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第27話 嘘から出たまこと

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「相手はウォータースライムドラゴンで我々の手持ちの手段と相性が悪い。複数のコアのうちのいくらかは潰したから、奴も回復に専念すると思うが、一旦仕切り直しだ」

 光風の騎士団は、4階層と3階層の境目でギルドからの指示を律義に守るように待機していた年配のゴールドランクパーティに状況を伝え、その場を後にする。相手側のパーティからは、戦いの余波に巻き込まれて出来た穴に落ちた冒険者パーティもいるから、助けてやってくれないかと言われるが、俺たちの任務はそれでは無い。

「私たちの任務はサブダンジョンのコアの破壊なので、そちらを優先させていただきます」

「…悪い。無理なことを言ってすまない」

 オルフから説明されると自分たちでも分かっていたのだろう、ゴールドランクのパーティはあっさりと引き下がる。同じ所属ギルドの冒険者だとしても、最優先の任務よりも仲間を優先しようとするのは理解出来ないな。

 その後、ギルドに戻って魔力の自然回復を促す食べ物を摂取しつつ、コアの守護者の報告とパーティ内で次の作戦を話し合う。ウォータースライムドラゴンには、光の魔法も熱での攻撃になるから相性が悪いはずだから、どうするか…

「この菓子おいしー」「あまーい」

「王都騎士団の携帯食料に採用しましょうよ」

「私は甘いのが苦手ですが、この揚げ肉は酒にも合いそうですね」

「オルフは分かってんな」

「最初からコア狙いでいくべきか…。次は俺の魔剣で最初から奴を攻撃し、その後風属性の同調魔法で仕留めるか、出来た隙にコアを攻撃する」

 了解と頷く声を聞きながら、次の戦闘までに体調を調整していく。ふいにダンジョンにいた冒険者から魔剣の攻撃の余波で、ダンジョンに出来た穴に落ちた冒険者の助けを呼ぶ声が聞こえて来る。
 そうしていたら、先程まで菓子や揚げた薄い肉を用意していた男が、冒険者ギルドの外に向かって走り出して行く。見た所ブロンズランクで何か出来るとは思わないし、コアの守護者が上の階層に移動していたら無駄死にだろうによく分からないな。

「アンタらは命を捨てる場面があるが、賭ける場面はないだろうね」

「どういうことだ?」

「アンタらは今は冒険者ギルドに所属しているが、身も心も王都騎士団なんだろうよ」

「魔法師の冒険者ギルド長に言われるとはな」

 アタシは魔法師ギルドでやり過ぎて追い出されたけど最初から心は自由な冒険者なのさ、と目の前の冒険者ギルド長の炎熱のローザに言われる。たしかに、俺たちは冒険者ギルドへの所属は一時的なものだからその言葉は的を射ている。

「冒険者は計算をして依頼をこなすこともあるが、金か夢かプライドのために命を賭けることもある。それが、後から結果的に命を賭けていたことに気付くような馬鹿も多いのさ」

「それが先程の男にも当てはまると?」

「さぁね。それでもアンタらが騎士の装備を発動体にして魔法師の真似事をしようが、身分証を作って冒険者と名乗っても変わらず騎士の在り方のままと一緒で、冒険者は冒険者を知るのさ」

 なるほど、同じプラチナランクであるが、彼女の方が冒険者としての歴が長いし納得できる。実際に、俺たちは命を捨てる時があるが賭けはしない。確率の低い勝負なら仕切り直してより確実に勝てる状況を作り出し、最優先は任務を達成することだ。それは、冒険者よりは騎士のやり方なのだろうな。





 街の要所に送っていた物資を回収していたら、大して消耗が見られない姿の光風の騎士団が戻って来ていた。彼らのために、魔力回復用にアメやらチョコレートやらの品を用意して話を聞いていた。彼らの淡々とした語り口に、時折冗談のようなことも口にするが、メンバー全員の表情は全く変わらずに喜怒哀楽の一切を感じない。
 それに、この命が現実で失われる世界では確実性が重要なのだろうが、何となくゲームの攻略で効率を重視したようなプレイヤーの言葉に聞こえて来るのは勘違いだろうか。
 そうして、サブダンジョンのコアを守護するモンスターとの戦いについての話にも耳を傾けていると、ダンジョンにいたはずのパーティの1つから応援を求められる声がする。

