皓皓、天翔ける

黒蝶

文字の大きさ
上 下
25 / 236
第4章『暴走』

第21話

しおりを挟む
「あ、れ……」
「気づいた?」
氷雨君の不安げな表情を見て起きあがろうとしたけれど、やんわり止められる。
「まだ無理しない方がいい」
全身から痛みがなくなっていたけれど、まだ頭がくらくらする。
言われたとおり横になると、氷雨君は申し訳なさそうに呟く。
「多分瘴気にあてられたんだ」
「しょう、き?」
「怨念を溜めこみすぎた死霊の体から出る真っ黒な煙って表現すると分かりやすい?」
「さっきの…」
「生身の人間が吸った事例がないからどう対応すべきか分かってなかったけど、やっぱり吸いこんだらいけないものだったんだ。
ガスマスクを外したまま会いに行ったでしょ?…ごめん。それがきっとよくなかったんだ」
そこまで謝らなくてもいいのに、というのが正直な感想だった。
外したのも、それでいいと思っていたのも私だ。
「ひさめく、悪くな……。は、したの、私…から」
「舌、あんまり回らないみたいだね」
ちゃんと伝えたいのに、上手く言葉が出てこない。
氷雨君は分かっていると言いながら頭を撫でてくれた。
「俺がちゃんと見てなかったのも悪いのに、悪くないなんて…君は本当に優しいんだね」
「……」
私は全然優しくなんてない。
首を少し横にふると、彼は不思議そうに真っ直ぐ見つめてくる。
「君がどれだけ否定しても、君の優しさであのお客様は…中島さんは救われた。
君にお詫びとお礼を伝えておいてほしいって話していたよ」
その言葉に安心しつつ、外の景色を見てみる。
いつも往路はお客様と話をしながら見ているけれど、復路は寝てしまうから見たことがない。
「空、綺麗……」
「今日は星がよく見える。普段はもう少し雲がかかるんだけど、ばっちり晴れているからかな」
きらきら輝く星は私の心を癒やしてくれる。
それと同時に、ひとつ疑問が浮かびあがった。
ただ、今の状態では尋ねるのも難しい。
「何か飲めそう?水かお茶がいいよね…」
「お、お茶が、いい」
「分かった。すぐ淹れるから待ってて」
自分で用意できないのが申し訳ない。
ただ、こんなふうに誰かに看病してもらうのは久しぶりで心が温かくなった。
「それを飲み終わる頃にはもうついてると思うけど、歩ける?」
「……うん」
多分としか言いようがないけど、マンションまでならなんとか帰れそうだ。
「この後特に予定もないし、もし動けそうにないなら送っていくけど」
「大、丈夫」
「…そう」
そこまで迷惑を掛けるわけにはいかない。
「学校、来られそうになかったら休んだ方がいい。無理に来ても辛いだろうから」
「あ、ありがとう」
沢山の物語があって、その終着点が死だったと思うと見ていて哀しくなる。
それこそ、硝子越しに見える星の数より多いのかもしれない。
沢山の物語と向き合っているうちに、氷雨君のことも知れるだろうか。
くらくらする頭を抱えて起きあがると、いつの間にか見覚えのある駅に辿り着いていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

世界想像史重要読本全集

あめだま
ライト文芸
―我々「想像世界」に住む生物が、頭の隅にでも置いておくべき著書や、謎多き文書をまとめた。この読本に入れるべき文書が発見されれば、その都度追加していく― 想像世界という世界に存在する本や文章をまとめました。想像世界がどんな世界なのか、直接的な表現を避けて書いていきます。私が綺麗に文章を添削できたと思ったら追加していく方式なので、公開まで結構かかるかもです 内容はかなり短めですが、しっかり意味はありますので。 順番とかもないので気長にお待ちください。 重要人物等はまた別の方法で紹介したいと思っています。 この読本は重要人物のストーリーも含みます。

イマワノキワ -その時に私を呼んでー

たまひめ
ライト文芸
足の悪いばあちゃんと、ひっそりとした生活を送る 希和(きわ)は、卑弥呼から繋がる不思議な力を持っていた。 自然や動物に愛され、かわいい猫ちゃんが希和を守る。 世の中の理不尽な事件に、愛情を持って立ち向かっていく。 恋あり、闘いあり、、、、、乞うご期待!! 初めての投稿です。 皆さんの『お気に入り』登録に、天にも昇るように嬉しいです。 近々、お礼の気持ちとして、挿し絵をアップ出来れば  いいなぁと思っています。 表現、誤字、脱字 等、間違いだらけですが、 どうぞ、よろしくお願いいたします。

夢の国警備員~殺気が駄々洩れだけどやっぱりメルヘンがお似合い~

鏡野ゆう
ライト文芸
日本のどこかにあるテーマパークの警備スタッフを中心とした日常。 イメージ的には、あそことあそことあそことあそこを足して、4で割らない感じの何でもありなテーマパークです(笑) ※第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます♪※ カクヨムでも公開中です。

【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!

夕姫
ライト文芸
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の1期生として活動する、清楚担当Vtuber『姫宮ましろ』。そんな彼女にはある秘密がある。それは中の人が男ということ……。 そんな『姫宮ましろ』の中の人こと、主人公の神崎颯太は『Fmすたーらいぶ』のマネージャーである姉の神崎桃を助けるためにVtuberとして活動していた。 同じ事務所のライバーとはほとんど絡まない、連絡も必要最低限。そんな生活を2年続けていたある日。事務所の不手際で半年前にデビューした3期生のVtuber『双葉かのん』こと鈴町彩芽に正体が知られて…… この物語は正体を隠しながら『姫宮ましろ』として活動する主人公とガチで陰キャでコミュ障な後輩ちゃんのVtuberお仕事ラブコメディ ※2人の恋愛模様は中学生並みにゆっくりです。温かく見守ってください ※配信パートは在籍ライバーが織り成す感動あり、涙あり、笑いありw箱推しリスナーの気分で読んでください AIイラストで作ったFA(ファンアート) ⬇️ https://www.alphapolis.co.jp/novel/187178688/738771100 も不定期更新中。こちらも応援よろしくです

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

王妃の愛

うみの渚
恋愛
王は王妃フローラを愛していた。 一人息子のアルフォンスが無事王太子となり、これからという時に王は病に倒れた。 王の命が尽きようとしたその時、王妃から驚愕の真実を告げられる。 初めての復讐ものです。 拙い文章ですが、お手に取って頂けると幸いです。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...