114 / 236
第17章『英雄譚』
第96話
しおりを挟む
『…弘中君、おはよう』
その生徒の目の前の机の上には、小さな花瓶が置かれている。
『ごめんね。僕が弱いばっかりに、弘中君が死ぬことになった』
その生徒の体は傷だらけで、目を覆いたくなるような状態だった。
『僕はあいつらをやっつけられなかった。また入院しちゃったし…』
その生徒は何度も謝りながら泣き続ける。
彼の手にはパックの豆乳ジュースが握られていた。
「──以上になります」
《新田、無茶したんだな…》
男子生徒の目には涙が溜まっている。
彼はあの生徒を他の誰より護りたかったのに、傷ついている事実に絶望しているように見えた。
「あなたはきっと、彼の心を救ったのだと思います」
《だが、あいつらは野放しのまま…意味がありません》
悔しそうに握られた拳を氷雨君がやんわり包む。
「ですが、あなたが残したものがあれば救われるのかもしれません。
…私の方でもできる限りのことはやりますので、取り敢えず先程の方に手紙を書いてみませんか?」
《新田に…俺の親友に届きますか?》
「真心も届くと私は信じております」
氷雨君は本当に話すのが上手い。
私ならここまで引き出せなかっただろう。
男子生徒は真剣な表情で手紙を綴っている。
時々豆乳オレを飲んで休みながら、なんとか駅につく前に書きあげた。
《できました》
「それでは、お預かりします」
《…あ、これも一緒に入れていいですか?》
男子生徒はそう言って、ネックレスを一緒に入れる。
「勿論です」
《ありがとうございました。ふたりのおかげで、死んだって分かっても落ち着いていられました》
ひらひらと手をふって、男子生徒は振り返らずそのまま突き進む。
少し寂しさが滲んでいる気もしたけど、何も言葉をかけられなかった。
「あ、あの…掃除、任せっぱなしになってしまってごめんなさい」
「別に。俺がやりたかったからやっただけだし。…それより、何か気になることでもあるの?」
「…なんとなく、手紙を書いているときににやって笑った気がしたんだ」
それに、現状を変えられなかったと口にしていたのに、覚悟を決めた目をしていた。
それが気になってしかたないのだ。
「たしかに笑ってたけど、あれは多分安堵の笑みだよ」
「そうなの?」
「俺にはそう見えた。…本当のことは本人にしか分からない。だけど、俺たちにはあの男子生徒を信じることができる」
「……そうだね」
話し終えると同時に、またいつもの眠気がやってきた。
倒れそうになった私の体を氷雨君がまた支えてくれる。
「…大丈夫。ゆっくり休んで」
その言葉を最後に、ぷっつりと意識が途絶えた。
その生徒の目の前の机の上には、小さな花瓶が置かれている。
『ごめんね。僕が弱いばっかりに、弘中君が死ぬことになった』
その生徒の体は傷だらけで、目を覆いたくなるような状態だった。
『僕はあいつらをやっつけられなかった。また入院しちゃったし…』
その生徒は何度も謝りながら泣き続ける。
彼の手にはパックの豆乳ジュースが握られていた。
「──以上になります」
《新田、無茶したんだな…》
男子生徒の目には涙が溜まっている。
彼はあの生徒を他の誰より護りたかったのに、傷ついている事実に絶望しているように見えた。
「あなたはきっと、彼の心を救ったのだと思います」
《だが、あいつらは野放しのまま…意味がありません》
悔しそうに握られた拳を氷雨君がやんわり包む。
「ですが、あなたが残したものがあれば救われるのかもしれません。
…私の方でもできる限りのことはやりますので、取り敢えず先程の方に手紙を書いてみませんか?」
《新田に…俺の親友に届きますか?》
「真心も届くと私は信じております」
氷雨君は本当に話すのが上手い。
私ならここまで引き出せなかっただろう。
男子生徒は真剣な表情で手紙を綴っている。
時々豆乳オレを飲んで休みながら、なんとか駅につく前に書きあげた。
《できました》
「それでは、お預かりします」
《…あ、これも一緒に入れていいですか?》
男子生徒はそう言って、ネックレスを一緒に入れる。
「勿論です」
《ありがとうございました。ふたりのおかげで、死んだって分かっても落ち着いていられました》
ひらひらと手をふって、男子生徒は振り返らずそのまま突き進む。
少し寂しさが滲んでいる気もしたけど、何も言葉をかけられなかった。
「あ、あの…掃除、任せっぱなしになってしまってごめんなさい」
「別に。俺がやりたかったからやっただけだし。…それより、何か気になることでもあるの?」
「…なんとなく、手紙を書いているときににやって笑った気がしたんだ」
それに、現状を変えられなかったと口にしていたのに、覚悟を決めた目をしていた。
それが気になってしかたないのだ。
「たしかに笑ってたけど、あれは多分安堵の笑みだよ」
「そうなの?」
「俺にはそう見えた。…本当のことは本人にしか分からない。だけど、俺たちにはあの男子生徒を信じることができる」
「……そうだね」
話し終えると同時に、またいつもの眠気がやってきた。
倒れそうになった私の体を氷雨君がまた支えてくれる。
「…大丈夫。ゆっくり休んで」
その言葉を最後に、ぷっつりと意識が途絶えた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