「おーい、戦いの余波で出来た穴にゲンガンとブロンズパーティが何組か落ちたらしいぞ!!」

「おい、待て!!どこへ行く、配達屋!?」

 ゲンガンとブロンズパーティが2階層から下の階層に落ちたと聞いた瞬間、走り出していた。気が付いたらと言うべきか勝手に体が動き出していたが、自分が行っても何かが出来るわけではないと思うし、少しくらい活躍したからといって調子に乗っていたかもしれない。
 それでも、知り合いが危険かもしれないと聞いて、何とかしなければと思うような人間性が残っていたことに、あれだけ自己中心的だと自覚していた自分が一番驚いていた。そのまま物資管理の指示をしていたゼーエフの止める声も背後に、ステータスの体力が上がった効果なのか普段よりも素早く感じる足取りでダンジョンの入り口に着いた。

 ダンジョンの中に入ると、1階層まで貫通した大穴を見つける。光風の騎士団の魔剣とやらの仕業らしいが、下の穴の様子まで見えないくらいに斜めの方向に抉り取られて空いた形を見つつ、1つ下の階層に向かってショートカットを目論む。 
 この方法しか思いつかないんだから耐えてくれよ、と下の層に届く長い合金製の棒を2本作り出して、穴の窪んだ場所に固定するように斜めに配置する。棒が動かないことを願って下の層の地面につけ、2本の棒の間に脇を通すように全体重をかけて、下の層へ斜めに滑り落ちる。小学生の時に、校庭にある登り棒の遊具でこんなことをしたような記憶を思い出しながらどうにか2層にたどり着くが、あと何回命がけのショートカットをすれば良いのか震えてくる。
 今ので3,4階建ての建物くらいはあったんじゃないかと思うが、次の層はより合金製の棒の長さを延長することで増した高さに恐怖する。上下の層の固定する場が崩れたり、棒が体重を支え切れずに折れてしまったらそれまでだ。知り合いのピンチに駆けつけるつもりが、既にこちらが死にそうであるが、時間短縮のためとダンジョン内の地理が分かっていないのでこれしか方法が無い。

 その後、2回目のショートカットを行って、3層目に着いて周囲を見回すが、誰もいない。だが下の階層の穴から戦っているような音が聞こえ、4層目だと覚悟を決めてショートすカットを行うが、その途中で不運にも下の地面に固定した棒が滑って動き、左右に開いた棒の間から投げ出されるように1回目のショートカットと同じ程の高さから落ちてしまう。

「いッッッッッ」

 上がったステータスの体力のおかげか、3,4階建ての高さからの衝撃が経験のあった2階建てくらいまでに軽減されたが、それでも足の骨に響く衝撃の痛みで声も出ない。周囲を見渡す前に、近くの岩場の陰から自身を呼ぶ声がする

「サドゥさんこっちです!!」

 アレックスの声に慌てて岩場の陰に移動するが、どうやら動けるので足の骨は今ので折れていないと思う。岩場には、落下の衝撃で体の骨が折れた様子のパーティが数組とゲンガンに治療を行っている、回復役の魔法師のエレイシアを見つける。

「とりあえず、ワシは足を治してくれたらいい。兄さんも来てくれて助かるが、こいつら全員をどうにか穴から上に逃がせねぇか?」

「何とか考えてみます」

 とは言ったものの、意識の無いような怪我人を抱えて高さのある上の階層に移動は難しいと思う。自身が合金製の階段を作る時間がないし、その耐久性に自信がない。それに、サブダンジョンのコアの守護者である敵は、耐性の無い鉄を溶かす酸のブレスを吐くようだから、ゆっくり逃げる暇はないと思う。魔力の自然回復用の品をクノとエレイシアに渡しつつ、ずっと考えているが答えが出て来ない。

「僕たちの状況は…」

 アレックスからの情報共有では、彼らは突如空いたダンジョンの穴に落ちそうになった別のブロンズランクパーティを助けようとし、穴の端の地面が崩れて一緒に落ちることになり、落ちた3階層の地面の場所も悪かったらしく続けて4層まで落下することになったようだ。どうにかクノの咄嗟の防御魔法で大怪我には至らなかったらしいが、クノも慣れていない他のパーティには上手く魔法の効果が行き渡らず、ゲンガンも足と手に負傷があるらしい。
 今現在は、救助に来たゴールドランクとシルバーランクのパーティが後から上の階層への道を塞ぐように現れたコアとその守護者と戦っているようだ。その結果、シルバーランクパーティの大半はやられてしまい、どうにか1人をギルドに助けを呼ぶように逃がせたらしいが厳しい状況だ。こちらからも敵の情報を伝える。

