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キスのバリエーション
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しおりを挟む秋晴れの空に羊雲が浮かんでいる。
殺風景な屋上に出ると、私ははあ、とため息をついた。
「でっかいため息」
唐突に声をかけられて、驚く。
辺りを見回すが、がらん、とした屋上には人の影など一つもない。
「こっちです」
笑いを含むような声に、視線を上げると、出入り口の高台から身を乗り出してこちらを見下ろす人影を見つけた。
「神尾君」
ひらりと片手を上げて応じた神尾君の瞳が、私の手元に移動する。
「お弁当なら、こっちで一緒に食べませんか」
誘われて素直に頷くと、神尾君が嬉しそうに目を細めた。
高台に登って、神尾君の隣にお邪魔する。
体育座りをしかけてスカートだった、と慌てていると、神尾君が自分の背広を私の膝にかけてくれた。
「すみません」
「すみませんよりありがとうって言ってもらえた方が嬉しいです」
コンビニで買ってきたのか、ガサガサとおにぎりの袋を開けながら神尾君が言う。
「ありがとう……ございます」
「はい」
にこ、と笑って見せてから、神尾君がおにぎりにかぶりついた。
よく見るとコンビニ袋の中には、あと小さな唐揚げのパックとサンドイッチしか入っていない。
大の男の人がこんな量で足りるのだろうか。
大食漢の父を思い浮かべて、私はちょっと心配になった。
「あの、よかったらこれ食べませんか」
二段になっているお弁当箱のおかずの方をぱかっと開けて勧める。
中身は鮭と小松菜のおにぎり、蓮根入りきんぴら、ほうれん草の胡麻和えに海老の落とし焼きが詰まっていた。
あまり見栄えのするものではないが、どれも私の好きなものだ。
「うわ、美味そう」
神尾君の目がキラキラと輝いて私のお弁当を食い入るように見つめる。
ありものと昨晩のおかずを詰めただけなので、あんまり注目されるといたたまれない。
「すみません、実家が田舎の方でずっとこういうもの食べてたので……私は好きなんですけど、若い男の人が好きなものではないかも」
「そんなことないです」
首を振って神尾君が私の言葉を退ける。
「俺、好き嫌いはないですけど、こういう家で出てくる和食みたいなの大好きなんです。でも、俺が食べたら篠瀬さん困りませんか」
「大丈夫です。万が一残業になった時用に、いつも多めに作って持ってきてるので」
実際、おにぎりにサンドイッチの神尾君の昼食より、私のお弁当の方が量もボリュームもある。
ちら、とコンビニ袋に目をやると、こちらの考えを察した様子で神尾君が肩をすくめた。
「便利なんでついコンビニ弁当ばっかり多用しちゃうんですけど、あんまり食欲そそられなくて。いつもこんなもんなんです」
「お腹持ちますか」
「──まあ」
そうですね、と言いかけた神尾君のお腹から、くるくる、と可愛い音が鳴る。
どうやら食欲を刺激できたようだ。
「すみません」
片手で顔を隠した神尾君の耳がほんのり赤くて、私は思わず笑ってしまった。
かわいい、なんて言ったらますます顔を上げてくれなくなりそうだったので言わなかったけれど。
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