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第28章『泥水に咲く花』
第162話
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少女の瞳には光が宿って、はっとしたようにこちらを見つめる。
だけど、何となくいつものお客様より元気がないように見えた。
《ごめんなさい。なんでもなくて…》
「お席にご案内します。た、立てますか?」
《ありかとうございます》
少女が着ているものはかなりぼろぼろで、頬から血が流れている。
「すぐ着替えをお持ちします。こちらにカタログがありますので、お好きなものをお選びください」
《でも私、お金持ってないです》
「こちらは無償となっておりますので、その…遠慮なくお選びください」
緊張して不自然な話し方になってしまったけど、相手のほっとした表情を見て私まで安心してしまう。
ひとまず止血させてもらって、なんとか手当てできた。
「い、いかがでしょうか…?」
《この洋服、素敵ですね。私なんかが着てしまってよかったのか迷うくらい…》
「喜んでいただけたようでなによりです。何かお召し上がりになりませんか?」
《なんだか少し寒いので、なんでもいいから温買い物をお願いします》
「かしこまりました」
飲み物は想い出の味を再現できるシェイカーを使えばなんとかなるけど、食べ物はどうしよう。
「アレルギーや苦手なものはありませんか?」
《大丈夫です》
シェフに相談してみようと思ったけど、飲み物を用意したところで腕を掴まれた。
《…あの》
「な、何かありましたか?」
《どうして白桃のお茶にしたんですか?》
「申し訳ありません。お気に召しませんでしたか…?」
《…私が大好きな飲み物、だったはずなんです。今はあんまり分からないけど、昔は風味が好きだった気がします》
「そう、なんですね」
食へのこだわりがないのかなと思ったけど、もしかすると少女は何を食べても味を感じないのかもしれない。
…なんとなく今の私に似ている。
ストレスやショックが原因だろうと言われたけど、こればっかりは確実に治療できる方法があるわけじゃないからどうしようもない。
「何か食べるものをお持ちします。それまでこちらを持ってお待ちください」
少女は小さく頷いて、渡した本を持ったまま俯いてしまった。
クラシックコーデ、というものだろうか。
ゆるふわのワンピースが可愛らしくて、もしかすると可愛いメニューがいいかもしれないと思った。
それに、見た目で楽しめるものなら味がしなくても笑ってくれるかもしれない。
「お、おまたせしました…」
少女はぐっすり寝ていて、なんとなく起こしたらいけない気がする。
ブランケットをかけてしばらく待っていると、なんだかうなされているみたいだった。
《ごめんなさい。もうやめて…》
少女の瞳から涙が零れ落ちる。
一体何があったんだろう。
…死んでしまった理由と関係があるんだろうか。
だけど、何となくいつものお客様より元気がないように見えた。
《ごめんなさい。なんでもなくて…》
「お席にご案内します。た、立てますか?」
《ありかとうございます》
少女が着ているものはかなりぼろぼろで、頬から血が流れている。
「すぐ着替えをお持ちします。こちらにカタログがありますので、お好きなものをお選びください」
《でも私、お金持ってないです》
「こちらは無償となっておりますので、その…遠慮なくお選びください」
緊張して不自然な話し方になってしまったけど、相手のほっとした表情を見て私まで安心してしまう。
ひとまず止血させてもらって、なんとか手当てできた。
「い、いかがでしょうか…?」
《この洋服、素敵ですね。私なんかが着てしまってよかったのか迷うくらい…》
「喜んでいただけたようでなによりです。何かお召し上がりになりませんか?」
《なんだか少し寒いので、なんでもいいから温買い物をお願いします》
「かしこまりました」
飲み物は想い出の味を再現できるシェイカーを使えばなんとかなるけど、食べ物はどうしよう。
「アレルギーや苦手なものはありませんか?」
《大丈夫です》
シェフに相談してみようと思ったけど、飲み物を用意したところで腕を掴まれた。
《…あの》
「な、何かありましたか?」
《どうして白桃のお茶にしたんですか?》
「申し訳ありません。お気に召しませんでしたか…?」
《…私が大好きな飲み物、だったはずなんです。今はあんまり分からないけど、昔は風味が好きだった気がします》
「そう、なんですね」
食へのこだわりがないのかなと思ったけど、もしかすると少女は何を食べても味を感じないのかもしれない。
…なんとなく今の私に似ている。
ストレスやショックが原因だろうと言われたけど、こればっかりは確実に治療できる方法があるわけじゃないからどうしようもない。
「何か食べるものをお持ちします。それまでこちらを持ってお待ちください」
少女は小さく頷いて、渡した本を持ったまま俯いてしまった。
クラシックコーデ、というものだろうか。
ゆるふわのワンピースが可愛らしくて、もしかすると可愛いメニューがいいかもしれないと思った。
それに、見た目で楽しめるものなら味がしなくても笑ってくれるかもしれない。
「お、おまたせしました…」
少女はぐっすり寝ていて、なんとなく起こしたらいけない気がする。
ブランケットをかけてしばらく待っていると、なんだかうなされているみたいだった。
《ごめんなさい。もうやめて…》
少女の瞳から涙が零れ落ちる。
一体何があったんだろう。
…死んでしまった理由と関係があるんだろうか。
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