「酸のブレスを吐く、水属性の上位種のスライムがドラゴンを模した下層の変異種とはな」

「あれでも核がいくらか破壊されて弱ってるんですか…」

 プラチナランクがパーティで対応するような下層の相手だから、弱っていてもゴールドランクとシルバーランクを1層のスライムとは逆の立場にしている。そんな相手に、アレックスも絶望したような表情になっており、獣人のパーティメンバーのタピーとルルも言葉を発せずにいる。実際、自身もワイバーン以上の圧力に汗が止まらない。

「それは、今戦っている奴らには教えるんじゃねーぞ。薄々気付いてるだろうが、心が折れちまう…。ゴールドランクの天空の大鷲とどうにか時間を稼ぐから、動けねぇ奴らを見捨てて逃げるか、どうにか全員が助かる方法を考えてくれ!!」

「そんな…。ゲンガンさんたちはどうするんですか?」

「ワシと奴らは仮にもゴールドランクのプライドがある。自分たちよりも若いのと低いランクに先に死なれちゃ我慢ならねぇんだよ」

「でも…」

「ダンジョン入り口前の戦いみたいな何かを期待してますぜ。……頼む」

 覚悟を決めたゲンガンの表情には無理ですよとは言えなかった。最後の言葉の際には、ゲンガンは既に獣化のスキルを使用して狼の顔になっていた。守護者のウォータースライムドラゴンに向かって走るゲンガンは、とても素早い動きだが長時間のスキル使用が難しいためどれだけ時間が稼げるか分からない。
 それに、ゴールドランクパーティの天空の大鷲は、既に度重なる酸のブレス攻撃と竜に違わない牙と尻尾や手足を振り回す攻撃を受け、死んではいないが戦力としては半壊している。

「クノさん、ゲンガンさんたちに防御魔法の援護は出来ないんですか?」

「私の防御魔法は魔力の膜の性質を掴んでいるパーティメンバーには効果があるのですが、この距離からだと効果も薄くあの速さで動いている対象には無理です」

 魔力の自然回復に努めていたクノに質問するが、クノの魔法はパーティメンバーへの防御と魔力抵抗力を上げるだけなら可能だが、ゲンガンさんたちゴールドの人には距離と対象が動き続けているため無理ですと言われてしまう。
 同じようならば、負傷者の治療に集中して無言のエレイシアの魔法も距離と効果から厳しいと思うし、負傷者が短時間で完治したとしても相手との絶対的な戦力差が埋まるわけではない。
 それに、自身の交換魔法のスキルでも、コアを破壊するような能力や強敵を倒せるものは無い。こうなったら助けられる人だけの命を優先して、他を見捨てるしかないのか…

「危ない!!」

 スキルの連続使用に限界が来ていたゲンガンは獣化を解除したが、敵の動きを捌ききれず右の手足に攻撃を受けてしまう。尻尾の一撃は容易くゲンガンの骨を折り、どうにか立ち上がろうとするが地面から動けずにいる。そこへ追撃の攻撃が入る。
 
 戦いを支えていたゲンガンが倒された後に、気が付けば敵と戦っていた人たちは誰も立っておらず、自身はこの場を何とかする考えを閃くことも出来ず、自分1人だけでも逃げることが出来ずにいた。今からだと逃げることすら難易度が上がっているが、どうにか自分だけでも穴から上の層に登る方法が考えるべきか。そう考えていると…

「に、げ…ろ」

 守護者のウォータースライムドラゴンは体の修復のためかコアが消費したエネルギーを補充するためか、装備ごと溶けて液体になったシルバーランクパーティだったものと全身の骨が砕けたようなゲンガンを、体に取り込むようにコアへ捧げるように運んでいる。

「くそっ」

 クノの防御魔法がどんなものか分からないが、自身の魔力の膜を転送の要領でゲンガンを覆うように試みるが、何の抵抗もなくコアに吸い込まれていった。
 こうやっていつも失ってみて初めて分かる。自分は自己中心的でドライな人間だと思い、他人のことを何とも思っていないはずだが、もう他人じゃ無かったんだな。どんなに願ってもゲンガンは返してもらえそうにないが、あのガラスの玉くらいは合金製バットで割ってやると決意する。そうしないとこの気持ちは治まる気がしない。1人でもやってやるぞと思っていると、ある提案をされる。



