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第2章 奴隷を買いました。
第13話
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商館で気を張っていたせいで、反動がきたのかもしれない。アルバイトなんてしたこともなかったし、ああいう取引きは慣れてないから疲れる。
大袈裟に咳払いをして、なにもなかったかのように、しれっと振る舞う。気まずさは拭えないので、ローシェンナの瞳からわずかに視線を逸らした。
「いや、元より獣人に対する嫌悪感などはない。ただ、梟の獣人は初めて見るので少々驚いただけだ。不快に思わせたのなら申し訳ない」と頭を下げて謝罪する。
前の梟はぎょっとし、わたわたと慌てる。
「……いえっ! こちらこそ思い違いで、すみません! と、ところで、ご利用は初めてですかな?」
「あぁ、身分証を提示すればいいと聞いたが、それ以外はさっぱりだ」
「そうなんですね。申し遅れました。私は司書のシルと申します。ご利用方法をご説明致しますので、どうぞこちらへ」
図書館の中央にある円形のカウンターまで誘動される。
「ご利用の際、来てすぐはこちらのカウンターへお立ち寄りください。そして、身分証の提示をして頂ければ、どの本を手に取っても頂いて構いません。本の場所が分からない場合は、司書がお手伝い致しますので、お気軽にお尋ね下さい」
身分証を提示した後、それを内ポケットにしまいながら聞く。
「『血の契約』についての本を探している。具体的な内容として、契約の仕方、それから結ぶ上での注意事項の記載のあるものがいい」
「つっ……⁉︎ 分かりました。少々お待ち下さい」
シルがカウンターに分厚い本を一冊持ち出してきた。そして、文字も見ず弧を描くようにパラパラとページを捲り、唱え始める。
「《名を示し、応えてみせよ》」
すると、一ページだけが白く光り、シルはそこを開いた。光るページの一箇所に、赤く光を放つ文字があった。シルはその文字に人差し指を置いて、また唱える。
「《本を探せ、再会を》」
すると、赤い光は徐々に収まり、元の黒文字に戻った。そして、シルの人差し指に置かれた黒文字がしゅるりと本から分離し、宙に浮く。それは形を変えて、やがて顔のない角の生えた黒山羊になった。
黒山羊は宙を駆けて行き、上の方まで行くと、棚から一冊の本を咥えて戻ってきた。シルが「有難う」と黒山羊の口から本を受け取ると、黒山羊は「メェー」とひとつ鳴き、影が薄くなるかのように消えていった。
(《本を探せ、再会を》って、何で再会なんだ?)
魔法のある世界だから、あまり深く考えないようにしてきたが、気になった。不思議そうに考える私を察してか、シルが説明してくれた。
「実はこの本に記されているのは、題名だけなんです。流石にひとつの本に全ての題名は集約できませんので、ジャンル別に分けていますが。この題名だけが記された本のことを"親"と呼び、それ以外の本を"子"と私たち司書は呼んでいるんです」
「あぁ、だから《本を探せ、再会を》なのか」
(親と子が再会するってことか……)
大袈裟に咳払いをして、なにもなかったかのように、しれっと振る舞う。気まずさは拭えないので、ローシェンナの瞳からわずかに視線を逸らした。
「いや、元より獣人に対する嫌悪感などはない。ただ、梟の獣人は初めて見るので少々驚いただけだ。不快に思わせたのなら申し訳ない」と頭を下げて謝罪する。
前の梟はぎょっとし、わたわたと慌てる。
「……いえっ! こちらこそ思い違いで、すみません! と、ところで、ご利用は初めてですかな?」
「あぁ、身分証を提示すればいいと聞いたが、それ以外はさっぱりだ」
「そうなんですね。申し遅れました。私は司書のシルと申します。ご利用方法をご説明致しますので、どうぞこちらへ」
図書館の中央にある円形のカウンターまで誘動される。
「ご利用の際、来てすぐはこちらのカウンターへお立ち寄りください。そして、身分証の提示をして頂ければ、どの本を手に取っても頂いて構いません。本の場所が分からない場合は、司書がお手伝い致しますので、お気軽にお尋ね下さい」
身分証を提示した後、それを内ポケットにしまいながら聞く。
「『血の契約』についての本を探している。具体的な内容として、契約の仕方、それから結ぶ上での注意事項の記載のあるものがいい」
「つっ……⁉︎ 分かりました。少々お待ち下さい」
シルがカウンターに分厚い本を一冊持ち出してきた。そして、文字も見ず弧を描くようにパラパラとページを捲り、唱え始める。
「《名を示し、応えてみせよ》」
すると、一ページだけが白く光り、シルはそこを開いた。光るページの一箇所に、赤く光を放つ文字があった。シルはその文字に人差し指を置いて、また唱える。
「《本を探せ、再会を》」
すると、赤い光は徐々に収まり、元の黒文字に戻った。そして、シルの人差し指に置かれた黒文字がしゅるりと本から分離し、宙に浮く。それは形を変えて、やがて顔のない角の生えた黒山羊になった。
黒山羊は宙を駆けて行き、上の方まで行くと、棚から一冊の本を咥えて戻ってきた。シルが「有難う」と黒山羊の口から本を受け取ると、黒山羊は「メェー」とひとつ鳴き、影が薄くなるかのように消えていった。
(《本を探せ、再会を》って、何で再会なんだ?)
魔法のある世界だから、あまり深く考えないようにしてきたが、気になった。不思議そうに考える私を察してか、シルが説明してくれた。
「実はこの本に記されているのは、題名だけなんです。流石にひとつの本に全ての題名は集約できませんので、ジャンル別に分けていますが。この題名だけが記された本のことを"親"と呼び、それ以外の本を"子"と私たち司書は呼んでいるんです」
「あぁ、だから《本を探せ、再会を》なのか」
(親と子が再会するってことか……)
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