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遠ざかるモフと癒しの時間
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神尾君と話したい。
できれば取引をしたい。
そう思うものの、どういうわけかその機会は一向に訪れなかった。
仕事以外で話をしようとするとうまく捕まらず、メールをしてものらりくらりと躱される。
そんなことが何度も続いて、さすがの私もこれは、と察した。
──神尾君に避けられている。
何が原因なのかは分からない。でも二人きりにならないように、親密にならないように、上手に距離を取られている感じだ。
神尾君の前で泣いてしまったからだろうか。
考えてみるも、その直後のやりとりではここまで頑なな距離は感じなかった。
はっきりといつから、というのは分からなかったが、強いて言えば戸塚君が神尾君の姿を見たかも、と言ったあの日からのような気がする。
もしかしたら神尾君は本当にあの日、総務部の近くにいたのかもしれない。
だけどそれが何を意味するのか分からなくて、私はただただ途方にくれた。
「あれ」
その日、神尾君の姿を見つけたのは偶然だった。
休日を利用して来たアウトレットモールでのことだ。
見慣れた背格好、見慣れた歩き方、見慣れた横顔。
少し離れた位置にいる神尾君は、こちらには気付かず、スマホを忙しくタップしていた。
話しかけても、いいのかな。
これが戸塚君なら、きっと迷いもせずに声をかけただろう。
だけど避けられていると知っている相手ともなると気後れしてしまって、私はしばし離れた距離から神尾君を見つめていた。
と、唐突に神尾君の背後から一人の女性が走り寄って、彼の背中に抱きついた。
背は低めだがショートカットの髪型がカッコいい、スタイルのいい女性だ。
神尾君が振り返って、背後の彼女に何か言う。
私の位置から神尾君の表情はよく見えなかったが、彼女が太陽みたいに笑うのが見えた。
その笑顔に、ああ、親しいんだな、と二人の関係を理解する。
そのまま女性に腕を抱かれて、神尾君は人混みの中に消えていってしまった。
──そうか。
見えなくなった背中をいつまでも追いかけながら、私はその場に立ち尽くした。
──そうか。そうなんだ。私は、必要なくなったんだ。
綺麗な人。親しげな女性。
神尾君には、神尾君の想う相手がいるのだ。
きっとその人とうまくいって、だから私のことはいらなくなった。
唐突な消失感に胸が苦しくなって、私はその場を走り去った。
「う……うえ……」
走る頰に涙が伝う。
道ゆく人が何事かと振り返るのが恥ずかしくて、俯いて、また走った。
神尾君。神尾君。神尾君。
私に触れた指先を思い出して、私に触れた唇を思い出して、ごめんね、と絞り出した声を思い出して、その度に心臓がぎゅうう、と締め付けられる。
苦しい。苦しい。痛くて、切ない。
こんな恋ならいらなかった。何も知らないままでよかった。
執着を知ってから失うなんて、あんまりだ。
恋をした途端、私は神尾君に失恋してしまった。
できれば取引をしたい。
そう思うものの、どういうわけかその機会は一向に訪れなかった。
仕事以外で話をしようとするとうまく捕まらず、メールをしてものらりくらりと躱される。
そんなことが何度も続いて、さすがの私もこれは、と察した。
──神尾君に避けられている。
何が原因なのかは分からない。でも二人きりにならないように、親密にならないように、上手に距離を取られている感じだ。
神尾君の前で泣いてしまったからだろうか。
考えてみるも、その直後のやりとりではここまで頑なな距離は感じなかった。
はっきりといつから、というのは分からなかったが、強いて言えば戸塚君が神尾君の姿を見たかも、と言ったあの日からのような気がする。
もしかしたら神尾君は本当にあの日、総務部の近くにいたのかもしれない。
だけどそれが何を意味するのか分からなくて、私はただただ途方にくれた。
「あれ」
その日、神尾君の姿を見つけたのは偶然だった。
休日を利用して来たアウトレットモールでのことだ。
見慣れた背格好、見慣れた歩き方、見慣れた横顔。
少し離れた位置にいる神尾君は、こちらには気付かず、スマホを忙しくタップしていた。
話しかけても、いいのかな。
これが戸塚君なら、きっと迷いもせずに声をかけただろう。
だけど避けられていると知っている相手ともなると気後れしてしまって、私はしばし離れた距離から神尾君を見つめていた。
と、唐突に神尾君の背後から一人の女性が走り寄って、彼の背中に抱きついた。
背は低めだがショートカットの髪型がカッコいい、スタイルのいい女性だ。
神尾君が振り返って、背後の彼女に何か言う。
私の位置から神尾君の表情はよく見えなかったが、彼女が太陽みたいに笑うのが見えた。
その笑顔に、ああ、親しいんだな、と二人の関係を理解する。
そのまま女性に腕を抱かれて、神尾君は人混みの中に消えていってしまった。
──そうか。
見えなくなった背中をいつまでも追いかけながら、私はその場に立ち尽くした。
──そうか。そうなんだ。私は、必要なくなったんだ。
綺麗な人。親しげな女性。
神尾君には、神尾君の想う相手がいるのだ。
きっとその人とうまくいって、だから私のことはいらなくなった。
唐突な消失感に胸が苦しくなって、私はその場を走り去った。
「う……うえ……」
走る頰に涙が伝う。
道ゆく人が何事かと振り返るのが恥ずかしくて、俯いて、また走った。
神尾君。神尾君。神尾君。
私に触れた指先を思い出して、私に触れた唇を思い出して、ごめんね、と絞り出した声を思い出して、その度に心臓がぎゅうう、と締め付けられる。
苦しい。苦しい。痛くて、切ない。
こんな恋ならいらなかった。何も知らないままでよかった。
執着を知ってから失うなんて、あんまりだ。
恋をした途端、私は神尾君に失恋してしまった。
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