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第15章『死者還り』
第82話
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「おまたせしました」
マントを羽織った私を見て、男の子は目を輝かせている。
《お姉さん、かっこいい!》
「ありがとうございます」
折原さんはふっと微笑んで、バッジと箒を交互に見つめていた。
「かっこいいな」
「私なんて、まだまだ未熟で…」
「それでも、必死に食らいついてるんだろ?それに、笑顔で相手と話せればそれだけで幸せな気持ちは伝染していく」
折原さんもそうだけど、男の子ももう緊張した様子はない。
寧ろ楽しそうに笑っていて、私の学校に興味津々みたいだった。
「あと、私のことは詩乃でいい。年が近い相手に折原って呼ばれると距離を感じるから」
「分かりました。よろしくお願いします、詩乃さん」
《僕も名前で呼んでほしいな》
そういえば、この子の名前を聞いていなかった。
しゃがんで男の子と視線をあわせて、早速訊いてみることにする。
「あなたのお名前を教えていただけますか?」
《…そうま》
「では、そうまさん。何か食べたいものはありますか?」
《えっと…お子様ランチ》
「どんなものが入ってるやつがいいんだ?」
《えっと、ハンバーグとか、エビフライとか…》
「今なら調理室があいているはずなので、材料を用意してきますね」
エビフライは揚げると完成するものにして、ハンバーグは必要な材料を揃えて…買い出しして調理室に行くと、詩乃さんがご飯を炊いてくれていた。
「設備の使用許可は先生にとってもらってる」
「室星先生、ですか?」
「うん。あんまり喋らないけどいい人なんだ」
てきぱき用意してお皿に盛りつけていると、そうまさんが目を輝かせていた。
《すごい、お店のだ!》
「お店ほど上手にはできませんでしたが、お召しあがりください」
「こっちもできたからどうぞ」
ふわふわ卵に包まれたバターライスの香りがここまで広がって、詩乃さんが持っているお皿が光って見えた。
《ふわふわオムライス、食べてみたかったんだ…。でも、本当に食べていいの?》
「ゆっくりお召しあがりください」
《ありがとう。いただきます》
そうまさんは一口食べる度に、美味しいと感動していた。
喜んでもらえたなら作ったかいがある。
けど、ここから先のことが不安だ。
詩乃さんの方を見ると、優しく声をかけてくれた。
「料理、得意なのか?」
「そこまでではないと思います」
「私はあんなに手際よくできないよ」
「し、詩乃さんみたいに、ふわふわに仕上げられません」
「あれはコツがあるんだ。今度教えるよ」
そんな話をしていると、かたんと箸が転がる音がする。
《あ、あ……》
「そろそろ時間みたいだ」
そうまさんの体はみるみるうちに透明になっていき、そのまま溶けるように消えてしまう。
「やっぱり氷空の仮説が合ってたみたいだ。行こう」
「は、はい」
できればおこってほしくなかったことが、目の前でおきてしまった。
今私にできることをせいいっぱいしよう…そう心に決め、箒を握る。
護られてばかりじゃいられない。
マントを羽織った私を見て、男の子は目を輝かせている。
《お姉さん、かっこいい!》
「ありがとうございます」
折原さんはふっと微笑んで、バッジと箒を交互に見つめていた。
「かっこいいな」
「私なんて、まだまだ未熟で…」
「それでも、必死に食らいついてるんだろ?それに、笑顔で相手と話せればそれだけで幸せな気持ちは伝染していく」
折原さんもそうだけど、男の子ももう緊張した様子はない。
寧ろ楽しそうに笑っていて、私の学校に興味津々みたいだった。
「あと、私のことは詩乃でいい。年が近い相手に折原って呼ばれると距離を感じるから」
「分かりました。よろしくお願いします、詩乃さん」
《僕も名前で呼んでほしいな》
そういえば、この子の名前を聞いていなかった。
しゃがんで男の子と視線をあわせて、早速訊いてみることにする。
「あなたのお名前を教えていただけますか?」
《…そうま》
「では、そうまさん。何か食べたいものはありますか?」
《えっと…お子様ランチ》
「どんなものが入ってるやつがいいんだ?」
《えっと、ハンバーグとか、エビフライとか…》
「今なら調理室があいているはずなので、材料を用意してきますね」
エビフライは揚げると完成するものにして、ハンバーグは必要な材料を揃えて…買い出しして調理室に行くと、詩乃さんがご飯を炊いてくれていた。
「設備の使用許可は先生にとってもらってる」
「室星先生、ですか?」
「うん。あんまり喋らないけどいい人なんだ」
てきぱき用意してお皿に盛りつけていると、そうまさんが目を輝かせていた。
《すごい、お店のだ!》
「お店ほど上手にはできませんでしたが、お召しあがりください」
「こっちもできたからどうぞ」
ふわふわ卵に包まれたバターライスの香りがここまで広がって、詩乃さんが持っているお皿が光って見えた。
《ふわふわオムライス、食べてみたかったんだ…。でも、本当に食べていいの?》
「ゆっくりお召しあがりください」
《ありがとう。いただきます》
そうまさんは一口食べる度に、美味しいと感動していた。
喜んでもらえたなら作ったかいがある。
けど、ここから先のことが不安だ。
詩乃さんの方を見ると、優しく声をかけてくれた。
「料理、得意なのか?」
「そこまでではないと思います」
「私はあんなに手際よくできないよ」
「し、詩乃さんみたいに、ふわふわに仕上げられません」
「あれはコツがあるんだ。今度教えるよ」
そんな話をしていると、かたんと箸が転がる音がする。
《あ、あ……》
「そろそろ時間みたいだ」
そうまさんの体はみるみるうちに透明になっていき、そのまま溶けるように消えてしまう。
「やっぱり氷空の仮説が合ってたみたいだ。行こう」
「は、はい」
できればおこってほしくなかったことが、目の前でおきてしまった。
今私にできることをせいいっぱいしよう…そう心に決め、箒を握る。
護られてばかりじゃいられない。
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