「みんな、僕に命を賭けてくれ」

「まさか勇者のスキルを…。アレックス様はスキルの実戦使用は無理だったのでは?」

 アレックスの発言に、それまで無言だったエレイシアが声を出す。彼からの意見では、目の前の守護者はその存在をサブダンジョンのコアで維持されていると思うから、今の戦力では守護者を倒せないならコアの破壊を目標とするらしい。

「でも、最下層のコアやダンジョンから生まれた魔物ならば、目の前のコアを破壊しても私たちは全滅ですよね?」

 それに、コアをどうやって破壊するんですか、とクノからの質問にアレックスは決意を固めた表情で、それも賭けだよと返答する。

「コアを破壊したら守護者が消えるのも賭けだし、コアの破壊すら僕のスキル頼みの賭けだ。それでも、僕はこの時のために勇者と告げられ、勇者としての力を与えられたんだ。今まではどこか勇者と言われても実感がなくて、実力が無い自分に自信なんて持てなかった。でも今日この時、僕は勇者になる!!」

 だから僕に命を賭けてくれ、と言われて先程までは喋る気力も無くなっていた獣人組のタピーとルルの目にも力が戻っている。これがカリスマと言うのか、勇者として人を導く者なのだろうか、勝手に商売のために勇者として仕立て上げようとした若者は立派にもう勇者だったのだろう。

「賭けは嫌いじゃないですし、あのガラス玉が割れるのならのりますよ」

 散々人生の勝負に負けて来たおっさんは、今回も負ける確率が高いとは思う。本当はギャンブルは嫌いで死にたくはないが、友人の弔いと復讐が出来るのなら低い確率の方法でも試してやる。普段の自身では考えられないが、戦闘続きのストレスにやられたか身も心も冒険者になったのか、それとも目の前の勇者に導かれたのかは分からない。

「私がスキルを使って魔力の高まりで敵を釣って、引きつけます。アレックスさんは目隠し用の合金製の壁に隠れながらコアに近づいてください」

 ようやく思いついた作戦を述べつつ、敵を観察する。守護者は、コアが取り込んだものの消化に時間がかかっているのか得たエネルギーに満足しているのか、倒れ伏す天空の大鷲を無視して動きを止めている。

「私の防御魔法は酸のブレス1発は耐えられると思いますが、その他の直接攻撃はどこまで軽減できるか分かりません」

「即死してなければ、何とか命を救います。皆さんご武運を」

「最後に甘い物頂戴よ」「私も」

「良いですけど、舐めるのはコアを破壊してからです。破壊出来たらおまけにもう1個アメをあげますよ」

 各自準備をしながらもタタールの街出身の獣人たちには、共通の話題となる菓子屋の時の話をする。不思議と緊張や不安を感じることなく、これが勇者のパーティかというような高揚感を客観的に分析する余裕があった。

「行くよ!!」

 一番防御力の高い壁役のタピーを先頭に、左側をルルと自分で固め、作戦の鍵となるアレックスを右側後方に位置するよう陣形を取る。そうして、守護者の右側を抜けるような進路を走り出す。

「壁を出します」

「「「了解」」」

 ブレスの攻撃範囲に近づいた頃、今まで警戒されないように控えていた合金製の目くらましの壁を、進路上のあちこちに電話ボックスが生えるように転送していく。見掛け倒しの薄い箱を高くした壁で、相手の感覚器官に目は無いだろうし、気休めにしか過ぎない。
 本命の魔力の高まりに釣られるのを期待し、次の弾を装填する。瞬間、全身総合金製の鎧を着こみ、出来るだけ進路への意識を遠ざけようと竜を模したスライムに向かって大楯を構えて突貫する。
 タックルする時の姿勢は低い方が良いと、総合格闘技の番組で知ったことが頭にあったから初撃の尻尾はたまたま頭上を空振りしたが、次の攻撃は直撃してしまった。



「スズキさん!!」

 クノの呼びかける声に、どうにか動いた右腕を上げて答える。痛みか衝撃のあまり一瞬意識が無くなっていたようで、気が付いたら岩に突っ込んでいて左半身の感覚が無くなっている。意識があるなら、まだ援護が出来ると状況を見ると、同じように尻尾を振られるルルが見え、上の層に逃げる時のために用意していた立方体の合金の塊を間に出す。
 おそらく自分と同じように吹き飛ぶルルを見て、攻撃を軽減出来たか分からないが、生きていて欲しいと願う。2人で稼いだ距離は数メートルにも満たず、まだコアまで20メートル以上はある。最初に自身への攻撃を優先したように、もし相手が魔力を感知するのなら、こっちにも考えがある。

