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第3章 奴隷と暮らすまで

第11話

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 調べ終わり、ケシの実を彼らから回収する。実は後で水で洗って表面を拭いて保管するつもりだ。

(まぁ、そんなに汚れてないし大丈夫だろ)

 不動産業者に最後に聞いておきたいことがある。

「ここに住んでいた前の住人は、体調を崩すことはなかったか? 例えば気持ちが悪くなった、だとか」

「いえ、特にそういったことは聞いておりません。この屋敷は、別荘用に建てられ、たまに人が住むくらいで、ほとんどの部屋は物で埋め尽くされていたようなので」

「そうか」

 調査結果より、屋敷の傾きも窓の歪みも無く、設計ミスは無さそうだった。実際に窓を開閉してわかったことだが、前方に押して開けるのではなく、上げ下げしてスライドさせるタイプの窓だった。

(うっかり指挟みそうで恐いな……)

 まぁそれは兎も角、無事に住む家が決まって良かった。契約のため、私たちは王都へ戻ってきた。

「こちらが契約条項と土地及び建物売買契約書になります。契約条項をよくご覧になってから、サインをお願い致します。それから、身分証の提示もお願い致します」

 内ポケットの身分証を取り出して業者に手渡す。身分証の内容は改ざん済みだ。


────────────────────────────────
名前     レオリオ・ヒーラギ
性別     男
種族     人間
所属及び職業 貴族(男爵)、執事(見習い)
魔力     2,000以上
出身     エドーラ王国
────────────────────────────────


 国外設定だと何か聞かれそうだし、国内の爵位の高い貴族だと、怪しまれそうだから、見習い執事にしておいて、仕えている主人に頼まれたという設定にしておいた。
 
「大丈夫そうですね」

 業者はパラパラ一通り身分証の手帳を捲って、直ぐに返却した。あまりじっくりと見られなかったので、罪歴辺りを探していたんだろう。

 契約条項に目を通す。条項は第23条まであった。昨夜本で読んだ内容と類似しているが、異なる点もあるかもしれないので流すように一通り読んでいく。

「つっ……⁉︎」

(まさか、もう時間が⁉︎)


────────────────────────────────
         契◼️条項

◼️1条 売◼️は、標記の◼️◼️を標◼️の代金を
   もっ◼️買主に◼️渡し、◼️主はこれを
   ◼️受けた◼️

第◼️条 ◼️主は、売主に◼️付として◼️この
    ◼️◼️締結と同◼️に標◼️の金◼️◼️支
    ◼️う。
    手◼️金は、◼️代金支払◼️のときに、
    売◼️◼️金の一部に充◼️する。

第◼️ ◼️ 主は、買◼️◼️本物件引◼️しのと◼️
     までに、現◼️におい◼️隣地との境
     ◼️を明◼️する。
     ◼️主は、その責◼️と負◼️◼️おい
     て、◼️地所有◼️等の◼️会を得て、
     ◼️◼️士または土◼️家屋調◼️士に
     標◼️の土◼️◼️ついて◼️◼️測量図
     を作◼️させ、引◼️しのとき◼️◼️
     に◼️主に交◼️する。
         
 ────────────────────────────────


 モザイクがかかるように、段々と文字が読めなくなっていく。書かれている文字は変わらないのに、思考が鈍っていくような感覚に襲われた。

「どうか、されましたか?」

「いや、何でもない……」

 業者に声をかけられ、素っ気ない返事をしてしまうが、今は焦っていて気にしている余裕はない。

(あともう少しだ、待ってくれっ!)

 そんな思いで、心拍数を上昇させ冷や汗を額から流しながら読むスピードを上げる。どうにかぎりぎりで第23条まで読み終え、ペンを取る。ペンを持つ手が売買契約書に向かうが、どうにかぐっと思い止まる。

(……焦るな!)

 そう自分に言い聞かせる。

 読み終わった契約条項を確認してもらうため、背後で待機している彼らにその書類を手渡した。

「おまえたちの住む家でもあるんだ。一人一人しっかり目を通しておくといい」

 売買契約書は、すでに読めなくなっていた。だが、そこにあるのはサインする場所だけなので、問題ない。自分の名前を間違えないよう、麻袋からノートを取り出し、そこに書かれた名前を確認しておく。

「読んだよー」

 暫くして狐人の軽快な声と共に、カウンターに契約条項の書類が置かれた。

「問題なかったか?」

 振り向いてそう聞けば、彼らは大丈夫だと言った。それを一目確認すると、私は売買契約書にサインした。書字自動言語翻訳解除によって書いた文字が随分と拙い。

(まぁ、なんとか読めるだろう……)

 ペンなので書き直しは出来ない。私はサインしたものを業者に手渡し、代金を支払った。

「有難う御座いましたー!」

 背後から聞こえる業者の男にこくりと頷き、不動産屋を後にした。

「ちょっと大丈夫なの?」

 尋常じゃないほどの額の汗を袖で拭っていると、狐人が斜め後方から声をかけてくる。抑揚がなく、落ち着いた声だ。心配してくれているんだろう。

「あぁ、大丈夫だ。問題ない。次は家具を見に行くぞ」

 隼人は彼らを引き連れ、賑わいをみせる人混みに紛れて行くのだった。



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