皓皓、天翔ける

黒蝶

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第7章『複合』

閑話『感謝の花束』

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「…起きた?」
「ごめんなさい、私また…」
彼女は起きたときいつも辛そうだ。
ここで踏みこんでしまえば戻れなくなることは分かっている。
だから俺は、決して深く尋ねたりしない。
距離が近くなれば苦しくなるから。
「ストーカーの生徒さんのことも守りたかったのかな…」
「え?」
「ごめんなさい。なんでもない」
彼女はまた不思議なことを口にしている。
胸を押さえる彼女に声をかけた。
「…痛む?」
「ううん。ありがとう」
髪で隠れる位置にある傷を気にしながら、星影氷空はマスクを付け直す。
彼女がいつもマスクをしているのは傷を隠すためなのかもしれない。
「それじゃあ、また学校で」
「うん」
彼女を見送り、そのまま手紙を届けに向かう。
恐らく家にはいないだろうと推測し、ある学校に行ってみるとひとりの女性の姿があった。
「こんばんは。梅澤佳代さんでしょうか?」
「そうですが…。郵便屋さんが学校まで、しかもこんな時間にどうされたんですか?」
「あなた個人宛に手紙が届いています」
「私宛に?」
手紙の送り主を見た瞬間、女性は目を見開く。
「そんなはずない。だって彼は事故で、」
「それは読んでから判断してください」
「ここで話すのもちょっと…。暗くて中身までは見えないし、よければこちらへどうぞ」
保健室に通され、女性から出されたお茶を飲む。
彼女はゆっくり手紙を読みはじめた。


【佳代さん

今の俺は、梅澤先生という存在がいたからあるんだと思っています。
ちゃんと感謝を直接伝えられればよかったけど、色々あって伝えられなくてごめんなさい。
学生時代、ずっと支えてくれてありがとう。
俺に生きる意味をくれてありがとう。
俺を救ってくれてありがとう。
これからも生徒を大切に、俺が大好きな梅澤佳代先生でいてください】


「理人君…」
「新田理人様は、あなたにこちらを贈るつもりだったようです」
彼から聞いたブーケの特徴を元に、同じものを再現してみた。
これで彼が晴れやかな気持ちで過ごせるかは分からないが、できることは全てやるのが俺のモットーだ。
「もっと早く気づいていれば、彼が死ぬことはなかった」
「彼が大切に想うあなたを、あなた自身が忘れてしまわないようにしてください。それがきっと1番の弔いになります」
あの様子だと、事故ではなく殺人だと気づいているのだろう。
突き飛ばした人間がどうなったのか…それは、今朝の新聞が手に入るまで分からない。
もっと早く気づいていれば、という気持ちはよく分かる。
だからこんなに気分が沈むのか。
「……らしくない」
誰にも届かない言葉をただ呟く。
気持ちが軽くなることはなく、苦さだけが重く残った。
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