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第19章『秘密』
第105話
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「お客様、失礼いたします」
《…今度は何?》
氷雨君から出された条件は、はじめに彼が入ってお客様と話すこと。
相手から見えない位置でじっと様子を窺っていると、女性はふっと笑った。
《あなたもあの暗号の答えを聞きに来たの?》
「何の話でしょうか?」
《あたしの頭を殴ったの、あんたなの?だからあたし、死んだんでしょ?》
やっぱりこの人は自分が亡くなっていることを自覚している。
そろそろ話しかけに行こうか迷ったけど、氷雨君がお客様に詰め寄った。
「私があなたを殺した犯人だったとしたら、こんな近くにいるはずないでしょう?」
《…そっか。やっぱ死んじゃったんだ。謎を解いたばっかりに殺されたんだ。
…ねえ。さっきあなたと似たような格好の子がここに来たんだけど、呼んでくれる?》
「かしこまりました」
その発言を聞いて、すぐ席に駆け寄った。
「あ、あの…」
やっぱり怖い。
後ずさりそうになる私を、氷雨君が支えてくれた。
《ごめん。ぴりぴりしてて当たり散らした。あなたは悪くないのにね》
「え…?」
《その怪我もあたしのせいでしょ?グラス、思いきり投げつけたから》
見た目はギャル風の人で、さっきのこともあって怖そうだと思っていた。
想像していたのとぜんぜん違う反応に少し戸惑ってしまう。
《あたし、こんななりだけど無差別に人を傷つけようとは思ってないんだ。
けど、あの家ではこういうなりで口悪くしてないとなめられたら終わりだったから…》
金髪に染めた髪をくるくるさせながら、女性は申し訳なさそうにそう言った。
この人は悪い人じゃない…直感だけどそう思う。
「わ、私の起こし方も、よくなかったので…」
《飲み物ってどんなものでもあるの?》
「大体のものは用意できると思います」
《なら、ミルクセーキがいい。冷たいやつ》
「か、かしこまりました」
この人は何に怒っているんだろうと考えながら、久しぶりにシェイカーを持った。
ミキサータイプは少し重いからと、氷雨君が想い出の味を作れるように用意してくれたのだ。
「お、おまたせしました」
《ありがとう。…なにこれ》
一口飲んだ瞬間、女性は目を見開いて動かなくなってしまう。
「あの、お口に合いませんでしたか…?」
恐る恐る尋ねると、女性は嬉しそうに笑った。
《これ、母親がばあちゃんに習って作ってくれてたやつに味が似てる。
もう作ってくれる人もいなくなって、すっかり忘れてたけど…すごいね、この場所もあなたも》
「あ、ありがとうございます」
女性の笑顔には少し寂しさが滲んでいる。
今なら何があったか教えてもらえるだろうか。
「…あ、あの、あなたの話を、聞かせていただけませんか?」
《…今度は何?》
氷雨君から出された条件は、はじめに彼が入ってお客様と話すこと。
相手から見えない位置でじっと様子を窺っていると、女性はふっと笑った。
《あなたもあの暗号の答えを聞きに来たの?》
「何の話でしょうか?」
《あたしの頭を殴ったの、あんたなの?だからあたし、死んだんでしょ?》
やっぱりこの人は自分が亡くなっていることを自覚している。
そろそろ話しかけに行こうか迷ったけど、氷雨君がお客様に詰め寄った。
「私があなたを殺した犯人だったとしたら、こんな近くにいるはずないでしょう?」
《…そっか。やっぱ死んじゃったんだ。謎を解いたばっかりに殺されたんだ。
…ねえ。さっきあなたと似たような格好の子がここに来たんだけど、呼んでくれる?》
「かしこまりました」
その発言を聞いて、すぐ席に駆け寄った。
「あ、あの…」
やっぱり怖い。
後ずさりそうになる私を、氷雨君が支えてくれた。
《ごめん。ぴりぴりしてて当たり散らした。あなたは悪くないのにね》
「え…?」
《その怪我もあたしのせいでしょ?グラス、思いきり投げつけたから》
見た目はギャル風の人で、さっきのこともあって怖そうだと思っていた。
想像していたのとぜんぜん違う反応に少し戸惑ってしまう。
《あたし、こんななりだけど無差別に人を傷つけようとは思ってないんだ。
けど、あの家ではこういうなりで口悪くしてないとなめられたら終わりだったから…》
金髪に染めた髪をくるくるさせながら、女性は申し訳なさそうにそう言った。
この人は悪い人じゃない…直感だけどそう思う。
「わ、私の起こし方も、よくなかったので…」
《飲み物ってどんなものでもあるの?》
「大体のものは用意できると思います」
《なら、ミルクセーキがいい。冷たいやつ》
「か、かしこまりました」
この人は何に怒っているんだろうと考えながら、久しぶりにシェイカーを持った。
ミキサータイプは少し重いからと、氷雨君が想い出の味を作れるように用意してくれたのだ。
「お、おまたせしました」
《ありがとう。…なにこれ》
一口飲んだ瞬間、女性は目を見開いて動かなくなってしまう。
「あの、お口に合いませんでしたか…?」
恐る恐る尋ねると、女性は嬉しそうに笑った。
《これ、母親がばあちゃんに習って作ってくれてたやつに味が似てる。
もう作ってくれる人もいなくなって、すっかり忘れてたけど…すごいね、この場所もあなたも》
「あ、ありがとうございます」
女性の笑顔には少し寂しさが滲んでいる。
今なら何があったか教えてもらえるだろうか。
「…あ、あの、あなたの話を、聞かせていただけませんか?」
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