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第15章『死者還り』
第78話
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不思議なくらい男の子のことを思い出せないのは、多分思った以上に恐怖を感じたからだ。
「家のことを聞かれたくなかったのか、答えを持ち合わせていないかだな」
「折原、今の話をあいつらにも共有しておいてくれ」
「分かった。すぐ戻る」
折原さんが屋上を離れた直後、氷雨君に声をかけられる。
「俺たちは見回りを続けるしかない。あと、迷子のお客様の案内が仕事だ」
「そうだね」
「…例年より迷子の数が多いのは、噂が関係しているのかもしれない」
「例年より多いのか?」
「少なくとも、昼間から救援要請がくるほど忙しくはなかった」
ふたりの会話を邪魔しないように少し後ろに下がると、矢田さんに声をかけられた。
「氷空ちゃん、箒を使えるようになったの?」
「えっと、多分…」
「すごいね。僕はコントロールがまだまだで、結構グロテスクになっちゃうんだ」
「そう、なんですか」
矢田さんと話していると、聞き覚えのある笑い声が聞こえる。
《ククク……》
「ごめんなさい、少しお手洗いに行ってきます」
「あ、うん。分かった、気をつけてね」
「ありがとうございます」
嘘を吐いたことを申し訳なく思いながらも、声がした方へ駆け出す。
あの子が噂に巻きこまれているなら助けになりたい。
私にできることは限られているけど、見て見ぬふりをするのは嫌だった。
「こんばんは」
《あれ、この前のお姉さんだ》
にこっと笑うその姿はただの子どもだ。
…そう、手でぐちゃぐちゃ潰されているものさえ持っていなければ。
「ひ、左手に握っているものはなんですか?」
《ああ、これ?友だちだよ。ずっと一緒にいるって約束したんだ》
「なんだか苦しそうです」
《え、喜んでるんじゃないの?》
やっぱり少し変だ。
もう少し近づいて話を聞こうとしたけど、突然風が吹いてきて目を閉じる。
勢いがなくなって目を開けると、男の子はいなくなっていた。
直後、背後から低い声が聞こえてくる。
「ひとりで何してるの?」
「あ、氷雨く、」
振り向こうとした瞬間、足を滑らせてしまった。
運悪く階段側に倒れこんでしまい、落ちると思った私はぎゅっと目を瞑る。
いつまで経ってもやってこない衝撃を待っていたけど、ゆっくり目を開けた。
「…危なかった」
氷雨君に支えられて、なんとか落ちずにすんだらしい。
「貧血?」
「ううん。少しふらついただけ…ごめんなさい」
「別に謝る必要ない。ただ、気をつけて。それ以上怪我が増えたら大変でしょ?」
「あ、うん」
氷雨君はゆっくり体をおろしてくれて、なんだか心がぽかぽかになる。
「実はさっき、ここに男の子がいたんだ。だけどまたいなくなっちゃって…」
その瞬間、氷雨君の目つきが変わった。
「その話、詳しく聞かせて」
「家のことを聞かれたくなかったのか、答えを持ち合わせていないかだな」
「折原、今の話をあいつらにも共有しておいてくれ」
「分かった。すぐ戻る」
折原さんが屋上を離れた直後、氷雨君に声をかけられる。
「俺たちは見回りを続けるしかない。あと、迷子のお客様の案内が仕事だ」
「そうだね」
「…例年より迷子の数が多いのは、噂が関係しているのかもしれない」
「例年より多いのか?」
「少なくとも、昼間から救援要請がくるほど忙しくはなかった」
ふたりの会話を邪魔しないように少し後ろに下がると、矢田さんに声をかけられた。
「氷空ちゃん、箒を使えるようになったの?」
「えっと、多分…」
「すごいね。僕はコントロールがまだまだで、結構グロテスクになっちゃうんだ」
「そう、なんですか」
矢田さんと話していると、聞き覚えのある笑い声が聞こえる。
《ククク……》
「ごめんなさい、少しお手洗いに行ってきます」
「あ、うん。分かった、気をつけてね」
「ありがとうございます」
嘘を吐いたことを申し訳なく思いながらも、声がした方へ駆け出す。
あの子が噂に巻きこまれているなら助けになりたい。
私にできることは限られているけど、見て見ぬふりをするのは嫌だった。
「こんばんは」
《あれ、この前のお姉さんだ》
にこっと笑うその姿はただの子どもだ。
…そう、手でぐちゃぐちゃ潰されているものさえ持っていなければ。
「ひ、左手に握っているものはなんですか?」
《ああ、これ?友だちだよ。ずっと一緒にいるって約束したんだ》
「なんだか苦しそうです」
《え、喜んでるんじゃないの?》
やっぱり少し変だ。
もう少し近づいて話を聞こうとしたけど、突然風が吹いてきて目を閉じる。
勢いがなくなって目を開けると、男の子はいなくなっていた。
直後、背後から低い声が聞こえてくる。
「ひとりで何してるの?」
「あ、氷雨く、」
振り向こうとした瞬間、足を滑らせてしまった。
運悪く階段側に倒れこんでしまい、落ちると思った私はぎゅっと目を瞑る。
いつまで経ってもやってこない衝撃を待っていたけど、ゆっくり目を開けた。
「…危なかった」
氷雨君に支えられて、なんとか落ちずにすんだらしい。
「貧血?」
「ううん。少しふらついただけ…ごめんなさい」
「別に謝る必要ない。ただ、気をつけて。それ以上怪我が増えたら大変でしょ?」
「あ、うん」
氷雨君はゆっくり体をおろしてくれて、なんだか心がぽかぽかになる。
「実はさっき、ここに男の子がいたんだ。だけどまたいなくなっちゃって…」
その瞬間、氷雨君の目つきが変わった。
「その話、詳しく聞かせて」
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