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第26章『届かなかった歌を君に』
第151話
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「あ、あの…」
《……》
「お客様、どうされましたか?」
《……》
少女は真っ直ぐこちらを見ていているけれど、なんだか少し困っているように見える。
考えた末、持っていたメモ帳に言葉を綴る。
「【何かお困りですか?】」
《……!》
少女は申し訳なさそうに頭を下げて、きょろきょろ周りを見ている。
「【もしよければ、これを使ってください】」
メモ帳を渡すと、少女は首を横にふった。
《荷物を置いてきてしまって、元の席に戻れなくなって…すみません》
「【大丈夫です。一緒に来ていただけますか?】」
少女は頷いて、一緒についてきてくれた。
しばらく歩いていると、ぼろぼろの鞄が置かれたままになっている席を見つける。
「【こちらですか?】」
《そうです。すみません、難聴で聞こえたり聞こえなかったりで…》
「【このままメモでやりとりしても大丈夫でしょうか?】」
《お願いします》
左耳についている補聴器が印象的だった。
おしゃれな補聴器が出ているというのは、おばさんがいる施設にいる人たちを見て知っている。
《飲み物ってありますか?》
「【メニューをお持ちします】」
《ありがとうございます。…お姉さんは優しいんですね》
「【私は私にできることをやっているだけです。少々お待ちください】」
きっと差別的な扱いを受けることもあったんだろう。
人に嫌なことを言われて嫌な思いをする気持ちはよく分かる。
「氷雨君」
「どうかした?」
「飲み物のメニュー表ってないかな?ワゴンを確認したんだけど、入ってなくて…」
「そういえば、数が足りてないって報告が入ってた。すぐに持っていくからお客様と話してて」
「分かった」
急いで席に戻ると、少女が何やら小さい声でぼそぼそ呟いている。
《空へ…いや、空に?》
声をかけていいのか分からなくて、少し離れた場所で立ち止まってしまった。
少女はふと顔をあげて、私に気づく。
《ごめんなさい。気づいていなくて…》
「【大丈夫です。メニューはもう少しで到着します】」
《ありがとうございます》
「【何かお召しあがりになりませんか?】」
《食べ物もあるんですね!》
「【基本的にはなんでもご用意できます】」
《それなら、クレープが食べてみたいです。お店に並ぶ勇気が出なくて1度も食べたことがないので…。ありますか?》
「【すぐにご用意させていただきます】」
氷雨君が来たのを確認して、料理の注文をお願いしてから飲み物のメニューを受け取った。
それを見た少女は即答する。
《紅茶がいいです。冷たいやつならクレープに合いそうだし…》
すぐに淹れたグラスを手渡した。
「【お召しあがりください】」
《……》
「お客様、どうされましたか?」
《……》
少女は真っ直ぐこちらを見ていているけれど、なんだか少し困っているように見える。
考えた末、持っていたメモ帳に言葉を綴る。
「【何かお困りですか?】」
《……!》
少女は申し訳なさそうに頭を下げて、きょろきょろ周りを見ている。
「【もしよければ、これを使ってください】」
メモ帳を渡すと、少女は首を横にふった。
《荷物を置いてきてしまって、元の席に戻れなくなって…すみません》
「【大丈夫です。一緒に来ていただけますか?】」
少女は頷いて、一緒についてきてくれた。
しばらく歩いていると、ぼろぼろの鞄が置かれたままになっている席を見つける。
「【こちらですか?】」
《そうです。すみません、難聴で聞こえたり聞こえなかったりで…》
「【このままメモでやりとりしても大丈夫でしょうか?】」
《お願いします》
左耳についている補聴器が印象的だった。
おしゃれな補聴器が出ているというのは、おばさんがいる施設にいる人たちを見て知っている。
《飲み物ってありますか?》
「【メニューをお持ちします】」
《ありがとうございます。…お姉さんは優しいんですね》
「【私は私にできることをやっているだけです。少々お待ちください】」
きっと差別的な扱いを受けることもあったんだろう。
人に嫌なことを言われて嫌な思いをする気持ちはよく分かる。
「氷雨君」
「どうかした?」
「飲み物のメニュー表ってないかな?ワゴンを確認したんだけど、入ってなくて…」
「そういえば、数が足りてないって報告が入ってた。すぐに持っていくからお客様と話してて」
「分かった」
急いで席に戻ると、少女が何やら小さい声でぼそぼそ呟いている。
《空へ…いや、空に?》
声をかけていいのか分からなくて、少し離れた場所で立ち止まってしまった。
少女はふと顔をあげて、私に気づく。
《ごめんなさい。気づいていなくて…》
「【大丈夫です。メニューはもう少しで到着します】」
《ありがとうございます》
「【何かお召しあがりになりませんか?】」
《食べ物もあるんですね!》
「【基本的にはなんでもご用意できます】」
《それなら、クレープが食べてみたいです。お店に並ぶ勇気が出なくて1度も食べたことがないので…。ありますか?》
「【すぐにご用意させていただきます】」
氷雨君が来たのを確認して、料理の注文をお願いしてから飲み物のメニューを受け取った。
それを見た少女は即答する。
《紅茶がいいです。冷たいやつならクレープに合いそうだし…》
すぐに淹れたグラスを手渡した。
「【お召しあがりください】」
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