「サドゥさんの援護か!!」

 突然コアの後ろに現れた全身鎧に、魔力を感じた守護者は振り返って対応しようとする。尻尾で払うが手応えの無さに何とも感じていないが、空っぽの鎧でも嫌がらせになるだろう。さらに食らえと、コアの上に立方体の合金の塊を出し、こんな攻撃では傷つかないコアでも本能的に守ろうとする隙をついて時間を稼ぐ。鎧と立方体の塊にも限りがあるが、その時は棒でも槍でも壺でもアメだろうが、コアの上から振らせてやる。

「の、うなし、やろうが」

 考えて学習する能力が無いのだろう、コアの至近距離に現れる魔力を帯びた物への対応を優先する姿に思う、脳みその無い奴なんかには負けないんだよ。
 そうして、コアまで残り5メートル程の距離に2人が近づくと、流石に奴の攻撃速度への対応が追い付かない。それでも壁役のタピーが盾と全身を使って酸のブレスを受け止め、勇者への道を拓く。ゴルド作の合金製の剣を右肩に担ぐように持っていたアレックスは、込めていた魔力とスキルの力を解放する。



「聖剣降臨」

 物語の勇者が振るような本物の聖剣ではない、偽物としては圧倒的に質が劣る合金製の剣でもその瞬間はまことに聖剣だった。アレックスの纏う純白の魔力の膜と呼応して、剣先からは小剣程の長さの光の奔流が見える。
 アレックスを薙ぎ払おうと振られた守護者の尾ごと、聖剣の放つ光はコアに向かって通り過ぎる。

「ぐっ、…やった、のか」

 スキルの反動か力を使い果たしたのか、剣を振るってそのまま倒れているアレックスを見ながらコアの様子を窺う。すると先程まで光を放っていたコアが点滅するように光を放ち、その点滅の間隔が短くなると…

「砕けた、のか」

 ガラスが割れるような音と共に、細かい破片となってコアの球体は砕け散り、その破片はダンジョンの地面に吸い込まれるように消えていった。時を同じくして、サブダンジョンのコアによって存在が維持されていたらしい、守護者のウォータースライムドラゴンも尾の先端が切られたままの姿で消えていく。
 安堵の息を吐きながら周囲を見ると、ゴールドランクパーティも何とか五体満足とは言えないが生きてはいる。シルバーランクのパーティとゲンガンだけいなくなっていて、喜べない勝利だ。返せよ。





 その後、シルバーランクの生き残りが連れて来てくれた救援部隊に守られながら、ギルドへの凱旋を行う。勇者とその一行のお通りだと、光風の騎士団へ手柄を自慢しようと思っていたら彼らは既に去っていたようだ。

「自分たちの力が必要ないなら次の任務が待っている、ってよ。最後まで冒険者らしくない奴らだった…」

「王都のお高く止まった騎士団そのままの奴らだな」

「冒険者の打ち上げの宴にも参加しやがらねぇ」

 ゼーエフの言葉に、周囲にいた大して面識もない冒険者たちも同じような意見を言ってくれている。彼らは最後まで最大の効率だけを求めて、あまり人間らしさを感じることもなかった。

「今回生き残った奴らは、功績が足りてる奴はアタシの権限でランクアップさせてやるよ」

 突如現れた冒険者ギルド長からの宣言に、ギルドの職員たちはそんなこと約束して大丈夫なのかと不安そうな表情をしている。だが、ギルドに集まった戦いを生き残った連中は、みんな口々に歓声や口笛を吹いて騒いでいる。まるで、ここにはいない人たちの分まで代わりに騒ぐように、どこか空元気な所があるがこれが冒険者だ。お偉い騎士様には分からないよな、と冒険者体験コースの人間が勝手に冒険者を理解したつもりになっているが、すっかり勇者パーティの一員にでもなったつもりだった。
 さらに、サブダンジョンのコアを破壊した勇者のパーティはギルドからプレゼントがあると伝えられ、周囲からは有用なスキルを与えられるか高級な装備かと騒がれている。僕は…と遠慮しそうなアレックスに、もらえる物は病気以外は基本的にもらった方が良いと諭す。そうしていたら、追加で驚きのランクアップも伝えられる。

「それとブロンズランクのサドゥ、前線と後方部隊を支えたことでランクアップだ。具体的には、街中の物資配置を効率的に行い、魔法師部隊の魔力回復を補助し、敵の騎乗兵の突撃を阻止してゴブリンの部隊の攪乱に努めた。さらに、ダンジョンに冒険者の救援に向かって勇者のパーティがコアを破壊するのを支援したから、個人で言ったら勇者クンと同等かもな。他にも褒美はやるよ」

「え、でも、私はつい最近ブロンズにランクアップして功績点が溜まってませんよ」

「今回ので溜まったことにするし、ビキン冒険者ギルド長であるアタシの推薦とプラチナランクだけじゃない、他の冒険者からの推薦もあるんだよ」

 望まない昇進が自身の方に来ると途端に拒否したくなり、功績なら他にも光風の騎士団や兵士団がと伝えるが、あいつらは管轄が違うし光風の騎士団は帰ったからほっときゃいいと言われてしまう。さっきは悩んでいたアレックスから、嬉しそうにまた同じランクですねと言われると複雑だ。そこにギルド長と一緒に推薦をしてくれるらしいゴールドランクパーティの天空の大鷲のメンバーが治療を終えてこの場に現れる。

「推薦は俺らの最後の戦いだから華を持たせてくれ」

「あんまり役には立たなかったが、その代わりに何かしたいんだ」

「俺たちは道を譲る後輩を見つけられたことが嬉しいんだ」

 あのコアを守る守護者のウォータースライムドラゴンとの戦いの場にいた人たちに、言わば戦友にそこまで言われてしまったら断る方が失礼になってしまうと最終的に頷くことしか出来なった。
 どうやら傷の深い残りのメンバーは、先に収容されていた他の兵士や冒険者と一緒に創造神の宗派の教会で、回復役の魔法師から集中的に治療を受けることになるらしい。褒章の話から、どうしてもあの戦いの話題になると、ここにはいない人の話題も出て来る。

「それにしてもゲンガンも逝ったのか…。俺とゲンガンは同期でな、お互いに18年前のダンジョンの大波を経験して同じようにパーティメンバーを失った。メンバーの分も成功してやると思っていたが、プラチナランクにはなれないことを知って俺は引退したが、あいつはまだ冒険者を続けていた」

 ゼーエフからは、ダンジョンの大波を経験してから冒険者として成功したい気持ちもあったが、上のランクを目指してダンジョンに潜るのは、あの日に会った下層の竜をこの手で仕留めて復讐したいのか気持ちの整理を付けたかったのかは分らんが、お互いに似た心境だったと思う、と説明される。

「懐かしいなー、アタシもその頃から変わらずプラチナだったよ」

 しんみりした空気を読まずに、冒険者ギルドの長に話を切られる。彼女の外見上は20代半ばくらいにしか見えないが、外見を誤魔化す方法か若返りや寿命を克服する魔法を修めているのかと思う。彼女のじゃあまた後日、詳細はそれぞれに伝えるから話は終わりとその場を移動魔法で去る姿に頭を切り替える。

「飲みましょう!!」

 おう、とその場にいた冒険者全員に返事を返される。いつもなら対面に座るゲンガンはいないが、そんなこと記憶を無くすまで飲めば関係ない。周囲の冒険者たちもそんな気持ちが多いのか、不幸の配達屋と声を掛けられ、あの不味いが強い酒は用意出来るかと聞かれる。

「もちろん、全員に壺1個はありませんが、ジョッキに半分は用意できますよ」

 自身の調子に乗った発言が、変な通り名にまで発展しているが今日ばかりは気にしない。交換魔法のスキルを使用しながら甲類焼酎を量産出来るが、慣れていない人は飲み過ぎは危険だからこっちで制限させてもらう。
 そんな宴の始まるギルドの酒場に鍛冶屋のゴルドも合流して、周囲の武勇伝を聞いている。ゴルドは自身の店の守りを固めていたのか聞いてみると…

「下っ端の兵士共が止めて、ダンジョンから出て来る魔物と戦えなくてよぉ。代わりに逃げ出した奴の店を潰してやったのよ」

 立派な犯罪だが成金御用達の店屋なら同じように逃げようとした身ではあるが、個人的恨みからか気分がスッキリする。そんなゴルドに手を貸す人多くもいたらしく、魔物に壊されたと付き合いのある兵士に処理してもらうらしい。頼もしい人な反面、敵に回すと怖いなと思ってしまうが、壺ごと甲類焼酎を飲む豪快さは真似できないが見ていて気持ちがいい。なんとかダンジョンの波は終わったけど、3人で飲みたかったな…



「おう兄さん、ワシの分の酒もあるかい?」
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 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

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