皓皓、天翔ける

黒蝶

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第28章『泥水に咲く花』

第165話

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「沢山苦しい思いをしてきたんですね。…私では想像できないほどの」
《もう分からない。そうだったのかもしれないけど、いつからか感覚がなくなって…。
でも、あなたは私にそんな優しい言葉をかけてくれるんですね。こういう死に方をすると、世界から叩かれることが多いのに》
生きることが善で、死ぬことが悪。
たしかに、今の世界にはそういう風潮がある。
だけど、私はそうは思わない。…思えない、という方が正確だろうか。
「あなたの苦しみに、私を含めて世界の誰も気づけなかった。それなのに、あなたを責めるのは間違ってると思うんです。
あくまで私の主観ですし、今更こんなことをしても間に合わないことは分かっているつもりですが…もっとあなたの心に寄り添ってもいいですか?」
誰にも言えない苦しみを抱えて、ずっと独りで戦ってきたことは分かる。
だから、これは私の勝手だ。
真っ暗になってしまった心に、少しでも光を灯せたら…なんて考えてしまった。
何ができるか分からないけど、とにかく最後くらい楽しく過ごしてほしい。
《…こんなに温かくなったの、久しぶりかもしれません》
「え?」
《人のぬくもりなんてそんなに感じたことがなくて…いつも否定されて、最後は踏みにじられてた。
それなのに、あなたは初対面の私と向き合おうとしてくれてる…。それだけですごくありがたいんです》
少女はほっとした様子でそう告げる。
無理をしている様子はなさそうなので、引き続き話を聞かせてもらうことにした。
《私が話していた男の子は3つ年下で、学校も違うんです。それでも、話しかけてくれたときは嬉しかった…。
向こうは向こうでご両親が共働きで、だから毎日屋上からの景色を見つめることが楽しみだなんていう大人な子だったんです》
もしかすると、お互いにとって支えになる存在だったのかもしれない。
ふたりきりの世界が1番心救われるなんて、どれだけ苦しかったんだろう。
《お菓子を交換する程度の仲だったけど、私は彼が大好きでした。ただ優しいからというわけではなくて、一緒にいて傷つかなかったから。
あと、彼は私を見ても馬鹿にしなかった。言葉ひとつひとつが温かくて、ここならいてもいいのかもしれないって思ったんです》
少女にとって、唯一自分が自分でいられる場所だった。
ある日突然それが崩れたら、絶望の底に沈んでしまうだろう。
今回の場合は手紙を書くことを提案すると、寧ろ少女を追いつめる結果になりかねない。
「あ、あの…もしよろしければ、絵を1枚描いていただけませんか?」
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