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第10章『願い』
第51話
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「君、勇気あるね」
「あれでよかったの?」
「うん。侵入者に対してはあれが正解だ」
うずくまる何かはぎろりとこちらを睨みつけていて、なんだか近寄りがたい雰囲気を感じる。
《ドウシテ、捨テタノ……?ドウシテ裏切ッタノ?》
鞭のような太さになった髪の毛の束が振り下ろされて、治りきっていない傷に当たる。
「こいつは抑えるから早く逃げて」
「ドアが開かないの」
《キシシ!》
勢いよく飛びかかってこようとした小さな体は一瞬で吹き飛ばされる。
いつもより低い声がその場に響いた。
「…今出ていけば見逃してやる。選べ」
氷雨君の冷たい視線は相手に突き刺さった。
《ユルサナイ!》
「待て!」
氷雨君が制止するのも気に留めず、小さい何かはどんどん前の車両へ移動していく。
「すぐ開けるから。…立てる?」
「へ、平気…」
あんなに開かなかったドアが、相手のところまで導くように自動で開く。
「……総員、侵入者に備えてください。先程までは小柄な人形の姿でしたが、髪の毛を伸ばして攻撃してくると思われます。
現時点では侵入者と位置づけますが、危害をくわえる様子が見られなければ保護してください」
インカム越しに伝えられる指示と、どたばた動き出す沢山の足音。
それらを隣で聞きながら、氷雨君は解説してくれた。
「侵入者というのは、お客様である死霊以外で攻撃の意志がみられるもののこと。
時々ただの迷子だったりするけど、侵入者の目的は死霊を食べ尽くすこと」
「つまり、お客様の魂をまるまる食べてしまうってこと?」
「うん。だから早く捕まえないとまずいんだ。侵入者からすれば、この列車は食料庫と変わらないからね」
目の前に無料食べ放題のお店があったら、人間だって喜んで走っていく。
それと同じことが人間の魂におきてもおかしくないんだと思うと、頭がくらっとした。
「君はここにいて。最上級の獲物になり得る」
「だけど、それは氷雨君も同じなんじゃ…」
「いいから」
一緒に行っても足手まといになるだけかもしれない。
そう思うと、ついていかせてほしいとは言えなかった。
けど、独りになるのも同じくらい危険だったわけで。
《ユルセナイ!》
「う……!」
髪の毛のようなものが首に巻きつく。
相手の体に触れようと手を伸ばすと、なんとか姿を確認することができた。
どうやら人形のようで、綺麗な着物を着ている。
「あな、たは…何が、赦せなかったの?」
《ユルセナイ、赦せナイノ……》
聞こえているのかいないのか、はっきりとは分からない。
それでも、悲しそうにしている姿に嘘はないはずだ。
それが分かっているなら、私にできることはひとつだけ。
「あなたの、話…聞か、せて、くれる?」
《……》
小さい体を抱きとめるのと同時に、私の意識は真っ暗闇へと引きずりこまれていった。
「あれでよかったの?」
「うん。侵入者に対してはあれが正解だ」
うずくまる何かはぎろりとこちらを睨みつけていて、なんだか近寄りがたい雰囲気を感じる。
《ドウシテ、捨テタノ……?ドウシテ裏切ッタノ?》
鞭のような太さになった髪の毛の束が振り下ろされて、治りきっていない傷に当たる。
「こいつは抑えるから早く逃げて」
「ドアが開かないの」
《キシシ!》
勢いよく飛びかかってこようとした小さな体は一瞬で吹き飛ばされる。
いつもより低い声がその場に響いた。
「…今出ていけば見逃してやる。選べ」
氷雨君の冷たい視線は相手に突き刺さった。
《ユルサナイ!》
「待て!」
氷雨君が制止するのも気に留めず、小さい何かはどんどん前の車両へ移動していく。
「すぐ開けるから。…立てる?」
「へ、平気…」
あんなに開かなかったドアが、相手のところまで導くように自動で開く。
「……総員、侵入者に備えてください。先程までは小柄な人形の姿でしたが、髪の毛を伸ばして攻撃してくると思われます。
現時点では侵入者と位置づけますが、危害をくわえる様子が見られなければ保護してください」
インカム越しに伝えられる指示と、どたばた動き出す沢山の足音。
それらを隣で聞きながら、氷雨君は解説してくれた。
「侵入者というのは、お客様である死霊以外で攻撃の意志がみられるもののこと。
時々ただの迷子だったりするけど、侵入者の目的は死霊を食べ尽くすこと」
「つまり、お客様の魂をまるまる食べてしまうってこと?」
「うん。だから早く捕まえないとまずいんだ。侵入者からすれば、この列車は食料庫と変わらないからね」
目の前に無料食べ放題のお店があったら、人間だって喜んで走っていく。
それと同じことが人間の魂におきてもおかしくないんだと思うと、頭がくらっとした。
「君はここにいて。最上級の獲物になり得る」
「だけど、それは氷雨君も同じなんじゃ…」
「いいから」
一緒に行っても足手まといになるだけかもしれない。
そう思うと、ついていかせてほしいとは言えなかった。
けど、独りになるのも同じくらい危険だったわけで。
《ユルセナイ!》
「う……!」
髪の毛のようなものが首に巻きつく。
相手の体に触れようと手を伸ばすと、なんとか姿を確認することができた。
どうやら人形のようで、綺麗な着物を着ている。
「あな、たは…何が、赦せなかったの?」
《ユルセナイ、赦せナイノ……》
聞こえているのかいないのか、はっきりとは分からない。
それでも、悲しそうにしている姿に嘘はないはずだ。
それが分かっているなら、私にできることはひとつだけ。
「あなたの、話…聞か、せて、くれる?」
《……》
小さい体を抱きとめるのと同時に、私の意識は真っ暗闇へと引きずりこまれていった。
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