一よさく華 -幕開け-
八幡トカゲ
ライト文芸
ソレは、さながら、妖――。
偶然を装った必然の出逢い。
細い月が浮かぶ夜、出逢ったその人は人斬りでした。
立派なのは肩書だけ。中身なんて空っぽだ。
この国は、そんな奴らがのさばっている。
将軍の死の疑惑。
そこから、200年続いたうわべだけの太平の世の終焉が始まった。
「この国をいい国にしたい。弱い人が、安心して暮らせる国に」
動乱の中、その一心で「月」になったひとりの少年がいた。
少年はやがて青年になり、ある夜、ひとりの娘に出会う。
それは、偶然を装った、必然の出会い。
そこから、青年の運命が大きく動き出す。
都の闇夜を駆け抜ける影。
一つよに咲く華となれ。
イマワノキワ -その時に私を呼んでー
たまひめ
ライト文芸
足の悪いばあちゃんと、ひっそりとした生活を送る
希和(きわ)は、卑弥呼から繋がる不思議な力を持っていた。
自然や動物に愛され、かわいい猫ちゃんが希和を守る。
世の中の理不尽な事件に、愛情を持って立ち向かっていく。
恋あり、闘いあり、、、、、乞うご期待!!
初めての投稿です。
皆さんの『お気に入り』登録に、天にも昇るように嬉しいです。
近々、お礼の気持ちとして、挿し絵をアップ出来れば
いいなぁと思っています。
表現、誤字、脱字 等、間違いだらけですが、
どうぞ、よろしくお願いいたします。
浴槽海のウミカ
ベアりんぐ
ライト文芸
「私とこの世界は、君の深層心理の投影なんだよ〜!」
過去の影響により精神的な捻くれを抱えながらも、20という節目の歳を迎えた大学生の絵馬 青人は、コンビニ夜勤での疲れからか、眠るように湯船へと沈んでしまう。目が覚めるとそこには、見覚えのない部屋と少女が……。
少女のある能力によって、青人の運命は大きく動いてゆく……!
※こちら小説家になろう、カクヨム、Nolaでも掲載しています。

たずねびと それぞれの人生
ニ光 美徳
ライト文芸
父が参加したゲームのオフ会が発端で、隠し子を探すために失踪する母。大好きな彼氏の隠し事。
ある事件に関わる人たちの、それぞれの人生。
犯人は一体誰?
主人公の麻智は、最終的にどんな決断をするのかー?
少しだけミステリーの、現代ドラマな話。
1話あたり2,000〜3,000文字。


格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
翔君とおさんぽ
桜桃-サクランボ-
ライト文芸
世間一般的に、ブラック企業と呼ばれる会社で、1ヶ月以上も休み無く働かされていた鈴夏静華《りんかしずか》は、パソコンに届いた一通のメールにより、田舎にある実家へと戻る。
そこには、三歳の日向翔《ひなたかける》と、幼なじみである詩想奏多《しそうかなた》がおり、静華は二人によりお散歩へと繰り出される。
その先で出会ったのは、翔くらいの身長である銀髪の少年、弥狐《やこ》。
昔、人間では無いモノ──あやかしを見る方法の一つとして"狐の窓"という噂があった。
静華はその話を思い出し、異様な空気を纏っている弥狐を狐の窓から覗き見ると、そこにはただの少年ではなく、狐のあやかしが映り込む──……
心疲れた人に送る、ほのぼのだけどちょっと不思議な物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる