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第16章『怖い帰り』
第91話
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黒コートの人は氷雨君の言葉に驚いていた。
《あれと本気であたったらどうなるか…》
「それでもやるのが、私の仕事ですから」
《美味ソウダナ》
てっきり喋らないものだと思っていたのに、相手はぺらぺら話すのをやめない。
《ココノ餌、美味ソウ!ゼンブヨコセ!最強ニ、》
「──うるさい」
氷雨君は突風をおこして相手の体をばらばらにする。
相手は悲鳴をあげる間もなく、体が灰になって消えていく。
「失礼しました。怪我はありませんか?」
《私は平気です。…あなた、もしかして、》
「申し訳ありませんが、おそらくその質問にはお応えできません」
《……そうですか。あなたは人を騙しているわけでもなさそうだし、言う必要もなさそうですね》
会話の意味が分からなかったけれど、一応普段のお客様に接するように尋ねてみる。
「あ、あの…お手紙、書いてみませんか?」
《手紙、ですか。誰宛でもかまわないのですか?》
「はい」
《それでは、書いてみようと思います。紙をいただけますか?》
「わ、分かりました」
書いている姿まで綺麗で、できるだけ見つめないように気をつけながらお茶のおかわりを淹れる。
《できました》
「大切な人に届くように、私も祈っています」
《ありがとう》
氷雨君は黙ったまま、傷だらけの車両を見つめている。
「あ…」
「どうし──」
遠くから音が聞こえて、扉のロックを解除して氷雨君を突き飛ばす。
ぞろぞろとやってきた黒いものに呑まれそうになりながら、氷雨君と黒コートの人の無事を確認する。
連結部分を半分くらい外せたけど、このままだと他の人を巻きこんでしまう。
「氷空!」
今、初めて名前を呼ばれた。
…もう駄目かもしれないけど、なんだかちょっと嬉しいな。
そっと目を閉じると、誰かに強く引き寄せられた。
《…よかった、間に合いましたね》
「どうして…」
《怪我をされているようね。痛むでしょう?後できちんと手当てした方がいいですよ》
黒コートの人の方を見ると、コートに穴が開いている。
相手はまだ諦めていないのか、どんどん迫ってきていた。
「その傷、早く治療しないと…!」
《大丈夫です。あなたのおかげで、もう怖くありません》
「待って、それじゃあまるで…」
黒コートの人は笑顔で小さく燃える石のようなものを取り出した。
《ありがとう。最後の最期で人として生きられて、本当に幸せでした》
連結部分が外されるのと同時に、私の体は走る列車側へ投げられる。
取り残された車両は大きな妖に喰らわれて、黒コートの人も一緒に呑まれた。
激しい爆発音を聞きながら、私はただ泣き叫ぶ。
子どもみたいに喚くことしかできない体を、氷雨君はただ抱きしめてくれた。
ありがとうなんて言われるほどのことを、私は何もできていない。
《あれと本気であたったらどうなるか…》
「それでもやるのが、私の仕事ですから」
《美味ソウダナ》
てっきり喋らないものだと思っていたのに、相手はぺらぺら話すのをやめない。
《ココノ餌、美味ソウ!ゼンブヨコセ!最強ニ、》
「──うるさい」
氷雨君は突風をおこして相手の体をばらばらにする。
相手は悲鳴をあげる間もなく、体が灰になって消えていく。
「失礼しました。怪我はありませんか?」
《私は平気です。…あなた、もしかして、》
「申し訳ありませんが、おそらくその質問にはお応えできません」
《……そうですか。あなたは人を騙しているわけでもなさそうだし、言う必要もなさそうですね》
会話の意味が分からなかったけれど、一応普段のお客様に接するように尋ねてみる。
「あ、あの…お手紙、書いてみませんか?」
《手紙、ですか。誰宛でもかまわないのですか?》
「はい」
《それでは、書いてみようと思います。紙をいただけますか?》
「わ、分かりました」
書いている姿まで綺麗で、できるだけ見つめないように気をつけながらお茶のおかわりを淹れる。
《できました》
「大切な人に届くように、私も祈っています」
《ありがとう》
氷雨君は黙ったまま、傷だらけの車両を見つめている。
「あ…」
「どうし──」
遠くから音が聞こえて、扉のロックを解除して氷雨君を突き飛ばす。
ぞろぞろとやってきた黒いものに呑まれそうになりながら、氷雨君と黒コートの人の無事を確認する。
連結部分を半分くらい外せたけど、このままだと他の人を巻きこんでしまう。
「氷空!」
今、初めて名前を呼ばれた。
…もう駄目かもしれないけど、なんだかちょっと嬉しいな。
そっと目を閉じると、誰かに強く引き寄せられた。
《…よかった、間に合いましたね》
「どうして…」
《怪我をされているようね。痛むでしょう?後できちんと手当てした方がいいですよ》
黒コートの人の方を見ると、コートに穴が開いている。
相手はまだ諦めていないのか、どんどん迫ってきていた。
「その傷、早く治療しないと…!」
《大丈夫です。あなたのおかげで、もう怖くありません》
「待って、それじゃあまるで…」
黒コートの人は笑顔で小さく燃える石のようなものを取り出した。
《ありがとう。最後の最期で人として生きられて、本当に幸せでした》
連結部分が外されるのと同時に、私の体は走る列車側へ投げられる。
取り残された車両は大きな妖に喰らわれて、黒コートの人も一緒に呑まれた。
激しい爆発音を聞きながら、私はただ泣き叫ぶ。
子どもみたいに喚くことしかできない体を、氷雨君はただ抱きしめてくれた。
ありがとうなんて言われるほどのことを、私は何もできていない。
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