85 / 236
第14章『協力者』
第71話
しおりを挟む
「宵月は今日欠席だ。他は全員いるか?」
氷雨君が学校を休むなんて珍しい。
…お弁当、どうしよう。
先生の授業をぼんやり聞いていると、すぐ近くに小さな男の子がいた。
《ねえ、何してるの?》
「…授業を受けているの。あなたはここで何をしているの?」
《にぎやかだったから来たんだ!》
話を聞きながら違和感に気づく。
小声とはいえ、小さい子と話していれば誰かは気づくだろう。
「おうちの人は一緒じゃないの?」
そう尋ねたのと同時にチャイムが鳴り、男の子はきゃははと笑いだす。
どうしようと戸惑ったけど、ただ耳をふさいで俯いていることしかできなかった。
しばらくして顔をあげると、男の子がいなくなっている。
誰にも気づかれないようにそっと教室を抜け出した。
「あら、氷空ちゃん?学校はどうしたの?」
「…ちゃんと行ってきたよ」
おばさんに嘘を吐くのは心が痛んだけど、どうしても学校にはいたくなかったのだ。
おばさんは何も訊かずに、もらったお菓子のことや他の部屋のお友だちの話を聞かせてくれた。
「成川さん、そろそろ検査の時間ですよ」
「あら、もう?教えてくれてありがとう」
「…それじゃあまた来るね、おばさん」
おばさんの部屋から出たところで誰かとぶつかる。
「あ…すみま、」
そこで言葉を止めたのは、相手の目に生気がなかったからだ。
列車のお客様たちとも違う雰囲気に、私はただ黙っていることしかできなかった。
「聞いてる?」
「あ…ごめんなさい」
夜、いつものようにフード付きマントを羽織っていると氷雨君に声をかけられる。
話しかけられていたことにも気づかないくらい、町の異変について考えていた。
「何かあった?」
「…少し」
「多少は俺にも関係ある話なんじゃない?」
「どうしてそう思ったの?」
「勘。あとは、この時期ならおこり得ることだから」
どういう意味なのか聞こうとしたけど、上手く言葉にできない。
話して困らせてしまうのが嫌で、そのまま黙った。
しばらく沈黙が続いたところで話を切り出される。
「たとえば、町で生者ではない何かに会ったとか」
「……!」
「やっぱりそうか。…ハロウィン前になると境界線が曖昧になって、心に未練を抱えたまま駅に辿り着けなくなる人が増えるんだ。
今日は町内を見回っていたんだけど、それじゃ足りないみたいだね」
「それで学校を休んでいたの?」
「うん。俺だけじゃ対処のしようがないから知り合いにも頼んだんだ。
…相談していたら、借りはしっかり返したいって言われたから。助けられたのはこっちだし、貸しだなんて思ってないのに」
氷雨君は困ったように頭を抱えていたものの、データの整理をはじめた。
「一緒に来て。あと、しばらく学校には行かないからお弁当は休みにしてほしい」
「…あの、私にも協力させてもらえないかな?」
「……考えておく」
氷雨君はそれだけ言って黙ってしまった。
氷雨君が学校を休むなんて珍しい。
…お弁当、どうしよう。
先生の授業をぼんやり聞いていると、すぐ近くに小さな男の子がいた。
《ねえ、何してるの?》
「…授業を受けているの。あなたはここで何をしているの?」
《にぎやかだったから来たんだ!》
話を聞きながら違和感に気づく。
小声とはいえ、小さい子と話していれば誰かは気づくだろう。
「おうちの人は一緒じゃないの?」
そう尋ねたのと同時にチャイムが鳴り、男の子はきゃははと笑いだす。
どうしようと戸惑ったけど、ただ耳をふさいで俯いていることしかできなかった。
しばらくして顔をあげると、男の子がいなくなっている。
誰にも気づかれないようにそっと教室を抜け出した。
「あら、氷空ちゃん?学校はどうしたの?」
「…ちゃんと行ってきたよ」
おばさんに嘘を吐くのは心が痛んだけど、どうしても学校にはいたくなかったのだ。
おばさんは何も訊かずに、もらったお菓子のことや他の部屋のお友だちの話を聞かせてくれた。
「成川さん、そろそろ検査の時間ですよ」
「あら、もう?教えてくれてありがとう」
「…それじゃあまた来るね、おばさん」
おばさんの部屋から出たところで誰かとぶつかる。
「あ…すみま、」
そこで言葉を止めたのは、相手の目に生気がなかったからだ。
列車のお客様たちとも違う雰囲気に、私はただ黙っていることしかできなかった。
「聞いてる?」
「あ…ごめんなさい」
夜、いつものようにフード付きマントを羽織っていると氷雨君に声をかけられる。
話しかけられていたことにも気づかないくらい、町の異変について考えていた。
「何かあった?」
「…少し」
「多少は俺にも関係ある話なんじゃない?」
「どうしてそう思ったの?」
「勘。あとは、この時期ならおこり得ることだから」
どういう意味なのか聞こうとしたけど、上手く言葉にできない。
話して困らせてしまうのが嫌で、そのまま黙った。
しばらく沈黙が続いたところで話を切り出される。
「たとえば、町で生者ではない何かに会ったとか」
「……!」
「やっぱりそうか。…ハロウィン前になると境界線が曖昧になって、心に未練を抱えたまま駅に辿り着けなくなる人が増えるんだ。
今日は町内を見回っていたんだけど、それじゃ足りないみたいだね」
「それで学校を休んでいたの?」
「うん。俺だけじゃ対処のしようがないから知り合いにも頼んだんだ。
…相談していたら、借りはしっかり返したいって言われたから。助けられたのはこっちだし、貸しだなんて思ってないのに」
氷雨君は困ったように頭を抱えていたものの、データの整理をはじめた。
「一緒に来て。あと、しばらく学校には行かないからお弁当は休みにしてほしい」
「…あの、私にも協力させてもらえないかな?」
「……考えておく」
氷雨君はそれだけ言って黙ってしまった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!
蒼衣翼
ファンタジー
書籍化にあたりタイトル変更しました(旧タイトル:勇者パーティから追い出された!と、思ったら、土下座で泣きながら謝って来た……何がなんだかわからねぇ)
第11回ファンタジー小説大賞優秀賞受賞
2019年4月に書籍発売予定です。
俺は十五の頃から長年冒険者をやってきて今年で三十になる。
そんな俺に、勇者パーティのサポートの仕事が回ってきた。
貴族の坊っちゃん嬢ちゃんのお守りかぁ、と、思いながらも仕方なしにやっていたが、戦闘に参加しない俺に、とうとう勇者がキレて追い出されてしまった。
まぁ仕方ないよね。
しかし、話はそれで終わらなかった。
冒険者に戻った俺の元へ、ボロボロになった勇者パーティがやって来て、泣きながら戻るようにと言い出した。
どうしたんだよ、お前ら……。
そんな中年に差し掛かった冒険者と、国の英雄として活躍する勇者パーティのお話。
君に恋していいですか?
櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。
仕事の出来すぎる女。
大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。
女としての自信、全くなし。
過去の社内恋愛の苦い経験から、
もう二度と恋愛はしないと決めている。
そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。
志信に惹かれて行く気持ちを否定して
『同期以上の事は期待しないで』と
志信を突き放す薫の前に、
かつての恋人・浩樹が現れて……。
こんな社内恋愛は、アリですか?
神送りの夜
千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。
父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。
町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。
【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!
夕姫
ライト文芸
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の1期生として活動する、清楚担当Vtuber『姫宮ましろ』。そんな彼女にはある秘密がある。それは中の人が男ということ……。
そんな『姫宮ましろ』の中の人こと、主人公の神崎颯太は『Fmすたーらいぶ』のマネージャーである姉の神崎桃を助けるためにVtuberとして活動していた。
同じ事務所のライバーとはほとんど絡まない、連絡も必要最低限。そんな生活を2年続けていたある日。事務所の不手際で半年前にデビューした3期生のVtuber『双葉かのん』こと鈴町彩芽に正体が知られて……
この物語は正体を隠しながら『姫宮ましろ』として活動する主人公とガチで陰キャでコミュ障な後輩ちゃんのVtuberお仕事ラブコメディ
※2人の恋愛模様は中学生並みにゆっくりです。温かく見守ってください
※配信パートは在籍ライバーが織り成す感動あり、涙あり、笑いありw箱推しリスナーの気分で読んでください
AIイラストで作ったFA(ファンアート)
⬇️
https://www.alphapolis.co.jp/novel/187178688/738771100
も不定期更新中。こちらも応援よろしくです

凪の始まり
Shigeru_Kimoto
ライト文芸
佐藤健太郎28歳。場末の風俗店の店長をしている。そんな俺の前に16年前の小学校6年生の時の担任だった満島先生が訪ねてやってきた。
俺はその前の5年生の暮れから学校に行っていなかった。不登校っていう括りだ。
先生は、今年で定年になる。
教師人生、唯一の心残りだという俺の不登校の1年を今の俺が登校することで、後悔が無くなるらしい。そして、もう一度、やり直そうと誘ってくれた。
当時の俺は、毎日、家に宿題を届けてくれていた先生の気持ちなど、考えてもいなかったのだと思う。
でも、あれから16年、俺は手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほど、ありがたいかを知っている。
16年たった大人の俺は、そうしてやり直しの小学校6年生をすることになった。
こうして動き出した俺の人生は、新しい世界に飛び込んだことで、別の分かれ道を自ら作り出し、歩き出したのだと思う。
今にして思えば……
さあ、良かったら、俺の動き出した人生の話に付き合ってもらえないだろうか?
長編、1年間連載。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる