迷宮大学特待科25期生

姉月のゆき

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一年生の章

クエストデビュー

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「帰還しましょう」

  魔石の回収を終えた俺は二人に声をかけた。

「もう帰るの?」

  クリスが驚いた表情で声をあげた。その後ろではエミリが氷の塊を杖先に出し、まだ撃ち足りないというアピールをしている。

「ここは一星の迷宮で、入り口からオークがでるような迷宮じゃないんです。たぶん、迷宮が大きく成長しています」
「私に任せればオークくらい平気よ?」

  クリスは槍を手に小さく胸を張った。確かにクリスとエミリにかかればオークも瞬殺だった。この二人は強い。

「でも、ここは無理せず帰還すべきだと思います。今回はオークより強い魔物と戦う用意をしてません」
「そう。ライアンの判断に任せるわ」

  クリスがあっさりそう言うと、渋々といった感じでエミリも頷いた。
  奥にいるはずのオークが入り口付近まで出てくるということは、奥にはもっと強い魔物がいる可能性が高い。エミリには申し訳ないが、今回はここで帰還だ。

  こうして俺たちの初めての迷宮探索が終わった……はずだった。

ーーーー


「入り口にオークがいたのかい?」

  兄さんが驚いた表情で俺に確認した。迷宮探索を終えた俺たちは、魔石の換金を兼ねて冒険者ギルドに報告に来ていた。

「ええ、入り口付近でペリートと戦ったあと出てきました」
「ふむ。あの迷宮も魔力が濃くなっているのかな」

  そう言って兄さんは「『オークとペリートの巣』を暫定で四星クアッドの迷宮に格上げ」と他のギルド職員に指示を飛ばす。

「それでどこまで探索したんだい?」
「入り口付近だけです。オークと戦ってすぐに引き返しました」
「いい判断だ。迷宮で長生きする秘訣は、退き際を間違えないことだよ」

  兄さんはそう言って俺の頭を撫でた。正直、もう少し探索すべきだったか悩んでいたので、兄さんにそう言ってもらえるとホッとする。

「それと魔石の換金だったね。オークとペリートの魔石全部で700ミラだ」
「わかりました。全部換金してください」

  明かりの腕輪二つや消耗品の分を差し引くと赤字になるが、最初は仕方ない。まずは迷宮に慣れることが重要だ。

「おい姉ちゃん、オークとペリートで700ミラだってよ。こっちももう少し良い値段つけてくれ」

  俺と兄さんのやりとりが聞こえたのか、横のカウンターで強面の男がギルド職員に詰め寄った。

「えっと、ですから魔石に大きな傷が付いていまして、いくらソードベアーの魔石でもこれ以上の金額はちょっと……」
「だからってオークやペリートより安いんじゃ子供を食わせられねぇ」

  男が手にする魔石はかなりの大きさだが、取り出すときにナイフで傷付けたのか表面が大きく抉られていた。

「うぅ、そんなこと言われても……ノトスさんも見てないで助けてくださいよぉ」

  対応しているギルド職員の女性が泣きそうな顔で兄さんに助けを求めると、兄さんはやれやれと首を振って男に声をかけた。

「ギルバート、その魔石は大きいけど傷だらけで使い道がないんだよ。この子が取ってきたオークの魔石は、綺麗に取り出されてて傷一つないだろ?」

  兄さんは男にギルバートと声をかけると、俺が取ってきたオークの魔石を見せた。

「確かに綺麗な状態だな。だが、どこに魔石があるかわからないのに、傷を付けず取りだすなんて難しすぎじゃねぇか?」

  兄さんはギルバートの言葉に、またやれやれと首を振った。

「ギルバート。君、学校の授業を真面目に受けていないだろ」

  兄さんの言葉にギルバートはビクッと体を強張らせた。ちなみに俺の後ろでクリスも同じようにしているが今回はスルーしておこう。

「ライアン、魔石の剥ぎ取りの授業はもうやったよね?」

  兄さんの言葉に俺は頷く。魔石の剥ぎ取りは基礎だから入学してすぐに授業があった。

「お、俺のクラスはまだ剥ぎ取りの授業をやってないんだ」

  ギルバートはしどろもどろになりながらも答えるが、そんなギルバートの答えに兄さんは肩をすくめてとどめをさした。

「ここにいるライアンも君と同じ特待生。つまりは同じ授業を受けているはずだよ」
「ええっ!?」

  兄さんの言葉にギルバートと俺は驚いて顔を見合わせる。ギルバートのことは入学してから一度も見たことがない。

「その様子だと授業に全く顔を出してないようだね」
「……生活費を稼がなきゃならねぇからな」

  ギルバートはバツが悪そうな顔でそう言った。さっきも子供がどうこうって言ってたけど、結構切迫しているのだろうか。兄さんはそんなギルバートと俺たちを見比べ何やら思案するとこう言った。

「まぁ丁度いいのかな。君たちクエストを頼まれてくれないかい?」
「「はぁ?」」

  兄さんの突然の提案に、俺とギルバートだけでなく、黙って成り行きを見ていたクリスも思わず声をあげた。ちなみにエミリは先ほどまでギルバートの対応をしていた女性職員から飴をもらって談笑している。

「ライアンたちが成長を確認した迷宮に調査隊を出すから、それまで入り口で見張りをしてて欲しいんだ。明日の朝には編成出来るだろうから一晩ほどかな」
「わざわざ見張りなんざいらねぇだろ。危険な魔物がいるなら、俺が退治してくるぜ?」

  兄さんの説明に威勢よくギルバートが声をあげたが、兄さんは大きくため息をついて俺を見た。

「ライアンはこの見張りの目的がわかるかい?」
「えっと、情報を持ってない冒険者、特に初心者の冒険者が迷宮に入るのを止めるためですかね」
「ちゃんと授業に出ている子は優秀で助かるよ」

  兄さんはそう言って俺の頭を撫でた。つまり迷宮の中に対する見張りではなく、外に対する見張りだ。オークとペリートの迷宮は特に初心者向けだから注意しなければならない。

「なんだ。ただの門番を一晩やれってことかよ」

  ギルバートは不満そうに口を尖らせる。

「嫌ならライアンたちだけに頼むけど、稼ぎがいるんじゃないのかい?」
「ちっ。わかった、やるよ」

  ギルバートは不承不承の様子ながらも承知した。その様子を見て、俺もクリスとエミリに声をかけた。

「クリスとエミリはどうしますか?  戻ってきたばかりですし、二人は無理せず休んでもいいと思いますが」
「ライアンだけじゃ不安だしついて行くわ」

  クリスが即答した。エミリは話を聞いていなかったのだろう、頭に疑問符が浮かんで見える。集中力が切れてるみたいだし今日は帰って休んでもらおう。

「えっと、今回はエミリは留守番で。換金したお金を持って帰ってください」
「おっ、なら丁度いい。お嬢ちゃん『ローラの薬屋』にも寄って、ギルバートは仕事で帰りは明日の朝になると伝えてくれや」

  ギルバートに声をかけられエミリはビクリと体を強張らせたが、二度ほど小さく頷いた。

「薬屋がご自宅なんですか?」
「ああ、嫁がやってる店だ」

  そう言って強面を赤く染めたギルバートは全く可愛くなかった。

「それじゃ話がまとまったようだし、用意ができたら出発して。ちゃんと休憩できるように、あとからもうひと組向かわせる。食事の心配とかはしなくていいよ」

  兄さんにそう言われて俺たちは再び迷宮へと向かった。
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