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第30章『満たされない感情』
第178話
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《実はもうサンプルも作ってあって…これなんですけど》
見せてくれたのは、雫の形をしているキーホルダー。
中に猫さんと三日月が浮かんでいて、綺麗な瑠璃色の空が表現されている。
「とても綺麗ですね。吸いこまれそうなくらい…」
《ありがとうございます!あの、もしよかったらそれもらってください》
「私でいいんですか?」
《なんとなくだけど、お姉さんなら大切にしてくれそうな気がして…迷惑ですか?》
「いえ、そのようなことは…。ありがたくいただきます」
少女はにっこり微笑んでいたけど、次の言葉に驚くことになる。
《私の夢、叶わないんですよね?》
「え…?」
《モモに足をバッドで殴られて、有ちゃんを逃した。警察を呼んできてくれたけど多分間に合ってない…。
ずっと疑問だったんです。こんなに親切な列車なんてはしってたかなって。…私、死んじゃったんだ》
目を潤ませて、ハンカチで涙を拭う少女にどう声をかければいいのか分からない。
《…もし叶うなら、これを有ちゃんに渡してもらえませんか?できあがったら渡す約束をしていたんです》
ふりふりのワンピースがクラシック調に仕上げられていて、お店で買ったものだと言われても分からないくらい丁寧に作られている。
「…分かりました。それと、手紙を書きませんか?必ずお届けしますので」
《手紙…そうですね、書きたいです。どんな状況なのか知りたいし》
ペンを持ったところで少女はどんどん青ざめていく。
《そういえば、モモ…あいつも一緒に落ちましたけど、この列車にいるんですか?》
「申し訳ありません。そこまでは分かりかねます」
《そう、ですか》
手紙を書いている少女に待っているように伝えて、食堂車へ向かう。
ミルクレープを受け取った直後、鋭い何かが喉元にあてられた。
「……」
出血していてだんだん痛みが増すけど、動けない。
《ねえ、ねえねえ?あの女を出しなさいよ!じゃないと、駅員さん死んじゃうよ…?》
氷雨君が見せてくれた資料に載っていた顔が、私の隣にある。
おそれていたことがおきてしまった。
「今夜、この列車には殺人犯と被害者が別々の車両に乗る」
「そんな…」
「鉢合わせたらどうなるか分からない。俺は殺人犯のところへ向かうから、君には被害者の心のケアをお願いしたいんだ」
「分かった。…できることをやってみる」
「あのタイプは逆上したらどうなるか分からないから気をつけておく。他のみんなにも通達済みだから」
《モモは本気だからね?ひとりもふたりも同じこと!》
高笑いする少女は狂っている。
そんな理屈がまかり通るはずがない。
だけど、理屈や道理が通じるならこんなことにはなっていないはずだ。
《怖いでしょ?泣き叫んでよ》
首に食いこむナイフに恐怖を感じるのが正常な感情だろう。
たけど、私は何も感じなかった。
「……寂しさを人に押しつけるのはよくないと思います。それに、私を殺してもあなたは満たされない」
《な、なんですって?》
見せてくれたのは、雫の形をしているキーホルダー。
中に猫さんと三日月が浮かんでいて、綺麗な瑠璃色の空が表現されている。
「とても綺麗ですね。吸いこまれそうなくらい…」
《ありがとうございます!あの、もしよかったらそれもらってください》
「私でいいんですか?」
《なんとなくだけど、お姉さんなら大切にしてくれそうな気がして…迷惑ですか?》
「いえ、そのようなことは…。ありがたくいただきます」
少女はにっこり微笑んでいたけど、次の言葉に驚くことになる。
《私の夢、叶わないんですよね?》
「え…?」
《モモに足をバッドで殴られて、有ちゃんを逃した。警察を呼んできてくれたけど多分間に合ってない…。
ずっと疑問だったんです。こんなに親切な列車なんてはしってたかなって。…私、死んじゃったんだ》
目を潤ませて、ハンカチで涙を拭う少女にどう声をかければいいのか分からない。
《…もし叶うなら、これを有ちゃんに渡してもらえませんか?できあがったら渡す約束をしていたんです》
ふりふりのワンピースがクラシック調に仕上げられていて、お店で買ったものだと言われても分からないくらい丁寧に作られている。
「…分かりました。それと、手紙を書きませんか?必ずお届けしますので」
《手紙…そうですね、書きたいです。どんな状況なのか知りたいし》
ペンを持ったところで少女はどんどん青ざめていく。
《そういえば、モモ…あいつも一緒に落ちましたけど、この列車にいるんですか?》
「申し訳ありません。そこまでは分かりかねます」
《そう、ですか》
手紙を書いている少女に待っているように伝えて、食堂車へ向かう。
ミルクレープを受け取った直後、鋭い何かが喉元にあてられた。
「……」
出血していてだんだん痛みが増すけど、動けない。
《ねえ、ねえねえ?あの女を出しなさいよ!じゃないと、駅員さん死んじゃうよ…?》
氷雨君が見せてくれた資料に載っていた顔が、私の隣にある。
おそれていたことがおきてしまった。
「今夜、この列車には殺人犯と被害者が別々の車両に乗る」
「そんな…」
「鉢合わせたらどうなるか分からない。俺は殺人犯のところへ向かうから、君には被害者の心のケアをお願いしたいんだ」
「分かった。…できることをやってみる」
「あのタイプは逆上したらどうなるか分からないから気をつけておく。他のみんなにも通達済みだから」
《モモは本気だからね?ひとりもふたりも同じこと!》
高笑いする少女は狂っている。
そんな理屈がまかり通るはずがない。
だけど、理屈や道理が通じるならこんなことにはなっていないはずだ。
《怖いでしょ?泣き叫んでよ》
首に食いこむナイフに恐怖を感じるのが正常な感情だろう。
たけど、私は何も感じなかった。
「……寂しさを人に押しつけるのはよくないと思います。それに、私を殺してもあなたは満たされない」
《な、なんですって?》
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