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第17章『英雄譚』
第96話
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『…弘中君、おはよう』
その生徒の目の前の机の上には、小さな花瓶が置かれている。
『ごめんね。僕が弱いばっかりに、弘中君が死ぬことになった』
その生徒の体は傷だらけで、目を覆いたくなるような状態だった。
『僕はあいつらをやっつけられなかった。また入院しちゃったし…』
その生徒は何度も謝りながら泣き続ける。
彼の手にはパックの豆乳ジュースが握られていた。
「──以上になります」
《新田、無茶したんだな…》
男子生徒の目には涙が溜まっている。
彼はあの生徒を他の誰より護りたかったのに、傷ついている事実に絶望しているように見えた。
「あなたはきっと、彼の心を救ったのだと思います」
《だが、あいつらは野放しのまま…意味がありません》
悔しそうに握られた拳を氷雨君がやんわり包む。
「ですが、あなたが残したものがあれば救われるのかもしれません。
…私の方でもできる限りのことはやりますので、取り敢えず先程の方に手紙を書いてみませんか?」
《新田に…俺の親友に届きますか?》
「真心も届くと私は信じております」
氷雨君は本当に話すのが上手い。
私ならここまで引き出せなかっただろう。
男子生徒は真剣な表情で手紙を綴っている。
時々豆乳オレを飲んで休みながら、なんとか駅につく前に書きあげた。
《できました》
「それでは、お預かりします」
《…あ、これも一緒に入れていいですか?》
男子生徒はそう言って、ネックレスを一緒に入れる。
「勿論です」
《ありがとうございました。ふたりのおかげで、死んだって分かっても落ち着いていられました》
ひらひらと手をふって、男子生徒は振り返らずそのまま突き進む。
少し寂しさが滲んでいる気もしたけど、何も言葉をかけられなかった。
「あ、あの…掃除、任せっぱなしになってしまってごめんなさい」
「別に。俺がやりたかったからやっただけだし。…それより、何か気になることでもあるの?」
「…なんとなく、手紙を書いているときににやって笑った気がしたんだ」
それに、現状を変えられなかったと口にしていたのに、覚悟を決めた目をしていた。
それが気になってしかたないのだ。
「たしかに笑ってたけど、あれは多分安堵の笑みだよ」
「そうなの?」
「俺にはそう見えた。…本当のことは本人にしか分からない。だけど、俺たちにはあの男子生徒を信じることができる」
「……そうだね」
話し終えると同時に、またいつもの眠気がやってきた。
倒れそうになった私の体を氷雨君がまた支えてくれる。
「…大丈夫。ゆっくり休んで」
その言葉を最後に、ぷっつりと意識が途絶えた。
その生徒の目の前の机の上には、小さな花瓶が置かれている。
『ごめんね。僕が弱いばっかりに、弘中君が死ぬことになった』
その生徒の体は傷だらけで、目を覆いたくなるような状態だった。
『僕はあいつらをやっつけられなかった。また入院しちゃったし…』
その生徒は何度も謝りながら泣き続ける。
彼の手にはパックの豆乳ジュースが握られていた。
「──以上になります」
《新田、無茶したんだな…》
男子生徒の目には涙が溜まっている。
彼はあの生徒を他の誰より護りたかったのに、傷ついている事実に絶望しているように見えた。
「あなたはきっと、彼の心を救ったのだと思います」
《だが、あいつらは野放しのまま…意味がありません》
悔しそうに握られた拳を氷雨君がやんわり包む。
「ですが、あなたが残したものがあれば救われるのかもしれません。
…私の方でもできる限りのことはやりますので、取り敢えず先程の方に手紙を書いてみませんか?」
《新田に…俺の親友に届きますか?》
「真心も届くと私は信じております」
氷雨君は本当に話すのが上手い。
私ならここまで引き出せなかっただろう。
男子生徒は真剣な表情で手紙を綴っている。
時々豆乳オレを飲んで休みながら、なんとか駅につく前に書きあげた。
《できました》
「それでは、お預かりします」
《…あ、これも一緒に入れていいですか?》
男子生徒はそう言って、ネックレスを一緒に入れる。
「勿論です」
《ありがとうございました。ふたりのおかげで、死んだって分かっても落ち着いていられました》
ひらひらと手をふって、男子生徒は振り返らずそのまま突き進む。
少し寂しさが滲んでいる気もしたけど、何も言葉をかけられなかった。
「あ、あの…掃除、任せっぱなしになってしまってごめんなさい」
「別に。俺がやりたかったからやっただけだし。…それより、何か気になることでもあるの?」
「…なんとなく、手紙を書いているときににやって笑った気がしたんだ」
それに、現状を変えられなかったと口にしていたのに、覚悟を決めた目をしていた。
それが気になってしかたないのだ。
「たしかに笑ってたけど、あれは多分安堵の笑みだよ」
「そうなの?」
「俺にはそう見えた。…本当のことは本人にしか分からない。だけど、俺たちにはあの男子生徒を信じることができる」
「……そうだね」
話し終えると同時に、またいつもの眠気がやってきた。
倒れそうになった私の体を氷雨君がまた支えてくれる。
「…大丈夫。ゆっくり休んで」
その言葉を最後に、ぷっつりと意識が途絶えた。
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