうで安心した。
あくまで私の想像でしかないが、「ま、これでいいんじゃない?」と適当な治療をされたら最悪だ。その場面を脳内に浮かべて思わず苦虫を潰したような複雑な表情になる。命従紋があるから、最悪の事態は免れられるだろうが、その力が働かないようになるべく自分の意思で動いてほしい。
「なんかさぁ、失礼なこと考えてない?」
「いや?」
いつのまにか狐人が目の前にいた。ローブの奥から黒い笑顔を覗かせる狐人に対し反射的に返す。反射的に答えてしまったのは、図星だったからだろう。その態度が裏目に出ていないことを祈る。
「ふぅ~ん」と言って他に何か言いたそうな顔をしていたが、それ以上追求はされず、狐人は私に背を向けて店内を回って行った。追求から逃れた私は静かに息を吐いてほっと肩の力を抜いた。
「あとは、治療器具と医学書、薬品……だな」
(薬品は『ローダの薬屋』で買うとして……)
「治療器具と医学書はどこで売っている?」
進む足を止め振り返り、狐人を見る。
「大体は治療院近くにあるかな? 大きな治療院のところだと、納品しやすいようにすぐ側に治療器具の店があるよ。ほら、あそこだと大きいし、近くにあるんじゃないかな?」
そう言って、狐人が親指で指差す先へ顔を向ければ、横に長い長方形でクリムゾンレッドの建物が見えた。
「あの平らな屋根で赤褐色の建物か?」
「そうそう」
(病院のわりに派手な色だな……)
ノートをアイテムボックスへしまい、私たちはその建物の方向へ向かった。
***
目の前に聳え立つのは、遠目に見ていた通りの横に長い長方形でクリムゾンレッドの建物。そして、窓は縦に長い長方形のスライドガラスで、室内の換気のためか複数開放され、カーテンがふわりと膨らんだり萎んだりを繰り返している。
用事があるのはここではなく、その周辺の店舗だが。
「あのさぁ、医学書って結構高額なんだけど大丈夫?」
「別にかまわない。店舗ごと買えるくらいの余裕はあるからな。主治医としての職務を全うできるようにしっかり揃えてくれ」
医学だけには留まらず、マニアックな本が並ぶ『専門書店』や『治療器具専門店』といった複数の店舗を回って行った。
素人の私にはよくわからないが、狐人は同じような器具を手に取っては見比べるのを繰り返しているから、メーカーによって使いやすいものがあるんだろうかと思った。
特に狐人は獣人だから、獣人の手に馴染む器具を探すのにじっくり選んでいたのかもしれない。
(そういえば……手、大きいもんな)
狐人のわりには、随分と真剣に時間をかけて選んでいる。仕事とプライベートをしっかり使い分けるタイプなのかもしれない。へらりとした軽い性格が今後の主治医としての仕事に影響しなさそうで安心した。
あくまで私の想像でしかないが、「ま、これでいいんじゃない?」と適当な治療をされたら最悪だ。その場面を脳内に浮かべて思わず苦虫を潰したような複雑な表情になる。命従紋があるから、最悪の事態は免れられるだろうが、その力が働かないようになるべく自分の意思で動いてほしい。
「なんかさぁ、失礼なこと考えてない?」
「いや?」
いつのまにか狐人が目の前にいた。ローブの奥から黒い笑顔を覗かせる狐人に対し反射的に返す。反射的に答えてしまったのは、図星だったからだろう。その態度が裏目に出ていないことを祈る。
「ふぅ~ん」と言って他に何か言いたそうな顔をしていたが、それ以上追求はされず、狐人は私に背を向けて店内を回って行った。追求から逃れた私は静かに息を吐いてほっと肩の力を抜いた。
0
お気に入りに追加
624
あなたにおすすめの小説
黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。
あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。
だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。
ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。
オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。
そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。
【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。
よければ参考にしてください。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
形成級メイクで異世界転生してしまった〜まじか最高!〜
ななこ
ファンタジー
ぱっちり二重、艶やかな唇、薄く色付いた頬、乳白色の肌、細身すぎないプロポーション。
全部努力の賜物だけどほんとの姿じゃない。
神様は勘違いしていたらしい。
形成級ナチュラルメイクのこの顔面が、素の顔だと!!
……ラッキーサイコー!!!
すっぴんが地味系女子だった主人公OL(二十代後半)が、全身形成級の姿が素の姿となった美少女冒険者(16歳)になり異世界を謳歌する話。
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される
マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。
そこで木の影で眠る幼女を見つけた。
自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。
実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。
・初のファンタジー物です
・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います
・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯
どうか温かく見守ってください♪
☆感謝☆
HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯
そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。
本当にありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる